やさしい異世界転移

みなと

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第6章 沈没都市 グラナドザンラ

【218話】 そして彼らも下層へと……

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 みんなが時間を稼いでくれたおかげで俺が今撃てる最大の魔法の準備が整った。
 魔力を放出する腕を鎧騎士に向ける。
 ここで俺がしくじったらみんなが命を張って稼いだ頑張りが全て無駄になる……それだけはさせない。

 時間のかかるタメの大きい魔法……ユウトと前に話したっけ?
 タメを短くするかそれともタメの時間をどうにかするか……今回の俺はみんなの力を借りてこの魔法を使う……

 俺1人だけで使いたかったけれど、そんなプライドなんかよりも仲間を守るために俺はこうするよ。

『危険 危険 ただちに排除を……』

 鎧騎士はそう言って再び矢を放とうとする……しかし

「遅い」

 鎧騎士が矢を放つよりも先に俺が魔法を放つ。
 暗きディハンジョンの空間を稲妻に煌めく光が駆け回りその源の周りで踊るように漂いその全てがデイの手の中へと還る。

「我の敵を砕いて走れ──シュウノイカズチ」

 デイから高密度の魔力が鎧騎士へと放たれる。
 雷と同等の速さを持つ魔力に鎧騎士は攻撃どころか回避することすら出来ない。

 そして鎧騎士は理解する、自分の終わりを。
 まばゆい光に包まれる直前に自身に残っている記憶が蘇る。

「この都市のみんなを……守ってね」

 あぁ、それは果たせなかった。
 ボロボロになった白いドレスを着た彼女が最後に自分達に託した想いを……護れなかった。

『申し……ワケ、ありません……姫様……』

 そう言い残して鎧騎士はデイが放つ魔力に呑まれそのまま跡形もなく焼け落ちていったのだった。



「終わった……?」

 鎧騎士が炭となり完全に姿を消したのを見てデイが呟く。

「勝った……?」「勝ったのか?」
「や、やったんだ!」「俺達……助かったんだぁぁ!!」

 そして最初の鎧騎士が放った矢の衝撃波で倒されていった人達も回復したのか起き上がり鎧騎士討伐を喜んだ。

「はぁ……はぁ……」

「よくやってくれた、デイ」

 魔力の消費でふらつく俺にサブルンを抱えたアーデンが近づいて労いの言葉をかけてくれた。

「ありがとうございます……」

「君がいなかったら俺達は終わっていた……もちろんサブルンや君達の仲間にも感謝を伝えなければ……」

「それでユートはどこです?」

 アーデンの言葉を遮るようにユウトの居場所について聞く、アイツがこんな状況で戦闘に参加しないなんてそんな事考えられない。
 だから……そう思いたくはないがアイツに何かあったって事を察してしまう。

「それは……」

「教えてください」

 そんな問答の最中レイナ達もこちらへ来てアーデンを見つめて目で訴えかける。

「……実は」

 そんな視線に耐えられなくなったのかアーデンは下層であった事を語り始めた。

 下層で十戒士の1人とユウトが戦闘になった事……
 十戒士との戦闘中に突如として現れた黒き魔獣の事……
 その魔獣が精鋭部隊の数名を殺した事……

 そんな魔獣と戦っていたユウトが十戒士とともに深層へと落ちていった事……

「それで俺達は強い魔力反応があった中層へと引き返してさっきに至るというワケだ……」

 暗い表情をしながら語るアーデンの話を聞きながら俺達は血の気が引いていた。

 深層に落ちた……それも十戒士とともに……
 ただでさえどちらか片方でも絶望的だというのにその両方だなんて……

「……ッッ!!」

 怒りと焦りを露わにしながら俺はアーデンに背を向けて歩き出そうとする。

「どこに行く気だ?」

「……決まっているでしょ!ユートを助けに行くんです!!」

 背中からアーデンが語りかけてくるのに対して振り返って強い口調で返した。
 ユートが危険な目に遭っているのにこんなところで立ち止まっている場合じゃない!

「落ち着けっ!場所は深層だぞ!下層ですら過酷な環境だというのにわざわざ死にに行かせるためにお前を行かせるわけには行かない!」

「仲間が危険な目に遭ってるのに見殺しにしろと?そんな事……俺には出来ない!!」

「しかし……」

「デイ殿だけじゃ不安というなら拙者らも付いて行くでござる」

 言い合いになってる最中に割って入ったのはゲンだった、傍にはダイヤもおり俺とアーデンを真っ直ぐ見ている。

「拙者らだってユウト殿を助けたい気持ちは一緒でござる……」

「俺、ユウト助けたい!」

「お前達……」

「だから拙者らを行かせてほしいでござる!」

 ゲンとダイヤもアーデンを説得する、アーデンの前にゲンとダイヤ……そしてレイナ達は目で訴えるようにアーデンを見つめる。

「……わかった、お前達を新たに精鋭部隊として下層以下での生存者の保護を命ずる!」

「我々も負傷者と共に地上に戻り、下層への突撃の準備を整えてお前達との合流を目指す!!
お前達の武運を祈る!!」

 アーデンは少し目を閉じた後に俺達を見つめながら新たに俺達を精鋭部隊と任命を告げる。

「「「はいっ!!」」」

 俺達はその任命を受け下層へと向かいに行くことになったのだった。



 それと同時刻、深層のとある場所。
 そこでは鎧騎士と黒き魔獣の戦闘が行われていたのだった。
 
「はぁもう終わりかよ?」

 地面に倒れ体がいくつかに分かれ動かなくなった鎧騎士を見下ろしている人間がいた、それは黒き魔獣が変異した者。

 バキッメキメキッ!!

 その人間は鎧騎士の鎧を剥ぎ始める。

「なるほど、魔力の塊を自動で動かす人形を魔力で出来た鎧で包んだってところか
何か持って行こうか……おっ」

 鎧を剥ぎながらその人間は冷静に語りながら漁る。
 そして何かを見つける。

「これは良さそうだなっ!ちょうど俺の手にも馴染んだし、これ持ってくかぁ!」

 彼の手に握られたのは鎧騎士が持っていた剣だった、最初は鎧騎士の巨大にあうような大きさだったが彼が持った瞬間、大きさが彼にあうような大きさになったのだ。
 
「さてとさっきの人間を殺しに行くかぁ!!」
 
 そして剣を新たに入手した彼は新たに標的を定める。

 強き者を倒した黒き髪に目を尖らせた人間になった者はまた別の強き者へと向かう。
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