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「はぁ、はぁ、」

息を吐き、息を吸う。

周りを見渡しても、誰も立っている人はいない。つまり、優勝したのだ。

「優勝、セイン!」

そう宣言されたのは、俺の意識がなくなる数秒前だった。




夢を見ていた。

「おっと、失礼」

商店街の真ん中で、肩が当たってしまった。

「いえ、こちらこそすみません」

その男性は、筋骨隆々とは縁の無いような細い体に黒いローブを羽織った若者だった。

「お兄ちゃん危ないよ!このあと大事なお祭りがあるんでしょ!」

「あぁ、そうだな。気をつけなきゃな。」

妹のミイが心配して声をかけてくれる。

今日は大事な大事なお祭りだ。
勇者を決めるという、数年に1度の…。

俺はこの大会で優勝して、勇者になって莫大な富を手に入れるのだ。そして、母と妹2人を養うのだ。

我が家系はもともと貴族出身なのだが、父が大罪を犯したらしく、父は処刑。妹と母以外は全員処刑された。らしい。

らしいと言うのは、俺が成人してから母から聞いただけで、俺とミイの2人は当時小さかったから知らなかった。

国を追いやられ、このマリダ王国に逃げ込んだ。

おっと、また考え込んでしまった。また肩をぶつけては大変だ。


妹と商店街の武器屋で預けていた武器を取りに来たんだった。

「あいよ、これだろ。今日はアレに出るんだろ?頑張れよ」

「ああ、ありがとう。」

そう言って俺のロングソードを受け取った。




「…にい…ん」

「おに…ち…」

「お兄ちゃん!!」


っは!?

目が覚めると、見知らぬ天井と、目からこぼれ落ちる涙がかわいらしい妹の姿が見えた。

「ここは…?」

たしか大会の途中だったはず…。

「ここはぁぁぁーあぁあああー!!!闘技場のぉぉぉおぉー!!」

「医務室です。その子ずっと、お兄ちゃん、お兄ちゃんって泣いてましてね。10分ぐらいですかね。」

医務室のベッドの上にいるらしい。

「あなたが俺を治してくれたのか?」

「治したと言っても回復薬をぶっかけただけですけどね。あ、あとで請求しますのでご安心ください。」

なにも安心できないが、とりあえず安心した。手足もついてるみたいだし、体が重いくらいだ。俺の体にしがみつく妹の重さなのか、武技の使いすぎなのかはわからないが。


妹が泣き止んだ頃、医務室の入口から1人の男性が歩いてきた。

「これは国王陛下、ようこそいらっしゃいました。今回の優勝者はこちらの者でございます。ボロボロではありますけどね。」

この医務員なんて言った?ボロボロだと?あ、いや、違う。国王陛下?だと?

「君が今年の勇者か…。随分ボロボロみたいだが、今年の100人バトルロイヤルはそんなに大変だったのか?まあそれはいいんだ。」

それはいいってなんだ。とは口には思っても出さない。国王陛下であるぞ。

「実は火急の案件がある。今日という日に限って、スタンピードが起きた。今すぐ街のマモロード方面に向かってくれんか?」

国王陛下がいらした時、妹もビックリして背筋が伸びきってる。体の重さ的にエムピーガンを飲めば治るだろう。

昔勇者と共に旅していたマリダ様が考案したこのエムピーガンなら、直ぐに武技が出せるようになる。さすが国王様のご先祖さまだ。

ちなみにエムピーガンはうちの国の特産であったりする。作り方は企業秘密らしいが、ほぼほぼは解析されてるらしい。

「おいどうした?大丈夫か?無理そうなら冒険者ギルドに(今年の勇者は無理そうですぅ(めっちゃ高い声))と伝えようか?」


いやまた考え込んでしまった。
今の声どっから出てるんだろうか。さすが国王様だ。

「いえ、失礼しました、エムピーガンを1つ頂ければすぐにでも行けそうです。」

「そうか、それは良かった。あ、エムピーガンはあとでつけておくので、安心して行ってきてくれ。」

なにも安心できないような発言だが、国王様であるから安心するしかない。

「わかりました。マモロード方面ですね。たしか東だから右ですよね。では失礼します。」


妹を置き去りに。


「大丈夫かなあの勇者…。」

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