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ハリーside
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しおりを挟む三年後。三十六歳になった俺が、辺境騎士団長となった頃、第二王子と隣国王女との婚約が成立した。シャーロットは公爵領地の経営補助を始めた、と父親から聞いた。
(後、少し。後少しだ。)
俺に王宮騎士団長の座を譲るために、父親も色々と手を回してくれていた。辺境騎士団長をしばらくは勤めた後で、王宮騎士団長となることとなった。辺境騎士団長の業務は激務で、しかも騎士たちは荒くれ者が多く、それを纏めるのは至難の技だった。
(だけど、俺よりもずっとシャーロット嬢は長い間大変な思いをしていたんだ。)
いつも思い出すのは、訓練所を覗く、憂いを帯びたシャーロットの横顔だった。どうか、彼女を笑顔にさせる存在になりたい、と何度も夢見ていた。会えない日々が彼女への想いを増幅させていた。
◇◇◇
それから、更に三年後。
ようやく、王宮騎士団長となり、すぐにハワード公爵へ筆を取り、シャーロット嬢の婚約の申し込みをした。通常であればこちらが公爵家に赴くのだが、公爵は手紙を貰うや否や、家に飛んで来た。
「・・・いったい、どういうつもりかな?」
「いやぁ~ハリーがシャーロット嬢のこと、ずっと好きだったみたいなんだよね~。」
ハワード公爵の背筋が凍るほどの冷たい眼差しを、俺は内心恐ろしく思っていたが、父親はあっけらかんと俺の思いを伝えてしまった。
「・・・は?」
父親はこれまでの経緯を伝えた。シャーロット嬢が王子妃候補では無くなるかもしれないと聞き、そうなったら俺が結婚したいと言い始めたこと、だが申し込めるだけの地位がなかったので地位を得るために辺境へ行き、王宮騎士団長となったこと・・・ハワード公爵は、終始顔をしかめたまま話を聞いていた。
「・・・では、この六年間は約束もしていないシャーロットとの婚約のために努力してきたというのか。」
「はい。」
「・・・もし、シャーロットが第二王子と婚約していたらどうしていたんだ?」
「その時は、それでいいと思っていました。シャーロット嬢が長年努力してきたことが実を結ぶのは良いことだと・・・ですが。」
「なんだ?」
「シャーロット嬢を傷つける王家には任せておけない、と思っていたのも本音であります。」
はぁ、とハワード公爵が息を吐いた後で、ギロリと俺の父親を睨んだ。
「おい、ラッセル。」
「んー?」
伯爵家の者が取る、公爵に対する態度とは全く思えない、不敬な父だが、二人の仲では昔から許されているらしい。
「お前は!六年前から分かっていたのだろう!何で言わなかった!お前の息子は、今時珍しいくらい騎士道を貫いている人間だ。ちゃんと王宮騎士団長になるまでは俺に言えなかったのだろう。だけど!お前の!その軽薄な口で!俺に一言、伝えることは出来ただろうが!」
公爵は、父の頬を摘まみ上げた。
「いてて!止めてくれよ・・・仕方ないだろう?」
「何が仕方ないだ!もし知っていたら、シャーロットに結婚のことで不安にさせることは無かったんだ!」
そうだ。俺は何故こんな簡単なことに思い至らなかったのだろう。シャーロットが結婚相手が不在であることを思い悩むなんて、少し考えれば分かることだ。
「だから仕方なかったんだって。いいか。シャーロット嬢が二十歳になるまで、仮にも王子妃候補だったんだ。いくらそれが破棄になるかもしれなくても、婚約の申し込みなんてそんな王家に睨まれるようなこと出来るわけ無いだろう。」
「じゃあ、破棄になってからすぐ教えてくれたっていいじゃないか。もう破棄になって三年経っているんだぞ。」
「ハリーは王宮騎士団長になる必要があった。王宮騎士団長になる前に、公爵家と婚約が成立してみろ。公爵家がハリーを騎士団長にしたと捉えられて、心無いことを言ってシャーロット嬢を傷つける輩が出てくるはずだ。もし秘密裏に進めていたとしても、こんな話は絶対にどこからか漏れるんだよ。それよりは、ハリーがシャーロット嬢と婚約したくて必死で騎士団長になったことにした方がずっと印象は良い。まぁ、それが事実でもあるしな。」
「う・・・。」
ちゃらんぽらんだと思っていた父は、意外にも俺のこともシャーロットのことも考えた上で動いてくれていたらしい。
「まぁ、ごちゃごちゃ言ったが、本当はハリーの思いを俺から伝えるのは違う、と思って言わなかっただけだ。」
カラカラと笑う父には、絶対に勝てないと思わずにはいられなかった。
◇◇◇
お知らせ:
新作『堅物監察官は、転生聖女に振り回される』本日より投稿しておりますので、読んで頂けると嬉しいです!
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