桜稜学園野球部記

神崎洸一

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さて、あれからは投手戦となった。
2塁は踏ませても、決定打が出ずに無得点の
まま試合は続いていた。
7回を終えてなお、0-0。

「8番、ピッチャー 勝くん」

(ここで打てなきゃもう2度と俺に打席は回ってこない!)

「ストライク!」

(でも…)

「ボール!」

(僅かでも可能性があるなら、俺はそれに…)

「ストライク、ツー!」

(賭けたいんだ!!)

「レ、レフト!」

「勝くんここで初安打!続いてここまで2打席連続三振の1年生、綿鍋」

(ヒットを打てなくたって、良い。1イニングだけでも長く野球が出来たら、それで良い。だから…)

「初球いきなりバント!うまい所へ転がる!」

「クソがっ!」

「アウト!」

「送りバント、成功!」
 
「1番、センター 口羽くん」

「もう打たせなんて…しねぇよなぁ!!!」

「ストライク!バッターアウト!」

(ああいうのがプロへ行くんだろうな…いや、相手は俺より1つ年下なんだ!打てないハズはない!)


キィン!

「ふざけんな!」


「ショート抜けた!ランナー三塁ストップ!」

「これが…俺の夏なんだ!俺は三年生なんだ!」


「ついに先制!主将土志田のタイムリー!」

(マジで打たねばなるまいな…だるい)





「ストライク!バッターアウト!」

「落ち着いて佐治くんは抑えました」

「三年生佐治くん、とても悔しそう」 

「俺は一応4番だぞコラ」


「なあ、俺が打とうか?」

「いや、いい。俺は足の早さと身長には自信がある」

「ヒット打てや」

「1番、センター 長宗我部くん」

(意地、なんだよなぁ)

「打ったカーブは三塁線を緩く転がる!」

「さ、せるかぁ!」

「セーフ!」

「一塁セーフ!ヘッドスライディングで一塁を掴んだ!」

「内野安打…か」

「俺が打って投げて勝ちやな」

「じゃあワイは打たんでええんか」

「…おい、ゲッツーかも知れないだろ」

(ここで相手が1番喜ぶのはゲッツー…ならそうする機会を消してしまえばよい。なら?)

「送りバント上手い!誰が捕るかで迷ってしまった!送りバント成功!」

同点のランナー二塁へ

「3番 キャッチャー 北くん」

(一球一球が大事になってくるでな…)

「北みたいな奴がいちばん終盤で迎えたくないタイプのバッターだろうな」

「当然だよ。うん」
 
「終盤ともなればスタミナが尽きてコントロールが危うくなってくるからな」

「このように?」

「ああ、そうだ」

「4番、ピッチャー 南くん」 

(奴はさっき歩かせた影響もあるし動揺しとるようやな…したらば、甘い球を逃さずに打たねばならん)

カキィン!

快音が響く。
打球は追うレフトのグラブに

入っていた。
数の少ない三年生としての意地。
それは佐治を突き動かす原動力と化すには充分だった。


「…畜生め」

「南の分もワイが打ったるから安心せい」

「ハッ、断る」

「ああ、そう」



「初球だ!初球を捉えた!」


「長宗我部走る!走る!」



「ホームイン!同点!1対1!」

「8回ウラ、ツーアウト一三塁で6番橋本」

(ココで打てばヒーロー、その事実が俺を奮い立たせる!)

「ああいうこと思ってんだろうな」

「…よく分かるね、君」

「いやなに、付き合いも長けりゃそれくらい分かるんだぞ」

「そういうものなのかなぁ」

「知らねぇや」

「全く、キミというヤツは」

「田村も変人ではあろうね」

「さあ、どうだろうか」


響いたのはバットが球を捉えた音。
響いたのは北がホームを踏んだことに対する歓声。
文章にすればこれだけだが、しかし、
その場にいる少年達にとっては筆舌に尽くしがたき感情なのである。

そんな小説家チックな考えから現実への回帰は直ぐ訪れた。一条はあっさり三振した江島を眺めつつ二塁の守備へとつく。


1対2。
そのスコアで初戦突破である。
最後のバッターは投手の勝であり、色々背負った、背負ってしまった彼の気持ちは一条には
想像がつかないものであった。

しかし、理解したい気持ちでは無い。
考えても考えきれないだろう、そう結論付け、球場を去る、そういう人間なのが一条だった。
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