王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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本編

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 フランチェスカがサルヴァトーリ公爵領で暮らし始めて四年が経った。この四年の間、アーネストは変わらずフランチェスカに会いに来たし、その度にマルコはサラへちょっかいを掛けていた。

 学園は結局戻らないままだったが必要な単位は全て取得していたため学園側の配慮もあり登校しなくとも卒業できた。

 この四年間、フランチェスカは領地経営の補佐をしロレンツォの右腕となった。公爵領の文官や使用人たちも親切で穏やかな日々を送っていた。

 フランチェスカは十九歳となり、勿論縁談などは無く―――正確には縁談の申し込みはひっきりなしにあるのだがサルヴァトーリ公爵が娘に相応しい相手ではないと全て握りつぶしていた―――フランチェスカはすっかり行き遅れとなってしまった。



 そんなある日、珍しい人がフランチェスカを訪ねてサルヴァトーリ公爵領へやって来た。

「……久しぶりだな」

「お久しぶりです、ミゲル様。四年ぶりでしょうか」

 フランチェスカの言葉にミゲルは頷いた。フランチェスカが彼に最後に会ったのはアーネストの側近候補を辞する際に挨拶回りをしていた時だ。優しい言葉を掛けることが苦手な彼がフランチェスカを気遣ってくれていたことを覚えている。


「何かありまして?」

 他の旧友相手なら雑談を交えながら近況報告に花を咲かせただろう。だが、目の前の相手はそういった無駄を嫌う。そのためフランチェスカはすぐに来訪の目的を尋ねた。

「……アーネスト殿下に縁談が来た」

 血の気が引いていくのを感じた。自身の鼓動の音が煩く、口の中に苦いものが広がった。

 いつかこんな日が来るだろうとは思っていた。アーネストは王太子で必ず子を残さなければならない。もっと早くに来ていても可笑しくなかった。

 だがフランチェスカが硬直していたのはほんの数秒のことだった。フランチェスカは気付いてしまった。もしこの縁談が目出度いものならわざわざミゲルが来たりしない。フランチェスカに報告する必要など無いのだから。

 フランチェスカの表情を見てミゲルは頷き、口を開いた。

「お相手はストービナ国の第四王女殿下だ」

 相手を聞き、フランチェスカはぐっと口を引き結んだ。

 ストービナ国はフランチェスカたちが暮らすデリンラード国からは離れた位置にある。温暖な気候で資源が豊かなため、広大な国土を有している。だが大きな問題がある。

「あの国は血気盛んだからな」

「……そう、ですわね」

 そう、ストービナ国はよく戦争を起こしては相手国を植民地化したり自国に優位な条約を結ばせる好戦的な国だ。もしも、アーネストと第四王女の婚約が成立すればデリンラード国内の情勢は不安定なものになるだろう。

「外遊中のアーネスト殿下をどこかで見掛けた王女が見初めたようだ」

「そうですか」

「……アーネスト殿下も国王も大臣たちも何とか穏便に断れないか頭を捻っているよ」

 フランチェスカの頭には王宮の中で出会った沢山の人たちの顔が浮かんでいた。勿論、未だに諦めきれない想い人の顔もだ。

「フランチェスカ嬢。俺は君を生贄にしようなんて思っていない。君の幸せを祈っているから伝えに来た」

 サルヴァトーリ公爵領に来て四年も経つのに、フランチェスカはまだ幸せには見えないらしい。フランチェスカは自嘲気味に笑った後、すぐに覚悟を決めた。


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