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しおりを挟む時は少し戻り、応接室では……。
「セリーヌ……すまない。」
「ル、ルーカス様?」
二人きりの部屋でルーカスに深々と頭を下げられセリーヌは戸惑った。
「……セリーヌに気持ちが伝わっていると思って、言葉にするのを疎かにしてしまっていた。」
「気持ち?」
「セリーヌは、どうして僕がセリーヌと婚約を結んだと思っていたの?」
「それは……。」
どうしてルーカスが自分と婚約を結んだのか、ずっと不思議だった。ステファンに嫌われている自分があまりに気の毒だったのか、それとも王位継承権の為に公爵家の後ろ盾が欲しいのかな、というくらいの認識だった。
セリーヌがぽつりぽつりとそう伝えるとルーカスの顔色はみるみる悪くなり、セリーヌを強く抱き寄せた。
「ルーカス様?」
「ごめん……ごめんね、セリーヌ。」
「いえ……。」
「セリーヌ。聞いて欲しい。」
ルーカスは腕の力を緩め、セリーヌの膝の上に乗せられた手を優しく握った。
「……昔からずっと好きだったんだ。」
「え……。」
「王位とか権力とか何にもいらないよ。僕はずっとセリーヌだけが必要なんだ。セリーヌが欲しくて婚約をお願いした。」
「そ、そんな……。」
セリーヌは目を見開いた。……あんなにセクハラを受けて、スキンシップされ、甘い言葉を吐かれて、どうして気付かないのか。
ルーカスの使用人達も公爵家の護衛も、何なら三年会っていなかったジェイミーだってルーカスの想いに気付いていたのに、だ。
だが、セリーヌは長い間ステファンに見た目のことでケチをつけられており、まさか自分を好きになる人なんていないと思い込んでいる。
そして、この類の思い込みはなかなか払拭することが出来ないものだ。
(((((殿下がんばれー!!)))))
ダミアンに可愛いジェイミーを連れて行かれて暇になった護衛達は、今度は盗み聞きを始めていた。
「幼い頃、セリーヌと婚約したいと思っていた。だが、目の見えない僕と婚約を結ぶなんてセリーヌは嫌かと不安になって……そうこうしている内にステファンに先を越されてしまった。」
「嫌なんて、そんなこと……!」
ルーカスは固い表情をやっと緩ませ、優しい笑顔を見せ頷いた。
「そうだね。セリーヌがそんなことで嫌なんていう筈ないのにね。」
その声色があまりに優しく甘くて、セリーヌは思わず頬を染めた。
「セリーヌ……セリーヌは僕のこと……。」
(((((ドキドキ……!)))))
護衛達が手に汗握り、二人の行く末を見守っていた瞬間。
ダダダダダダダダダッ!!
ダダダダダダダダダッ!!
大きな足音にルーカスとセリーヌが顔を見合わせる。その時、バタン!と大きな音を立ててドアが開いた。
「お嬢様!帰りますよ!今すぐに!!」
「まぁ、ジェイミー?」
セクハラヘタレ王子から主を救うべく、体育会系侍女ジェイミーが飛び込んで来た。
※お知らせ※
『落ちこぼれと森の魔女』本日より公開しております。きずな児童書大賞エントリー中です。児童書カテゴリーですが、幅広い年代の方が楽しめたら良いな、と考えております。宜しければ是非お楽しみください!
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