【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ

文字の大きさ
10 / 12

10

しおりを挟む


 アランは、エミリーの問いに困ったような表情を浮かべ、暫く言葉を選んでいるようだった。


「・・・エミリーは今の仕事を大切していただろう。とてもやりがいを感じているようだった。」


「え、ええ。そうね。」


 アランは、懐かしそうに目を細め、言葉を続けた。



「手先が不器用で、工作の時間にいつも泣いていたケニーが、初めて工作に取り組めた日。」



「え?」



「喧嘩が多いジャンが、初めて友人にごめんね、と言えた日。」



「そ、れは・・・。」


 エミリーが食卓で語っていた子どもたちの何気ない日常だ。アランは言葉数が少ない為、エミリーが殆どおしゃべりしている。聞き流されているかな、と思っても、アランが時折頷いてくれる食卓で話すことが、エミリーは大好きだった。


 みんなでかけっこをした日。大嫌いな人参を初めて食べられた日。花の種を植えた日。弟が生まれてお兄ちゃんになった日。子どもたちから貰った数えきれないプレゼント。アランは、ひとつひとつ覚えてくれていた。




「・・・そんなに覚えているとは思わなかったわ。」
 



「エミリーは、子ども達の話をしている時が一番キラキラしているからな。」


 自分の宝物を、アランも一緒に大事にしてくれていたようで、エミリーの目にはじんわりと涙が浮かんだ。




「だから、俺の都合で仕事を辞めさせるのは申し訳なくて、単身赴任をしないといけないと思ったんだ。」




「アラン・・・。」




「異動の話をした時に、エミリーが迷わず俺に着いてくることを考えてくれて、すごく嬉しかった。だけど、エミリーに退職して本当に良いのか、と、しっかり気持ちを聞くべきだとも思っていた。それを分かっていても聞けなかったんだ。”やっぱりこっちに残るわ”、と言われるのが怖かった。」


 ごめん、と謝られ、額に口づけを落とされる。エミリーは、アランの真意が分かり、漸くホッと息をついた。アランがエミリーの仕事を大切にしてくれている事が嬉しかった。



「アラン。私は確かに仕事にやりがいを感じているし、子どもたちのことも大切だわ。だけど、私はアランと離れるのは耐えられないの。ずっと一緒にいたい。」




「ああ。俺も隣にエミリーがいてほしい。きっと苦労を掛けると思うけど、どうか着いてきてほしい。」


 エミリーの真っ直ぐな気持ちに、アランも真剣な眼差しで応える。どちらともなく、唇同士が合わさり、離れた後は暫く微笑みあっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

【完結】ある夫婦のちょっと変わった、すれ違い話。

たまこ
恋愛
職人気質のアーサーと、アーサーを好きで堪らないメアリーの、ある日のお話。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

【完結】没交渉の婚約者より、図書館で会った人の方が素敵でした

ぽぽよ
恋愛
レイチェルには、十年間一度も会ったことのない婚約者がいた。 名前しか知らない、奇妙な婚約。 ある日、図書館で出会った男性に、レイチェルは心を奪われる。 穏やかで優しい彼に惹かれていくが、レイチェルには婚約者がいた―― 見た目だけでは分からない、本当に大切なものとは? すれ違いを描く、短編ラブストーリー。 ショートショート全5話。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

処理中です...