幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記

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Act.4 押しかけペットとグルシエス家中

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 そんな俺の予想は翌日、早速的中することになってしまった。
 朝食後、三人まとめて厨房メイドさんに申し訳なさげに声をかけられる。
 ついて行ってみると行き先は使用人食堂で、そこで待っていたのは仏頂面の厨房長と最近入ったばかりの見習いコック。
 使用人食堂で、俺たちに紅茶、リアンには果汁のジュースが出され、何故呼び出されたのかを聞かされることになったのだ。


***************


 リアンの元に、四匹の不思議な生き物がやってきてから数日が経った。
 現在、早朝。ハイマー辺境領本邸の厨房は主一族の朝食を作るために、戦場と化している。

「さて、と」

 数年前から働き始めたこの料理人は、最近ようやくスープを任せてもらえるようになった青年だ。
 グルシエス家の人々から時折、料理を作ってくれることに感謝の言葉をかけてもらえる。働きがいのある居心地いい職場だと彼は思う。
 今朝も美味しく朝食を食べてもらいたいと、青年は張り切って調理に勤しんでいる。
 スープ用の鍋で具材を炒め、ブイヨンと水を注ぎ、いざ暖めようと魔道具コンロに戻したその時だった。
 むぎゅ、というコンロにあり得ない感触。同時にスープが、一瞬で沸騰した。

「だぁあ!? あっつ、あっつう!!」

 ガン! とけたたましい音を立てて、青年は慌てて鍋を隣のコンロに置いた。鍋用のミトンをつけていて本当に良かったと言えるだろう。
 もくもくといい香りの湯気を上げる鍋。その影から、揺れる炎の体を持つトカゲが、不機嫌を隠すことなく顔を出した。

『おいおいおいおいこのスットコドッコイ! このオレ様が火の<属性エレメント>浴してるってェときに、いきなり上から物を乗せてくるたぁ、どういう了見でェ!!』

 かなり大きく、通る声で青年に怒鳴る火のトカゲ。
 厨房の注目はトカゲと青年に集まった。
 周囲から見られているとは露知らず。厨房という場所では予測すら出来ない感触と、不意の沸騰に未だ心臓がせわしなく跳ねている青年は、荒い息を整えながら苛立ち紛れにトカゲに言った。

「な、何でコンロの上にリアン坊ちゃんのペットがいるんだよ! あり得ねえだろ普通! つうかそこにいると調理の邪魔だ、どきやがれ!」
『あァン!?』

 トカゲが一気に不機嫌になった。どうやら、青年の物言いが気に障ったらしい。
 べちん! と右前足でコンロの上面を叩きながら、青年に怒鳴り返した。

『オレのことをペットだっつった上に邪魔だって言い腐りやがったか!? この火の精れ……ゲフン、オレ様にそんな態度とるなんざぁ、ふてぇ野郎だ!! 燃やし尽くしてやろうか、えぇ!? 人間よォ!!』

 その時、料理人達の中でもひときわ筋骨逞しい男が、青年に向かって声を張る。
 見た目にそぐわぬ、威圧と太さが兼ね備わった声だ。

「おい、馬鹿やってないでさっさと続きに取りかかれ! 間に合わなくなるぞ!!」
「わ、分かってます!」

 青年は苛立ちを紛らわすように、ため息をついた。
 鍋を置いたコンロのスイッチを入れ、火の魔力をコンロに行き渡らせる。
 さっきトカゲによってあっという間に沸騰してしまったので、設定は一番弱めに。
 小皿に少しだけスープを取って、味見。

「……ボス、ちょっと相談が……」

 作り直すか否か。その判断を仰ぐために、青年は料理長を召喚することにした。

『ぁあ~~~~~、この熱が落ち着くってもんだぜぇ~~~~~』

 コンロに火をつけた途端、鍋に貼りついてきたトカゲ。
 青年はそれに恨めしい視線を送った。トカゲが面倒なことをしてくれたと思っている料理長と共に。


***************


「てなァワケでしてね」

 騎士団の戦士を引退後、趣味が高じてコックになった長にそう締めくくられ、俺とクリストファー様は早々頭を抱える羽目になった。

「……早速問題起こしてやがる……」
「あ~あ……」

 二人揃ってため息をついていると、厨房長が追い打ちをかけてきた。

「あのペットども、特にあのバカトカゲはどうにかしてくれませんかねぇ」

 そうだな、仕事の邪魔されたら流石にたまったもんじゃない。
 ふとリアンに目を向ける。思わず呼吸が変な音で引っ込んだ。

「……」

 無、だった。
 リアンの表情が、今までにないほどの『無』だった。
 慄いた俺たちを尻目に、リアンはもそもそと椅子から降りると、コックたちの前で頭をぺこりと下げた。

「いーしゃんが、みんなのおしごとのじゃまして、ごめんなしゃい」

 俺たちは固まった。
 たまたま休憩していただけの関係ない使用人たちも固まった。
 それもそうだ。リアンの声音も『無』だったんだから。
 ゆっくりとリアンが頭を上げた。無表情のまま、無感情な声でリアンは続ける。

「いーしゃんは、ぼくがぱぱとままとセキニンもって、〝メッ〟してつれてくるから、まっててくだしゃい」
「……はい」

 子供らしからぬ圧を感じたのか、コック長はそう頷くしか出来なかった。
 くるん、とリアンが俺たちを見る。その表情は、もう元に……戻ってねえや、薄ら寒い笑いを浮かべてる。

「ぱぱぁ、ままぁ」

 ……始めて、リアンを怖いと思った。
 だって、普通の子供は、この歳でこんな笑い方をしない。
 この顔はまるで……。

「とんしょ、いこー」

 酸いも甘いも知り尽くしている、老成しきった大人のようじゃないか……。
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