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しおりを挟む数日後、いつものようにお忍びでやってきたアーネストを、これまたいつものようにミアは案内していた。
「それで、まだレティ嬢はあの噂話を気にしているの?」
アーネストの質問にミアは困り顔で頷いた。
「はい」
「うーん……レティ嬢も頑固というか、思い込むと一直線だからなぁ」
「あの……ミゲル様はこの噂話は……」
「知らないと思うよ。ミゲルは自分の興味のあることしか耳に入らないからね」
「そうですよね」
ミゲルから直接否定されればレティだって信じるだろう。だが肝心のミゲルはこの状況に気付いていないようだ。
「そろそろミゲルにも頑張って貰わないとね」
アーネストが企んだ顔を見せるとミアは神妙に頷いた。
「失礼いたします」
レティがミゲルの執務室に入ると、またしても不機嫌そうなミゲルとにこやかに手を挙げるアーネストが座っていた。レティが一礼して紅茶を淹れ始めると、二人は会話を再開させた。
「それで、ミゲル?噂は本当なのかい?」
「……噂?何の話だ」
「今、王宮に来ている第三王女殿下と君が恋仲だって噂だよ。どの夜会でもこの噂で持ち切りさ」
ぴくり、とほんの一瞬レティの指に力が籠る。じわりと熱いものがこみ上げてくる。レティは必死で心の中で大丈夫、大丈夫と唱えた。噂を聞いてから、いやそれよりもずっと前、公爵家に来た頃からレティは心の準備をしていたのだ。ミゲルはいつか誰かのものになってしまうことを。誰にも分からないように小さく息を整えると茶菓子の南瓜のスコーンをテーブルに並べた。
「……」
「ミゲル?」
アーネストの呼びかけにミゲルは反応しなかった。ああ、やっぱり噂は本当なんだ。いつものミゲルなら「馬鹿なことは言うな」と一蹴した筈だ。一言も発さなくなったのは肯定の意味だろう。
「……失礼いたしました」
レティは小さく告げると彼らと視線を合わせることなくそそくさと退室した。涙が込み上げるが首を振って必死で堪える。グッと飲み込み、レティは厨房へと戻った。
「……っ、うっ……、っく」
足早に廊下を進む。厨房に着いた途端、レティの目からは大粒の涙が溢れた。
ミゲルはいつか他の誰かの人のものになってしまう。レティではない他の人と、公爵夫人に相応しい人と、結ばれるのだ。公爵家に来た時からそれは分かっていた。充分に分かっていた、それなのに。いつも不愛想で冷たいくせに、優しくするから。レティの作った料理を食べる時だけ、瞳が穏やかだから。レティはずっとずっと昔から押し寄せる想いに何度も抵抗していたのに、気付いた時には絡めとられてしまっていた。
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