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しおりを挟む魔術師の声が消えた後。コンコンと扉がノックされた。
「フィリップ殿下。物音がしたようですが如何いたしましたか?」
(この声はミーサだ!上手くいけば助けを求められるぞ!)
「殿下?入りますよ?」
ミーサはフィリップが物心つく前から身の回りの世話をしてくれている侍女だ。フィリップが心を許している一人だと言っていい。フィリップは、意を決してミーサの前に現れた。しかし。
「ひぃっ!汚らしいネズミ!殿下の部屋に入るとは!このミーサが許しません!!」
そう言うとミーサはどこに隠し持っていたのか箒を振り回し、フィリップはあわや潰れるところだった。ミーサとフィリップの追いかけっこは長時間続き、フィリップは命からがら逃げだした。
◇◇◇◇
(ここまで話が伝わらないとは……。)
ミーサの箒に叩かれそうになった後も、フィリップは身近な人間へ接触を試みた。ミーサの時の反省を生かし、フィリップは紙に状況を書き、それを相手に渡そうとした。しかし、小さな身体で必死に書いたそれは、側近のローレンスにも、兄の王太子バーナードにも渡す前に叫ばれ、退治されそうになってしまった。王城から叩き出されたネズミ、フィリップは体力も底をつきフラフラと当てもなくうろついていた。
雨も降り始め、身体が水びだしになると容赦なく体温を奪っていく。もう無理かもしれない、そう諦めそうになった時、見慣れた顔が視界を埋め尽くした。
(レナ……?なぜこんな所に?)
殆ど残っていない体力を振り絞り、周りを見渡すとレナの自宅である公爵家の屋敷のそばまで来ていたことに気付く。
(どうせ、レナも叫ぶんだろう……。)
潔癖なレナのことだ。薄汚いネズミなんて一番嫌いな物だろう。そう確信していた。それに、この呪いを依頼したのはレナでは無いかとフィリップは疑っている。しかし、次の瞬間フィリップは温かいものに包まれていた。
(な……。)
レナは汚れることを厭わず、自身のストールをフィリップに巻き付けた。
「貴方……もしかして……。」
(レナ、まさか俺の正体に気付いてくれたのか?!)
「貴方、もしかして、リスさんね?」
(はぁ?!)
突拍子もない言葉にフィリップは目を丸くしたが、十年以上ぶりに見た婚約者の笑顔に余計に目を丸くさせるしかなかった。
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