7 / 12
7
「エミリー、貴女大丈夫なの?」
所長のポーラが気遣わしげに尋ねた。エミリーの顔色の悪さを心配しているのだ。
エミリーがアランへ、嘘の引き継ぎを告げたあの日から一週間。エミリーは無理矢理、職場に残れるような用事を作り出した。
エミリーはポーラへ「子どもたちへ贈り物を作りたい。」と伝え、定時後も託児所の一室を借りる許可を貰った。ポーラは快く了承してくれた。
勤務時間を終え、日が落ちる前に帰る。アランが帰ってくるのは、エミリーが帰った後だが、残業をしていることで、アランが帰ってからも家事でバタバタしていても、「疲れたから」と早めに就寝しても、不自然ではない。そんな子ども騙しな方法で、アランと過ごす時間を極力減らしていた。
エミリーが顔色が悪いのは、身体的な疲れが原因ではない。自分で作り出した状況であるにも関わらず、アランとの時間がないことが、エミリーにとって大きなストレスとなっていた。
「エミリー、今日は帰りなさい。」
まだ出勤したばかりだが、ポーラは厳しい声色でそう言った。
「そんな顔色の人、子ども達と遊ばせる訳にはいかないわ。」
「す、すみません。」
「環境が変わるから忙しいと思うけど、子ども達も私達も、最後まで元気な貴女に会いたいのよ。」
ポーラに諭されるように言われ、エミリーはハッとした。大事にしていた仕事を、疎かにしていたことに漸く気付いたのだ。エミリーはポーラへ頭を下げた。
「所長、すみません。今日は帰って、明日からはしっかり働きます!」
「それがいいわ。」
笑顔で頷いたポーラに見送られ、エミリーは身支度をして帰ろうとすると、先日喧嘩していたジャンとケニーが走り寄ってきた。
「エミリーせんせい!もうかえるの?」
「ごめんね。体調が悪くて、今日は帰るわね。」
つい子ども達へついてしまった嘘に、エミリーはチクリと心が痛む。
「やっぱりな!せんせい、げんきなかったもん。」
「わたしたち、しんぱいしていたんだよ!」
子ども達にも気付かれるほど、自分の様子が可笑しかったのだと、エミリーは猛省した。そんなエミリーへ、ジャンとケニーはおずおずとある物を取り出した。
「これは・・・。」
「せんせいにおみまい!ふたりでつくったんだよ!」
「きのう、こっそりつくったんだ。きづかなかっただろ?」
粘土で作られたそれは、可愛らしい花の形をしていた。思い返すと、昨日二人は教室の隅でこそこそと遊んでいた。仲良くしているので見守っていたが、まさかこんな物を作っていたとは。エミリーの胸はじわじわと暖かくなった。
「二人ともありがとう。おみまいのおかげで、先生すぐ元気になれるわ!」
エミリーは涙を堪え、笑顔を見せると、ジャンとケニーも満面の笑顔で頷いた。
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました
Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい…
ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。
忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。
だから私は婚約者を尾行した。
するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。
まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!!
※誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。