9 / 41
シャーロットside
9
しおりを挟む夜も更けた時間、コンコンとノックをし入室許可を得る。
「ソフィア、こちらに来るなんて珍しいじゃないか。」
旦那様と、夫ハロルドがまだ執務中だった。
「お忙しい中、申し訳ありません。旦那様、少しご相談があります。」
「今日は雪でも降るのかな。ソフィアが私に相談なんて初めてじゃないか。勿論何でも聞くよ。」
旦那様は、国務大臣や公爵家当主としての執務の際は、厳しい印象だが、自身の中の者、ご家族だけでなく使用人にも気安い方だ。使用人を大事にしてくれる方なので、私の相談に喜んでいる様子だ。夫は訝しそうにこちらを見ている。入室時からずっとだ。見ないでほしい。
「ありがとうございます。それでは、遠慮なく。旦那様、お嬢様とハリー様のご婚約ですが、お嬢様にお伝えし忘れていることがあるようですが。」
語気を強めて、旦那様を見据える。視界の端で、夫が口の端を上げているのが見えた。
「なっ、何のことかな?ソフィア、誤解があるようだ。」
怯えたような表情を見せる旦那様と、笑みを深める夫。夫の忠誠心の無さに呆れながら話を続ける。
「旦那様が考えおられることは想像できますし、私も概ね同じ思いです。ですが、お嬢様を傷つけるのは本末転倒ではないですか。」
「シャーロットが・・・」
「ええ、愛の無い結婚に怯えておられました。あのように動揺なさるお嬢様は初めてでした。」
「愛の無い結婚なんて、私は言ってないぞ!」
「どうせ、旦那様が誤解させるような説明をなさったんでしょう。」
夫が、主人への言葉とは思えない言葉を投げつけ、旦那様を落胆させていた。・・・まぁ、私もお嬢様へは辛辣な態度を取ることも多いので人のことは言えないが。
「旦那様、どうかきちんとお嬢様にご説明なさってください。そうでないとお嬢様が余計傷つくことになります。」
「むむむ・・・。」
口を尖らせ、子どものような態度の旦那様に、夫婦で顔を見合わせる。しばらく返事を待ったが、旦那様が黙り込んでしまったので、私は諦めて挨拶だけして退室した。
「なぁ、ソフィア、私に厳しくないか?一応当主なのだが・・・。」
「ソフィアは旦那様に厳しいのではありませんよ。お嬢様を害する者に厳しいだけです。」
「害するって・・・私はいつもシャーロットを想っている!」
「だけど今回のことは、お嬢様のためではなく、旦那様のためのように窺えますが?旦那様もご自覚があるからこそ、ソフィアに何も言えなかったのでしょう。」
「うっ・・・お前達、夫婦揃って厳しすぎないか・・・」
ハロルドは呆れながらも、先程の妻の様子を思い出していた。通常であれば、侍女が当主へあそこまで指摘するのは褒められたものではない。だが。
(あのときもそうだったな。)
ハロルドとソフィアが公爵家に来てすぐの頃、シャーロットが王子妃候補となり邸内はしばらく落ち着かなかった。ハロルドとソフィアは研修に向かう途中に、たまたまベテランの先輩使用人達がシャーロットを悪く言っているところを通りかかってしまった。使用人の一部が、シャーロットのことを「王子妃には向いていない」と考えている風潮があったのだ。ハロルドは(後から上司へ相談しよう)とその場を離れようとしたが、ソフィアはその場ではっきりと断言した。
「あれほど努力されているお嬢様こそが、誰よりも王子妃に向いております」
新人ソフィアの剣幕に、先輩達も怯んだほどだった。ソフィアは一度も怯むことなく、先輩使用人達を見据えていた。それから、なかなか研修に来ない二人を上司が探しに来た為、ハロルドが状況を伝え、シャーロットを悪く言う使用人はあっという間に一掃された。
この時からハロルドは、真っ直ぐすぎるソフィアに恋に落ち、長い年月をかけて口説き落としたのだ。
163
あなたにおすすめの小説
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
殿下の御心のままに。
cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。
アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。
「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。
激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。
身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。
その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。
「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」
ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。
※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。
※シリアスな話っぽいですが気のせいです。
※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください
(基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません)
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる