【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ

文字の大きさ
5 / 55

しおりを挟む


「……今日は何だ?」

 困り果てた顔でレイナルドは婚約者を見た。今日のアメリアも、挨拶の時には既に涙目になっていた。


「うぅ……申し訳ありません」

「……理由は?」

 アメリアは眉尻を下げ視線を彷徨わせており、言っても良いものか思案しているようだった。「……別に罰したりはしない」というレイナルドの一言でアメリアはおずおずと口を開いた。


「わ、私も、殿下をお名前でお呼びしたいです……!」

「なっ……」

 アメリアはレイナルドの瞳をじっと見つめた。まだ短い付き合いだが、アメリアはこうなると梃子でも動かないことをレイナルドは知っている。

 その時、ルパートがテーブルの上に飾られた花をそっと指さした。勿論アメリアに気付かれないように注意を払っている。レイナルドはそこで漸くアメリアの言葉の真意に辿り着いた。

 アメリアが王子妃教育を受け終えこちらに来る少し前まで、この東屋にはレイナルドの従姉である二コラがやって来ていた。テーブルの上の花は二コラが持ってきたものだ。二コラの父は辺境伯であり、辺境伯領の騎士団をまとめあげている屈強な男だ。彼女の父に似てズバズバと物を言う、男勝りな二コラを、レイナルドは苦手としていた。

 二コラもまたウジウジとネガティブなレイナルドに苛立っているようで、会えばいつも叱られていた。そう、先程も「婚約者ができたというのにだらしない」とか「王子教育を真面目に受けるべきだ」とか耳の痛いことばかり言われた。

 レイナルドにとっては苦痛の時間だったが、それを見掛けたのであろうアメリアはどう感じただろうか。「二コラ」「レイナルド」と呼び合う二人を見て、距離の近さを感じたのではないか……実際にはお互いに距離を置きたい間柄なのだが。


「……好きに呼べばいいだろう」

 ルパートはレイナルドの言葉に頭を抱えた。アメリアの瞳には涙がせり上がり、ぽたぽたと流れ落ちた。


「……私は、殿下の許可が無いとお呼びできないのです」

 レイナルドは小さく息を吐いた。そう、アメリアはレイナルドの前では泣き虫で、よく笑う、子どもらしい娘だが、それはあくまでレイナルドの前だけだ。普段のアメリアは、五歳とは到底思えないほどの淑女らしい性格であり、立場を弁えた振る舞いをする人間だ。名前の呼び方一つでも、そう考えることは少し考えれば分かるはずだった。


「アメリア」

 そう呼びかければ、パチリと目が合いレイナルドは落ち着かない気持ちになった。


「……レイ、と呼べ」

「レイ、様?」

「ああ……あと」

 混じりけの無い綺麗な瞳で見つめられてそう呼ばれると、余計に気持ちが落ち着かなくなり、プイと視線を逸らせた。


「……二コラは、従姉は、いつも俺を叱りに来ているだけだ。うんざりしている」

「そ、そうでしたか」

「……アメリアとの時間の方が……まだ、マシだ」


 何故自分は浮気男の言い訳のような言葉を並べているのだろう。ルパートは主の情けない姿を見て、笑いを我慢しすぎて肩を震わせている。もっと上手くフォローできなかったのか。そう思うのに、目の前の婚約者は「うれしい」と小さく呟いて綻ぶような笑顔を見せた。レイナルドの心はまた揺れ始めた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私と貴方の報われない恋

梨丸
恋愛
田舎の男爵家の少女、アーシャには好きな人がいた。 家族同然の幼馴染を好きになってしまったアーシャの恋は報われない……。 主な登場人物 アーシャ  本作の主人公 フェルナン アーシャの初恋 ※アーシャ編とフェルナン編の二編を投稿します。 ※完結後も番外編を追加するかもしれないです。 11/3 完結いたしました。 11/4HOTランキング入りしました。ありがとうございます。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

処理中です...