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しおりを挟むナイジェルに案内されたのは学園内にある応接室だ。申請すれば学生が自由に利用できるようになっている。ナイジェルと共に入室するとそこには仁王立ちのシルヴィアと、その少し後ろにミリーが控えていた。
「レイナルド殿下、その美しいお顔、少々貸して下さる?」
不遜な態度でそう言い放つシルヴィアへ「殿下に不敬だよ」とナイジェルが小声で諫めているのが聞こえる。
「ナイジェル、良い」
「ですが」
「それだけ大事な話なのだろう。シルヴィア嬢とミリーが一緒だとは思わなかったが」
優秀な侍女ミリーは、侍女ネットワークを駆使してシルヴィアがレイナルドへ突撃する情報を入手した。どうしてもレイナルドに物申したいミリーはシルヴィアに同行を願ったのだ。
「私たちのことは良いのです。殿下、手短に申しますが、随分可笑しな噂が広がっていることはご存じかしら」
「……っ、ああ」
「ご存じなのにそのままにしていらっしゃる、と?」
無表情だったレイナルドの表情がぴくりと動いた。矢継ぎ早に責め立てるシルヴィアの言葉に思うところがあったのだろう。
「シルヴィア。殿下は噂への対応はされているよ」
「対応されていても噂が消えてなくては意味がないわ」
レイナルドが一人の女子学生を懇意にしているという噂は、まだ学園に行っていないシルヴィアのような令嬢たちの茶会ですら話題に上がる。そんな噂はすぐには消えてくれないものだ。
「……褒められた行動では無かったと分かっている」
「殿下……」
後悔に塗れた瞳を見てナイジェルは掛ける言葉が見つからないようだった。シルヴィアも流石にこれ以上責める気は無かったようで小さく息を吐いて口を開いた。
「殿下。アメリアには私が噂を伝えました。彼女が知らないまま、他の者から聞いて少しでも動揺すれば攻撃されるのは彼女だからです。心の準備をさせるために伝えました」
「損な役回りをさせてしまって申し訳ない」
「いえ……それを聞いてアメリアは泣いていました」
「……っ」
「幼い頃からの仲ですが彼女が涙を流すところは初めて見ました。彼女は淑女教育が行き届いておりますから」
言葉を失っているレイナルドへミリーが追い打ちを掛けた。
「お嬢様は毎晩泣いておられます」
「な……」
「私たちの前では隠していますが、一人でずっと長い時間泣いているようです」
「そんな……」
「殿下。お嬢様では不十分ですか?殿下の将来にお嬢様は不要ですか?それならさっさと手放してくださらないと困ります」
「……っ」
ミリーの質問に答えは得られないまま、その日の面会は終わった。青褪めたレイナルドは他の者が帰った後もその場を動けずにいた。
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