【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ

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「検査入院ですか?」


 定期通院の日。私は主治医に聞き返した。


「別に何か悪くなっている訳じゃないよ。ただ君の病気は、定期的に検査して調べないといけないの。一泊入院してね」


 主治医はあっけらかんとそう言った。診察後、看護師さんと手続きしている時、問題にぶち当たってしまった。





 保証人の問題だ。私は、家族との縁が薄い。母親は、私が生まれてすぐ亡くなった。父親は、それに耐えられなかったようで、私を置いて海外へ赴任してしまったらしい。今も海外にいる、らしい。ほとんど会ったことがなく、どこにいるかもよく分からない。


 ずっと父方の祖母が育ててくれていたけど、祖母も私が成人する前に亡くなった。それからは、ずっと一人だ。祖母と暮らしていた都内の家は、もう手放してしまった。私は、都内にいるのが辛くなり、逃げるようにこの自然溢れる田舎で就職した。



 家族との縁が薄いと、どうしてもこの保証人関係に苦労してしまう。父の弟、叔父に、どうしても必要な保証人はお願いしているけれど…正直、あまり関係性がなく、退職したことや、病気のことを説明するのは億劫だった。



 前回入院したときは、私の事情を知っている上司が保証人をしてくれたけど、流石にもう頼めない。友人だって、私が12年も社畜をしていたせいで、こちらも縁が薄くなってしまっていた。











「どうした?」


 手芸教室の帰り、雅也さんの車内で、つい大きな溜め息をついてしまったらしい。



「あ…いえ…」




「今日は一日、元気なかっただろう。体調悪いのか」




 雅也さんにじっと見つめられ、無言の時間が続く。




 そんなに見ないで、とも言えず、私は耐えきれなくなって話し始めた。




「今度、検査入院があって…定期的に数値を確認するためのものなので、体調が悪いわけではなくて…」



 歯切れの悪い私の言葉を、じっと待ってくれている。




「保証人が…」



 言葉にすると、とても情けなくなり、目に涙が浮かぶ。保証人がいないのは私が悪いのだ。叔父さんとだって、もう少し頑張って関わっていれば、保証人くらい頼めただろう。友達だって、もっと大切にしていれば、一人くらい快く書いてくれた子がいただろう。それが出来ていない自分が恥ずかしかった。それを雅也さんに知られるのが辛かった。




「だけど、大丈夫で…」



 苦しいけれど、叔父さんに連絡しよう。今から関係性を作っていけばいい。叔父さんと関わりを持って、これからお願いしやすいように、頑張らないと。大丈夫。








「俺が書く」


「え」


「俺が書くから、心配するな」



 何でもないことのように、雅也さんはサラリと言った。



「ちが…私、そんなつもりじゃなくて」
 

「分かってる」

 雅也さんは頷く。




「駄目です。今でもこんなに助けてもらっているのに、更に迷惑かけるなんて」

 甘えてしまいたい。だけど、ここまで甘えられない、と心で警告音が鳴る。





「何も迷惑じゃない、迷惑じゃないんだ」






 ずるい。こんなに優しい声で言うなんて。





 ずるい。ずっと見たかった笑顔を、今、ここで見せるなんて。





 私の涙腺は決壊して、雅也さんの隣でぼろぼろと泣いた。





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