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しおりを挟む散々泣いたシャルロットはフィリップが淹れた紅茶に口を付けた。研究の事ばかりで身の回りのことは疎かになりがちなフィリップだが、昔から紅茶を淹れるのは上手い。昔からシャルロットの気が滅入っている時など、何も言わずとも淹れてくれていた。
「……美味しい」
「それは良かった」
シャルロットが一息つくとフィリップが隣に腰掛ける。いつもよりほんの少し近い距離で。その瞬間、の肩がびくりと揺れた。先程まで抱き締められていたと言っても、一度冷静になると恥ずかしさが勝りシャルロットは視線を逸らした。
「本当は自分で伝えに行くつもりだった」
「……何を?」
「婚約のこと。僕が望んで君との婚約が決まった、と」
「え」
シャルロットは目を見開いた。婚約は両家の親たちが勝手に決めたのではなかったのか。シャルロットは婚約が決まった時のことを必死で思い返す。
確か、あの時は「フィリップとの婚約が決まったよ」と両親に告げられた。そして……思い返してみれば両親は親同士が決めた婚約だとは話していなかった気がする。
シャルロットはフィリップがまさか自分へ求婚するはずがないと思い込んでいた。そして、それぞれの子どもの結婚に焦っていた両親達が仕組んだ婚約だと結論付けたのだ。
「ご、ごめんなさい。わたくし……」
顔を青くして黙り込んだシャルロットを見てフィリップは苦笑いを浮かべ首を振った。
「あの頃、僕の両親も君の両親も結婚を焦っていたのは事実だ。君が両親達が纏めた婚約だと思うのも無理はない」
フィリップの言葉にシャルロットは小さく頷いた。フィリップとの婚約が決まるまでは夜会に行く度、両親から「良い人はいなかったのか」と聞かれうんざりしていたのだから。そしてそれはフィリップだって似たようなものだっただろう。
「半年前だ。君の両親が他家へ婚約を打診したと聞いた」
「何ですって?」
シャルロットは思わず大きな声を上げ、目を見開いた。両親からそんな話は全く聞いていない。確かに以前「見合いしてみないか」と聞かれたことはあったが、シャルロットが強く拒否して父も母も了承してくれた筈だ。驚くシャルロットを見てフィリップは少々きまり悪そうに眉を寄せた。
「その婚約は僕が握り潰した。だから君の耳に入らなかったんだ」
「な……」
初めて聞くことばかりでシャルロットは言葉を失った。フィリップが告げた見合い相手はシャルロットも知る伯爵家の令息だった。
「……僕は」
フィリップがそう言って黙り込んでしまった。どう伝えるべきか迷っているようでその顔は苦悩に満ちていた。
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