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しおりを挟むアルバートが帰宅すると、顔色の悪い主人を心配し、執事のジャンとアレクサンドラの専属侍女ジェニーがすぐ執務室にやってきた。
「マーガレット様は、何か仰っていましたか?」
「いや・・・。」
ジェニーが気遣うように尋ねるが、アルバートは何と答えようか迷い、言葉を濁す。
「アルバート様。気になることは仰った方が宜しいかと。」
「なに?」
「アルバート様は女性のあれこれには疎いではありませんか。一人でうだうだと悩まれるより、私たちに相談していただいた方が建設的かと思いますが。」
気心知れたジャンからの鋭い指摘を受け、アルバートは睨みつけるが、すぐに小さく息をついた。
「•••マーガレット嬢と話していた時、クリストファー様との仲睦まじい様子を聞いたらしい。」
「まぁ!それは•••!」
ジェニーは頬を染め、声を上げた。アレクサンドラがアルバートにベタ惚れであるということは、使用人全員が知っていることだ。ジェニーも、ジャンも、すぐに気が付いた。アレクサンドラは、アルバートとより仲良くなりたいと、思い悩んでいるのだと。しかし。
「ああ、アレクサンドラはやはりクリストファー様のことを忘れられないようだ。」
「は?」「え?」
執務室に静寂が訪れた。
◇◇◇
(あまり眠れなかったわね。)
アレクサンドラは溜め息をつき、起き上がるとすぐジェニーが入室した。
「アレクサンドラ様•••昨夜もあまり眠れませんでしたか?」
アレクサンドラの目の下の隈をみて、ジェニーは悲しい顔をして尋ねた。ここ数日、アレクサンドラの隈は消えていない。
「ええ。けど大丈夫よ。王太子妃だった頃は徹夜することも多かったのだから。」
徹夜していたのはアルバートと結ばれる為に動いていたせいで、王太子妃の公務のせいでは無いのだが、アレクサンドラはそこは告げなかった。
「だとしても心配です。しばらく続いているのですから、今日は執務をお休みしましょう。」
「ジェニー、そんなことは出来ないわ。」
「でしたら教えて下さい。アレクサンドラ様は何を悩まれているのか。」
「ジェニー•••心配ありがとう。だけど大丈夫なのよ。」
アルバートの屋敷に来て、まだ一か月だというのに、ジェニーはアレクサンドラに心を砕いてくれている。アレクサンドラはそれだけで心強かった。そんなジェニーに、アルバートとの仲を進めたいなんて、幼い悩みは言えなかった。
「分かりました。では、今日はお休み下さい。」
「ジェニー?」
「今日は執務室に誰も入れないよう特別な鍵を掛けておきます。アレクサンドラ様はこのままベッドでお過ごしください。」
「え!ちょっと!ジェニー!」
ベッドの上で食事を取れるよう準備して参ります、と言い残し、ジェニーは退室してしまった。
(それほど心配させてしまっていたのね)
優しいジェニーの強行突破には驚かされたが、それだけアレクサンドラの顔色が悪いということだろう。
(ごめんね、ジェニー)
心の中で謝りながら、もう一度横になり目を瞑った。
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