10 / 11
10
しおりを挟む「フィリップ、それに奥方、先日の婚姻式ぶりだね」
「教授」
壮年の男性はフィリップが師事する昆虫生態学の教授だった。シャルロットが婚姻式に出席してくれたお礼を伝えると教授は人好きのする笑顔を見せ、彼女を労った。その後、弟子の背中を叩いた。
「フィリップ、研究仲間に挨拶に行くぞ」
「いえ、結構です」
「お前は……いつも夜会に来ないじゃないか。顔を出した時くらい挨拶回りせんか」
「行きたくありません」
フィリップは頑なに首を振った。呆れた様子の教授を見てシャルロットは焦りが募った。確かにフィリップは社交嫌いでこういった場には殆ど顔を出さない。だが、彼の研究を円滑にするためにも挨拶回りは必要だろう。妻である自分の仕事は彼の背中を押すことだろう。
「フィリップ、いってらっしゃいな」
「でも……君を一人にしたくない」
「私はそこで待っているわ」
シャルロットが指差したのは、休憩用のスペースだ。沢山のソファが並んでおり、警備のための騎士も近くに立っている。軽食を運ぶ給仕たちも複数おり、これだけ人目があれば可笑しなことには巻き込まれないだろう。
「奥方、ありがとう。ほら、フィリップ行くぞ」
フィリップは何度も「気を付けて」とシャルロットに念押しした後で、不満げな顔のまま教授に連れて行かれてしまった。
シャルロットはソファに腰掛け、小さく息を吐いた。
辺りを見渡すと周りにはシャルロットのように挨拶回りの夫を待っているであろう夫人達が沢山いるので居心地は悪くない。シャルロットは給仕に声を掛け、果実水と軽食を頼んだ。
会場は綺麗な装飾で彩られている。シャルロットがぼんやりとそれらを眺めていると、いつの間にか給仕が果実水と軽食をサイドテーブルへと並べていた。
果実水に口を付け、もう一度息を吐いた。シャルロットも久しぶりの夜会に知らぬうちに緊張していたようだ。全身の筋肉が固まっていることに気付いた。先程は早く帰りたがる夫を咎めてしまったが、彼が戻って来たら早めに帰ろうと提案しようかしら、なんて考えていた時だった。
「あれ、シャルロット嬢?」
ふいに声を掛けられ、シャルロットが顔を上げるとそこには見覚えのある青年が立っていた。
彼はシャルロットの両親が娘との見合いを申し込んだ伯爵令息だった。
239
あなたにおすすめの小説
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
この二人の政略結婚に異議ある者は、今すぐ申し出よ。さもなくば永遠に沈黙せよ。
待鳥園子
恋愛
ルーシャン公爵令嬢シェリルはウェイン伯爵令息ノアに一目惚れし、宰相を務める祖父に彼との政略結婚を頼み込んだ。
政略結婚を理由に大好きな人と結婚する直前の公爵令嬢が、あまりの罪悪感に耐えかねていたところに、まさかの出来事が起こって!?
疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど
くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。
貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
婚約解消したはずなのに、元婚約者が嫉妬心剥き出しで怖いのですが……
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のフローラと侯爵令息のカルロス。二人は恋愛感情から婚約をしたのだったが……。
カルロスは隣国の侯爵令嬢と婚約をするとのことで、フローラに別れて欲しいと告げる。
国益を考えれば確かに頷ける行為だ。フローラはカルロスとの婚約解消を受け入れることにした。
さて、悲しみのフローラは幼馴染のグラン伯爵令息と婚約を考える仲になっていくのだが……。
なぜかカルロスの妨害が入るのだった……えっ、どういうこと?
フローラとグランは全く意味が分からず対処する羽目になってしまう。
「お願いだから、邪魔しないでもらえませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる