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しおりを挟むアランは、エミリーの問いに困ったような表情を浮かべ、暫く言葉を選んでいるようだった。
「・・・エミリーは今の仕事を大切していただろう。とてもやりがいを感じているようだった。」
「え、ええ。そうね。」
アランは、懐かしそうに目を細め、言葉を続けた。
「手先が不器用で、工作の時間にいつも泣いていたケニーが、初めて工作に取り組めた日。」
「え?」
「喧嘩が多いジャンが、初めて友人にごめんね、と言えた日。」
「そ、れは・・・。」
エミリーが食卓で語っていた子どもたちの何気ない日常だ。アランは言葉数が少ない為、エミリーが殆どおしゃべりしている。聞き流されているかな、と思っても、アランが時折頷いてくれる食卓で話すことが、エミリーは大好きだった。
みんなでかけっこをした日。大嫌いな人参を初めて食べられた日。花の種を植えた日。弟が生まれてお兄ちゃんになった日。子どもたちから貰った数えきれないプレゼント。アランは、ひとつひとつ覚えてくれていた。
「・・・そんなに覚えているとは思わなかったわ。」
「エミリーは、子ども達の話をしている時が一番キラキラしているからな。」
自分の宝物を、アランも一緒に大事にしてくれていたようで、エミリーの目にはじんわりと涙が浮かんだ。
「だから、俺の都合で仕事を辞めさせるのは申し訳なくて、単身赴任をしないといけないと思ったんだ。」
「アラン・・・。」
「異動の話をした時に、エミリーが迷わず俺に着いてくることを考えてくれて、すごく嬉しかった。だけど、エミリーに退職して本当に良いのか、と、しっかり気持ちを聞くべきだとも思っていた。それを分かっていても聞けなかったんだ。”やっぱりこっちに残るわ”、と言われるのが怖かった。」
ごめん、と謝られ、額に口づけを落とされる。エミリーは、アランの真意が分かり、漸くホッと息をついた。アランがエミリーの仕事を大切にしてくれている事が嬉しかった。
「アラン。私は確かに仕事にやりがいを感じているし、子どもたちのことも大切だわ。だけど、私はアランと離れるのは耐えられないの。ずっと一緒にいたい。」
「ああ。俺も隣にエミリーがいてほしい。きっと苦労を掛けると思うけど、どうか着いてきてほしい。」
エミリーの真っ直ぐな気持ちに、アランも真剣な眼差しで応える。どちらともなく、唇同士が合わさり、離れた後は暫く微笑みあっていた。
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