やさしい異世界転移

みなと

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第7章 ゴルディン

【264話】 ユウトVSブラッドハンド

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 ユウトからの攻撃をくらうブラッドハンドだったが、魔力で顔面をガードしており、ダメージは大きくはなかった。
 だがそれでも、転移ボーナスを持つユウトの一撃の威力は高く、彼はペッと血と共に折れた歯を吐き捨てる。

「その程度でよく、フレリアを助けようと思ったな」

「あぁ?」

 ブラッドハンドの言葉を聞きユウトは彼を睨みつける。

「いいか?今、ゴルディンには俺含め4人の十戒士、そして25人ほどの十戒士候補達を含めた大勢の凶震戒の人間がいる。 
それなのに十戒士1人人こんな苦戦してるんじゃ、フレリアは諦めろって言ってるんだ」

「はい、そうですか……で帰るわけねぇだろ」

「1つ聞く、なぜフレリアを助ける?あの子はお前と少しいただけ、しかも敵対している組織の人間だ。そんなあの子を助ける義理はどこにある?」

 ブラッドハンドがユウトに尋ねる、確かにユウトとフレリアの関係だけなら敵同士だ。
 そんなことは誰の目から見ても明白、そんな問いにユウトは目を瞑り思い返す。彼女と過ごし支え合いながら戦った地下での事を、そして彼は答える己の心が示す意思を。

「義理とか、敵だとか、そんなの関係ないんだ。
フレリアと過ごして楽しかった……ただそれだけで俺はあの子に死んでほしくない、そう思っただけの、ただの俺の自己満足なだけなんだ。
それに……」

「ん?」

 たった一瞬、フレリアが凶震戒のボスに連れて行かれる際、見えたんだ。
 悲しみに光る雫が、彼女の頬に落ちるのを。

「泣いていた。あの子はお前達のボスに連れて行かれる時、涙を流していた」

「……!!」

「泣いていた理由なんて、俺は知らない。でも彼女の涙を俺は……見過ごすわけにはいかない」

 そうして彼は言葉を終えると、神の魔力を全身から放つ。
 それは彼の覚悟を示すように、彼女への救済の心のように膨大な魔力が溢れ出している。

「……そうか、ならますます俺を超えていけ」

 そんなユウトを見ても平然とブラッドハンドは立ちクロスボウを彼へと向ける。

「あぁ……!そのつもりだ!!」

 ブラッドハンドが矢を放つその一瞬前、ユウトは地面に両手を強く押し付け、神の魔力を地面へと流し込む。
 そこからユウトの周囲を円状にして囲むように魔力が広がり、そして地面を突き抜けその魔力は地上へと上がり、ブラッドハンドが射出した複数の矢が到達した時には、ユウトを中心とした白く神々しき塔がブラッドハンドの目の前に天高く聳え立ち、放った矢を弾いた。

「それでガードしたつもりでいるんだろうが、守りに意識を割くあまり、お前自身の身動きが取れなくなったら本末転倒だろ」

 そして彼は再びクロスボウを構える。
 今のでこの塔の耐久性を理解した彼は、破壊するに必要な速度を乗せ、矢を再び塔へと放つ。

 一撃目で塔にヒビが入り、さらに速度をあげた二撃目を彼はさっきと寸分違わない位置へ放つ。

 たったの二撃、それだけでユウトを守っていた白き塔は破壊され、塔を構成していた神の魔力が崩れ落ちていく。
 そんな崩れていく塔を見ながら、ブラッドハンドはまだその中にいるユウトに向かい三撃目を打ち込んだ。

「!!」

 しかし直撃の感覚はなく、塔の破片の魔力が落ち、彼から内部が見えた時にはもう既に……

 中には誰もいなかった。

「いない……どこだ!?」

 予想外のことで即座に周りを見渡して、ユウトの位置を探るも誰の人影も見えない。
 まさか……自分を無視して都市へ!?

「──接続」

 そんな彼の考えはすぐに杞憂に終わる。
 黒き影が、ブラッドハンドにかかる。

 彼は咄嗟に顔を上げ天を見上げる。
 そこには上空に浮きながらこちらに弓を構えるユウトの姿があったのだ。

「いったいどうやって……そうか!」

 ブラッドハンドは少しの思考でユウトの先ほどまでの行動を理解する。
 あのバカ高い塔は防御でもあり、意識を逸らすための囮!

 あの塔内でユウトは塔を駆け上がり、破壊されたと同時に塔の破片を足場にして自身の真上へと飛び出してきたのだ。
 そんな彼にクロスボウを向けすぐに矢を放ち撃ち落としに掛かろうとした。

 しかし──

 偶然か、はたまた狙ったのか、彼の背後に後光のようにさす、この地を照らす眩き太陽に目を奪われ攻撃が遅れる。
 
 その瞬時にユウトの弓からから複数の白き矢が放たれる。
 速度は自身の放つ矢と比べてもそこまでもない、だが撃ち落とすための時間はこちらには残されてはいなかった。

 咄嗟に魔力で防御をはかり、カウンターによる撃ち合いに持っていくそう思い魔力を腕に込め、自身の頭の上まで上げ防御の体制をとる。

 しかし、矢は腕に到達することはなく、ただ周りの地面に突き刺さるだけであった。

 攻撃が逸れた……?いや違うっ!!

 地面に突き刺さった矢が光る瞬間には、ユウトが放った矢が自身から外れたのは意図的だということを察する。
 だが気付くのが遅かった。


 光った矢は急成長する植物の如く、瞬く間に枝分かれしながら伸びていき、ブラッドハンドの行動を阻むように周りを取り囲んだ。それはまるで小さな檻のようになり彼の身動きを取ることが出来なくなっていた。

 そして流星の如く眩しく輝く空からその男は落ちてくる。

「──接続」

 手に持っていた弓が一筋の刀へと姿を変えその鋒は太陽に照らされながらも、真っ直ぐ一直線にその刀は振り下ろされた。

「いっっ……」

 魔力で防御はし浅くにしか刀は通らなかったが、それでも左肩からの縦一直線を斬られ血が吹き出す。

 しかしユウトの斬撃の余波により、ブラッドハンドを取り囲んでいた魔力も壊れる。
 それをすぐさま察知したブラッドハンドはすぐに地面を蹴り、後方へと下がりながらクロスボウをユウトへと向け、そのまま真っ直ぐ矢を放つ。

 矢は真っ直ぐユウトの左肩に直撃する、血が流れユウトの左腕が持ち上がらなくなったのか、下へと垂れる。
 それでも彼の闘志は折れない、右腕を上げ指先をブラッドハンドへと向ける。
 ガードしようとするが間に合わない、風の斬撃が空を斬りながら胴に直撃し、体には先ほどの斬撃合わせ十字の傷から血が吹き出す。

 ユウトの攻撃は止まらない、追撃の為ブラッドハンドへと距離を詰めるように駆ける。
 それに対して反撃を行う為にクロスボウをブラッドハンドは構えて照準をユウトに定めようとしたその時だった。

 ユウトの左腕が上がる、まだ動かせた。
 そして左腕をブラッドハンドの目の前に振った。

 瞬間ブラッドハンドの視界が赤黒く染まる。
 
 彼が感じるのは目に生暖かい液体の感触と血の匂い、そしてユウトの接近。
 
 そうユウトは矢を受け流れ落ちる血液を左手に溜めていた……そしてそれを今さっきブラッドハンドへとかけ、視界を奪った。

 ユウトが視覚を奪われたブラッドハンドの滑り込むように懐へと入る。
 魔力を込めた拳を強く握りしめ、ユウトの一撃がブラッドハンドの腹部に直撃する。

「ゴハッッ!!」

 いくつか自身の骨が砕ける音を聞きながらブラッドハンドは吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直して目を擦り視界を取り戻す。

 視界を取り戻しユウトを見てわかる、確実にボルテージが上がり強くなっていってる。
 高密度な魔力、折れない精神、そして勝利を求めるその真っ直ぐな表情。

 敗北……ブラッドハンドの脳内にその可能性がよぎる、これほどの強敵との戦い……おそらく永く忘れていた相手に対してのの恐怖。

 ブラッドハンド……いや、デュヘイン・ゴードンはそれでも前の敵を見据える。
 久々の緊張感のある戦いで彼もまた、感覚を研ぎ澄まされているのだ。

 そんな2人だからわかる、このままでは決着が長引く……と。
 ゆえに両者、次の一撃での決着のために今自身が放てる攻撃へと移っていたのだ。
 
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