王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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本編

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「フランチェスカ。こちらでの生活は慣れたかな?」

 公爵領に滞在して数ヶ月経ったある日のこと、珍しく朝食を共にしたロレンツォからそう問われフランチェスカは微笑んで頷いた。

「ええ。お兄様や皆様のおかげで毎日快適に過ごしていますわ」

「それは良かった」

 ロレンツォは目尻を細めて頷いた。領地での生活は穏やかでゆったりと時が過ぎていく。ただ……フランチェスカの頭に想い人のことが過る。

 フランチェスカが領地に来たのは、長年に渡って蓄積された心の傷を癒すためだ。しかし、その心の傷の元凶が頻繁にフランチェスカに会いに来るのだ。

 元来優秀なアーネストはあれこれともっともらしい理由を付け王都から公爵領までの道路を整備した。そのため、元々丸二日掛かる道のりが短縮され一日で公爵領まで来れるようになったのだ。

 また、「近隣の領地に用があったから」などと言って公爵領へ来てはフランチェスカと取り留めのない話をして王都へと帰っていく。アーネストを毛嫌いしているサラからすれば「公爵領にまで来ず真っ直ぐ帰れや」と腹立たしい限りだ。こんなにしょっちゅう顔を合わせていればフランチェスカの傷が癒える暇も無い。

 度々顔を合わせていると、いつかサラがアーネストへ無礼な物言いをしないかフランチェスカは心配で仕方がない。主として王族へ失礼な振る舞いはしないよう重々言い聞かせてはいるが無鉄砲な面があるサラがいつ爆弾を落とすか分からない。

 いつの間にか考え込んでしまったフランチェスカの表情を見て、ロレンツォは口を開いた。

「たまには一緒に出掛けないか?」

 ずっと多忙だったロレンツォの急な外出の誘いにフランチェスカは目を瞬いた。

「お兄様、お忙しいのでは?」

「いや、一日くらい構わないさ。フランチェスカのおかげで執務も捗っているしね」

 そう言って微笑むロレンツォは麗しく、もしここが夜会であれば未婚の令嬢達がきゃあきゃあと騒ぎ立てていただろう。

 ロレンツォの提案にどう返答するかフランチェスカは悩む。外出の誘いは嬉しいが、多忙なロレンツォが休日を取れるならゆっくり休んでほしいとも思う。そんなフランチェスカの思いに気付いたのかロレンツォは優しく笑った。

「休みを取っても鍛錬するくらいしかすることもないしな」

「ですが」

「フランチェスカが付き合ってくれるなら気分転換できるのだけれど。そうだ、昔よく行った庭園まで行ってみようか」

 庭園の花畑を気に入っていただろう、とロレンツォから懐かしそうに言われ、フランチェスカは彼の提案に頷くしかなかった。

 食事を終えて部屋に戻ると、食事中は部屋の隅で控えていたサラが途端に張り切り出した。

「お嬢様、お洒落していきましょうね」

「サラ、いつも通りにしてちょうだい」

「駄目です!せっかくのデートなのですから!」

「デートって……お兄様は家族よ。お父様と出掛けるようなものよ」

 フランチェスカが呆れたように言ってもサラはぶんぶんと大きく首を振り「私に任せて下さい!」と胸を叩いた。結局フランチェスカは侍女に散々飾り立てられ、お忍びデートの装いが完成した。

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