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本編
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「フランチェスカに謝ってない?」
帰りの馬車の中、マルコは目を大きく見開いて声を上げた。
「いやいや、せっかく二人っきりにしてあげたじゃないですか。一体何をしてたんですか」
マルコはアーネストを非難するように言った。そう、今回の訪問はアーネストがフランチェスカへこれまでの非礼を謝罪するためのものだった。そのために溜まりに溜まった仕事を必死に片付け、どうにか時間を捻出してきたというのに肝心な話はできていないと聞きマルコは呆れ切った。
「……客室のことで、その」
アーネストが口籠るのを見て、マルコはああ、と納得したように頷いた。
「ロレンツォお兄様でしたっけ?そのお兄様と近くの部屋に滞在してるって聞いてやけに動揺してましたもんね。殿下ったら、やらしー」
何を想像してるんですか、とマルコはけらけらと笑った。アーネストはマルコの言葉にぎょっとし、慌てて頭を振った。
「な……っ!ち、違う!フランチェスカの名誉を傷つけるような噂が流れるのではないかと心配しただけだ」
「えぇ?サルヴァトーリ公爵家へそんな戯れ言ぬかすような人間いますかねぇ」
マルコはおどけたようにそう言ったのを聞き、アーネストは返す言葉も無かった。アーネストだって分かっていた。フランチェスカに不名誉な噂が流れる確率は低いだろう、と。だが、言わずにはいられなかった。
「二日掛けて来て、部屋の文句言って帰るなんて小姑じゃあるまいし」
「う……反省している」
アーネストは俯いたまま言葉を続けた。
「……フランチェスカは、結婚しなくても良いと話していた」
「はい?」
「結婚しなくてもいいから外聞が悪かろうと構わない、と」
「ああ、なるほど」
フランチェスカが言いそうなことだ。マルコは頷いた。そして顔色の悪いアーネストを胡乱な目で見つめた。
「それで?」
「……なんだ?」
「それで、なんで殿下はそんなに落ち込んでいるんですか?」
「……私は落ち込んでなどいない」
「誰がどう見ても落ち込んでいるようにしか見えませんよ」
マルコの言葉にアーネストは心底驚いたように目を瞬いた。
「そう、なのか?」
「はい、とっても」
マルコが大袈裟に頷いて見せる。アーネストはほんの少し眉根を寄せた。
「殿下」
「……なんだ?」
「殿下はなぜ落ち込んでいるんでしょうね?フランチェスカが美丈夫のお兄様とどうなろうが、一生独身だろうが、殿下には口出しする権利など無いのに」
「……私はフランチェスカの友として、だな」
「そんなの俺だって彼女の友人ですよ。殿下、友達なら友達が決めたことを応援するもんです」
よっぽどのこと以外はね、とマルコは付け加えた。
「殿下はどうして友人の決めたことを応援できないのでしょうね?」
マルコの問いに対する答えは無く、アーネストはぼんやりと窓の外を見つめていた。マルコは目の前の友人の戸惑いを見て僅かに口角を上げた。
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