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第二部
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しおりを挟む「……何よ」
視線の合わないジャックへ、エラはそう声を掛けることしか出来なかった。不機嫌なままの彼にどんどん苛立っていく。
「……」
「目が覚めない方が良かったって言うの?ふん、だったら悪かったわね」
可愛くない言葉だけは考えなくてもぽろぽろ出てくる。あまり自覚は無いけれど長い間眠っていたというのなら、目覚めた時あんな風に怒鳴られたのは納得がいかない。喜んで欲しい、という想いはジャックには難しいことだと分かっていた。それでも起きたばかりに声を荒げられたことが、今になってエラを寂しくさせた。
「……違う」
「だったら何で……」
「腹立ってんだよ」
「だから何で」
「お前にじゃない、自分にだ」
「え?」
エラが目を丸くしていると、ジャックは彼女の傍に近付き、ベッドサイドの椅子にガタンと大きな音を立てて腰掛けた。所在無さそうに視線を彷徨わせ、ガシガシと頭を掻いている。
「……俺が守るつもりだったのに、何にもできなかった」
「……っ、それは相手が悪かっただけで」
「それどころかお前に守られて……お前はぶっ倒れるし、全然起きねーし」
「……心配かけて悪かったわよ」
珍しく謝罪の言葉を口にしたエラを見て、ジャックは少し驚いた顔を見せた後、漸く表情を緩めた。
「やっと起きたと思ったら、自分のことは気にしねーで俺のこと心配してるし」
「それは……」
「……三か月間、生きた心地がしなかった。お前がもう起きないんじゃないかって」
「ジャック……」
エラはハッとした。以前ジャックは物心ついた頃から身寄りが無く、この国に来て騎士になってからも一人だったと話していた。この塔に来るまでずっと虚しかった、と。エラが眠り込んでから、また一人になるのだと彼が感じていたのだとしたら……。
「ちゃ、ちゃんと食事は取れていたの?睡眠は?ちゃんと毎晩眠っていた?まさか床の上で座ったまま寝たりしてなかったでしょうね?」
「ふん、母親かよ」
「だって……!」
「あいつらがうるせーからな。無理矢理食わされた。夜はベッドで横になるまで見張られてたし、最悪だった」
涙を滲ませて尋ねるエラへジャックは口を尖らせて答えた。講師たちはエラを思ってそうしてくれたのだろう。エラが目覚めた時に、ジャックがぼろぼろになっていたらエラが悲しむであろうことを彼らはよく知っていた。
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