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11(クリストファーside)
しおりを挟む(アレクサンドラはあの頃から、これを狙っていたのだろう)
クリストファーは溜め息をつき、幼い頃の彼女に思いを馳せた。
◇◇◇
十四年前、クリストファーとアレクサンドラが四歳の頃、二人の婚約は結ばれた。二人は幼さから、婚約者ということは理解できず、ただの遊び相手としか思っていなかった。だが今よりずっと仲が良く、王城の中庭で遊ぶことが多かった。クリストファーは宝探し遊びが、アレクサンドラは戦いごっこが好きだった。クリストファーの乳母にねだり、よく冒険や戦闘に関する絵本を読んでもらっていた。クリストファーは勿論、アレクサンドラもこの乳母にとても懐いていた。アレクサンドラの実母は、この頃既に病に臥せており、この乳母は貴重な甘えられる相手だったからだ。
「ぼく、ぼうけんかになりたいなぁ。」
「クリストファーは、こくおうさまになるんでしょ?」
「ううん・・・ぼうけんのほうがすきだもん。それに、おとうさまなんだかこわくて・・・。」
クリストファーはこの頃から優しく穏やかな性格だった。国王は時として冷酷にならなければならないことを、何となくだが感じ取っていた幼いクリストファーは、どうしても国王になりたいとは思えなかった。そんなクリストファーを慰めるように、乳母は冒険ものの絵本を読んでくれたり、宝探し遊びの準備をしてくれた。ところが。
「おとうさま!どうして、あのひとをほかのところにやったのよ!もどしてよ!クリストファーのところにもどして!」
王太子になるクリストファーに、冒険家などという道を一筋でも期待させてはいけない。そう考えた国王と、アレクサンドラの父、ハミルントン公爵は、非道にもクリストファーの乳母を配置替えし、別の乳母を置いた。この乳母は余程言いくるめられたのだろう、幼いクリストファーとアレクサンドラへ宝探し遊びも戦いごっこも禁止し、読んでくれる絵本は『国の成り立ち』のようなつまらないものばかりだった。
「アレクサンドラ、クリストファー様は王太子に、お前は王太子妃になるのだ。遊んでばかりはいられない。」
「そんなの、おとうさまとこくおうさまがかってにきめたんでしょ!わたしもクリストファーもなりたくないの!」
アレクサンドラが全く譲らなかったので、ハミルントン公爵によって、一ヶ月の自宅謹慎を言い渡された。クリストファーは大好きな乳母に会えなくなったばかりか、大事な友人にも会えなくなったことに悲しみ、必死で国王と公爵に懇願し、アレクサンドラとの面会を取り付けた。
謹慎中のアレクサンドラと、二週間ぶりに会うとそこには。
「クリストファーさま、ほんじつはまことにありがとうございます。おあいできてうれしくおもいます。」
あのお転婆な友人はどこにもおらず、年齢に不釣り合いな美しい礼をするアレクサンドラがいた。
「アレクサンドラ!どうしちゃったの!もしかして、おとうさまにいたいことされた?けがしてない?」
使用人から離れ、応接室の影でクリストファーはアレクサンドラの怪我の有無を確認した。誰にも気付かれない角度であることを確かめ、アレクサンドラはニヤリと笑った。
「だいじょうぶよ。クリストファー、わたし、ちからをつけることにしたのよ。」
「ちから?」
「ええ、いまのわたしでは、かんたんにおとうさまに、やしきにとじこめられる。だけど、ちからをつければ、きっと、じぶんのすきなようにできるわ。そうしたら、クリストファー、あなたをぼうけんかにするからね。」
「アレクサンドラ・・・。」
目をキラキラさせて、自分の手をぎゅっと握られ、クリストファーは胸が苦しくなった。クリストファーは既に分かっていたのだ。自分は冒険家にはなれない、と。それなのにアレクサンドラは胸を張って自信満々で続けた。
「まかせてね。もちろん、わたしのゆめもかなえるわ。」
「アレクサンドラのゆめ?」
「ふふふ。きしさまのおよめさん!」
花が咲くように見せた笑顔が、クリストファーはずっと脳裏に焼き付いて離れない。絶対に不可能なことを話しているのに、アレクサンドラが言うと何故だが不可能ではない気がしていた。
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