23 / 51
本編
23
サルヴァトーリ公爵領から王城へ戻り、執務室で一息ついた時だった。アーネストの昔からの友人であるミゲル=スタマーズ公爵令息が入室した。ミゲルは自身の父、デリンラード国の宰相から預かった資料を手渡した。
「ああ、預かるよ。ミゲル、そっちはどうだい?」
「大忙しだよ、誰かさんのせいで」
ミゲルはぎろりとアーネストを睨んだ。幼い頃からの仲であり、ミゲルの公爵令息という立場もあって不敬な態度も周囲から容認されていた。何よりアーネストがミゲルの不躾だが正直な態度を気に入っていた。
「それは申し訳ない」
「思ってもいないことを言うな」
ばっさりと吐き捨てた友人の言葉にアーネストは口元を緩めた。
アーネストがサルヴァトーリ公爵領に通うためには王城内で様々な動きがあった。フランチェスカを大層気に入っている王妃はアーネストが公爵領に通うことを応援し、その時間を捻出するためにアーネストの公務の一部を国王と第二王子に振り分けた。
アーネストの留学を了承した件で王妃は国王を未だに許していないこともあり、特に国王の業務量が増えている。そしてその負担は宰相であるミゲルの父と、彼の補佐をしているミゲルにも重くのしかかっていた。
「……それで」
ミゲルはその続きを口にしなかったが、何を言いたいのかアーネストには分かった。フランチェスカとの関係に関して彼なりに気に掛けてくれているのだ。
「今日、漸く謝れた」
「そうか」
「勿論、謝ったからと言って許されることではないのは分かっている」
「そうだな……フランチェスカ嬢は?」
「フランチェスカも謝っていた。急に側近候補を辞することになって申し訳ないと。あと……公爵領にはもう来なくて良いと言っていた」
「まあ、彼女ならそう言うだろうな」
ミゲルは小さく頷き「それで?」とアーネストへ話の続きを促した。
「私はそれを断って、何とか今後も来訪する許可を得た」
「お前……何がしたいんだ」
呆れ切った瞳で見つめられアーネストは目を伏せた。
「確かに謝罪のために公爵領に通っていた……だがそれだけじゃない」
七年もの間、アーネストの隣にいて支え続けてくれたフランチェスカが急にいなくなりアーネストはずっと落ち着かずにいた。公爵領を訪ね、彼女と会えた時だけ心の安寧が保たれた。
「いなくなってから想いに気付く、なんて流行りの恋愛小説じゃあるまいし」
「うるさい」
心底うんざりした調子でミゲルから言われ、アーネストはバツが悪そうに返した。
「ミゲルだって……レティ嬢、だったか?彼女に何にも伝えられていないくせに」
レティ=ペルジーニ伯爵令嬢はミゲルの想い人だ。伯爵令嬢だと言うのに料理が好きな変わり者で、現在はミゲルの暮らすスタマーズ公爵家で料理人として働いている。アーネストは拗ねたように言うがミゲルは鼻を鳴らした。
「少なくともお前よりは大事にしている」
「う」
渾身の一撃を受け、アーネストは言葉を詰まらせた。ミゲルは大きく息を吐いた。
「……後悔の無いように」
「分かっている」
神妙に頷いた友人を見てミゲルは暫く続くであろう多忙な日々を思い肩を落とした。
あなたにおすすめの小説
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】嘘が匂いますね、公爵様〜愛を騙る夫の後悔〜
終日ひもの干す紐
恋愛
一目惚れ──その言葉に偽りはないのに、彼の愛の囁きは嘘に塗れている。
貧乏伯爵家の娘ウィステルのもとへ、突然縁談が舞い込む。
相手はキャスバート公爵家当主フィセリオ。彼は婚姻を条件に援助を申し出る。
「一目惚れとはいえ、私はウィステル嬢を心から愛している。必ず大切にすると、キャスバートの名に誓いましょう」
けれど、ウィステルには『嘘を匂いで感じ取る』秘密の力があった。
あまりにもフィセリオに得のない縁談。愛もなく、真意は謎に包まれたまま、互いに秘密を抱えて時間を重ねる。全ては信頼される妻になるために。
甘い嘘で“妻を愛する夫”を演じきる公爵と、夫の嘘を見抜き、共犯者になると決めた令嬢の恋愛物語。
* * *
※主人公ウィステル以外の視点の話は【】にそのキャラを表記しています。同じ話の別視点ではなく、基本的に物語は進行していきます。
他のサイトでも投稿しています。
第19回恋愛小説大賞エントリー中。
愛していると気づいたから、私はあなたを手放します
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。
幼なじみの夫は、こう言った。
「もう、女性を愛することはできない」と。
それでも「君がいい」と言い続ける彼と、
子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。
だから決めた。
彼のためにも、私は他の誰かを探す。
――そう思ったのに。
なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの?
これは、間違った優しさで離れた二人が、
もう一度、互いを選び直すまでの物語。
※表紙はAI生成イラストを使用しています。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。