【完結】だから、婚約解消しないのか聞いたのに

たまこ

文字の大きさ
7 / 11

7

しおりを挟む

「僕は」

 漸く語り始めたフィリップへシャルロットは頷きを返した。

「君と初めて出会った頃から、君とずっと一緒にいるものだと思っていた」

「……っ、ええ」

「そして、君も同じ想いだと……そう考えていた。婚約は君があまり興味が無いように見えて……それで君が婚約をしたい時期になれば申し込めば良いか、なんて呑気に考えていた」

 フィリップが真剣な眼差しでシャルロットを見つめる。気恥ずかしくて堪らないのに視線を逸らせなかった。

「そんな時に君の見合い話だ。僕は動揺して、慌てて君と僕の両親の元へ行き、君との婚約を願った……君からの了承を得る前に」

 シャルロットの顔色が徐々に悪くなっていった。婚約を知ったシャルロットはフィリップへこう詰め寄ったのだ。「とんでもないことになった、どうにかして婚約を解消しなければ」と。

 シャルロットの顔色に気付いたフィリップは彼女の髪をふわりと撫で「僕が臆病だったんだ」と苦笑した。

「君に婚約解消を持ち出され、君が婚約を嫌がっていると思った。だけど婚約解消は絶対したくなかった。だから、婚姻式まで極力君に会わないようにした……婚約解消を切り出されないように」

「……フィル」

「今夜も本当ならすぐここに来たかった……だけど君がこの婚姻を嫌だと思っているなら無理をさせたく無くて、わざと遅れて来た」

 シャルロットはじっとフィリップを見つめた。

「君の本心を聞くのが怖かった。本当なら婚約解消を望んでいる君を解放すべきだろう。だけど出来なかった。君との婚姻だけは、君と過ごす未来は諦めきれなかったんだ」

 フィリップの瞳が不安そうに揺れている。シャルロットは意を決してフィリップの胸に飛び込んだ。

「わ、わたくしだって……!」

「シャル?」

「わたくしだって一緒にいるのはフィルが良いって、ずっとずっと想っていたわ」

 背中に回されたフィリップの腕に力が籠る。耳元で囁かれた「……良かった」という声は微かに震えていた。

「……ずっと不安にさせてごめん」

「……わたくしも早とちりして婚約解消なんて言ってごめんなさい」

 抱き締められたままでも彼が首を横に振ったのが分かった。熱く抱き締められていると、これまでの不安や哀しみが解けていくように思えた。どれくらいそうしていただろうか。ふいにフィリップが口を開いた。

「昼間の」

 シャルロットが顔を上げると、目の前の彼は熱っぽく自分を見つめていた。その瞳に気付き、シャルロットの顔は熱を帯びた。

「婚姻式の間、君のことばかりずっと見ていた。君はこの世の者とは思えないほど美しくて輝いていた」

「……っ」

「とても似合っていた。言葉にできないほど、美しかった」

「……ばか」

 シャルロットの顔に手が添えられる。心臓が早鐘を打っているのが分かる。そっと瞼を閉じると、彼の唇が自分のそれに重なった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約解消を宣言したい忠犬令息の攻防戦

夕鈴
恋愛
薔薇が咲き誇る美しい庭園で椅子に座って悲しそうな顔で地面に向かって何度も同じ言葉を呟く少年がいた。 「僕は、姫様に相応しくないので、婚約を解消しましょう」 膝の上で固く握った拳は震えている。 少年の拳の上に真っ赤な花びらが落ちてきた。 少年が顔を上げると、美しい真っ赤な薔薇が目に映る。 少年は婚約者を連想させる真っ赤な薔薇を見ていられず、目を閉じた。 目を閉じた少年を見つめる存在には気付かなかった。 鈍感な少年と少年に振り回される恋するお姫様の物語です。

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

【完結】オネェ伯爵令息に狙われています

ふじの
恋愛
うまくいかない。 なんでこんなにうまくいかないのだろうか。 セレスティアは考えた。 ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。 自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。 せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。 しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!? うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない― 【全四話完結】

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

一年付き合ってるイケメン彼氏ともっと深い関係になりたいのに、あっちはその気がないみたいです…

ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢のウラリーは伯爵令息のビクトルに告白され、付き合うことになった。彼は優しくてかっこよくて、まさに理想の恋人!だが、ある日ウラリーは一年も交際しているのにビクトルとキスをしたことがないことに気付いてしまった。そこでウラリーが取った行動とは…?!

処理中です...