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番外編:ジェニーの密会。5
しおりを挟むジェニーの密会が目撃されている日は、決まって彼女が早番の日か休みの日だ。その日を狙って、現れたのは……。
「あー……。サンドラ?やっぱりこういう場所は……。」
「私一人で入ったら、余計目立ちますわ。アル、付き合ってくださいませ。」
可愛い妻に上目遣いでお願いされれば、アルバートは断れない。今日、ジェニーは早番の仕事を終え、真っすぐこの安宿に来て、ある部屋に入っていった。アレクサンドラは安宿の主人に頼み、その部屋に一番近い部屋を借り、ジェニーとその男が出てくるのを待つため、二人はドアに付いている覗き窓から、廊下を見張っていた。
こういった安宿は、若い男女の密会を目的に利用されることが多い。宿の主人もまさか、辺境伯夫婦が一室借りたとは夢にも思わないだろう。
ジャンは、外で待機しており、何かあればすぐ駆け付けられるようにしている。
「……サンドラがここまでジェニーを心配しているとは思わなかった。」
ぽつりと呟いたアルバートの言葉に、アレクサンドラは目をぱちぱちとした後に、にっこりと笑った。
「私、公爵家にいた頃は、お父様とそこまで関係も良くなくて、公務も忙しかったので殆ど家におりませんでしたの。」
義母もマーガレットも良くしてくれていたのですけどね、とアレクサンドラにしては珍しく、少し悔いのある調子で付け加えた。
「だから、公爵家の侍女とは最低限の関わりしか持ちませんでしたわ。だけど、ここに来て、アルが私のことを考えて侍女を選んでくれたことが嬉しかったんです。」
アルバートは、そんなことを考えていたのか、と目を丸くして驚いた。
「私と近い年齢で、私の足りない部分を補うような、元気で明るい、笑顔が眩しいジェニーを選んでくれて。私は、誰かと関係性を築くことがあまり得意ではないのに、ジェニーは、私を大事にしてくれて、私が生活しやすいように毎日一生懸命働いてくれて。」
アレクサンドラは、優しく微笑んだ。
「ジェニーは私の大事な侍女です。……ジャンには悪いけれど、ジェニーが誰かと付き合っているだけなら、それは応援したいのです。ですが……何か隠さないといけない関係なら、それは許せないんです。」
真っすぐと自分を見据える妻をアルバートは抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、アル!」
「……サンドラは関係性を築くことが得意ではないと言ったが、そうではないと思う。」
今も頻繁に会っている、義妹のマーガレット。王宮でアレクサンドラが鍛えあげ、新婚旅行にわざわざ辺境まで来たキャサリン王女。そして、いつもアレクサンドラを思っているジェニー。
アルバートが彼女たちの名前を挙げていくと、アレクサンドラは鼻の奥がツンとした。
「まだ他にもいるが……一番は、私だからな。」
抱きしめる腕に力を込めるアルバートに、アレクサンドラはホッと癒されていた。
そこに、ガチャン、と他の部屋のドアが開く音が響いた。二人は慌てて、覗き窓から廊下を見ると、ジェニーと男が出てきたところだった。アレクサンドラとアルバートは顔を見合わせ、頷き合うと廊下に出た。
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