幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記

文字の大きさ
50 / 108
Act.7 世界樹の精霊と俺たちの真実

しおりを挟む
『さあ、遠慮なく食べなさい。食べたらここから帰れないとか、そういうことはない』

 うっ、ちょっと警戒してるのがバレたか。
 いくら好意的な態度をしているとはいえ、相手は精霊。人間なんてあっという間に一ひねり出来るぐらいの力はある。
 ……ここは、言うことを聞いておいた方が得策か。

「……、いただきます……」

 ソーサーを持ち上げて、カップに口をつける。少しだけ舐めるだけに留めた。
 香りと味は、ダージリンに似ている。仄かにフルーティな風味だ。
 芳醇な香りの効果か、俺の頭はようやく動き始めた。
 さっきユグドラシルは〝自分の領域〟と言っていた。
 精霊の領域というのは人間で例えれば、鍵をかけられる自分専用の土地と家のようなものだ。生き物が自分から迷いこむことはそうそうないと、学園の座学で習った気がする。
 精霊たちだけは、互いに承認し合った精霊の領域の合鍵を持っているらしい、とはクリストファー様の言だ。
 ……生き物は入り込めない。つまり……、

「……俺は、死んだんですね」

 口から言葉が突いて出た。かちゃ、と俺がカップをソーサーに置いた音だけが聞こえる。
 ふ、とユグドラシルは苦笑にも似た笑みを浮かべた。

『安心しなさい。お前の体は、私の助力を受けながら若苗が治した。あの人間に傷つけられた箇所は、寸分の狂いもなく』
「えっ」

 いやいや、あれは明らかに致命傷だろ。確かに斬られた直後はめちゃくちゃ痛かったけどすぐに体の感覚は消失したし、意識もブラックアウトしていったのに。
『私をなんだと思っているんだ? 世界中に<魔法素マナ>を供給し、<エーテル>が循環する世界樹の<精神アストラル>そのものの具現だぞ? 私が出来ることはすなわち若苗にも出来ることだ。まあ、今はまだ幼いから私が手を貸したが』
 涼しげな目元を細め、ユグドラシルは笑った。
 侮るなよと言われている気がして、思わず背筋にぞっとしたものが走る。
 ちょっとその感覚を緩和したくて、一旦話を横にずらすことにした。

「……あの、若苗、って……?」
『ああ。お前たちがリアンと名付けた子だよ。私という〝大木〟の子だから〝若苗〟さ』
「あっ、ああ、なるほど……」

 話をそらしたのはある意味正解だったかもしれない。あの郷愁が見え隠れする笑みに戻った。

『私にも、まだ苗木だった頃の私を育てた人間につけられた個体名があるんだ。お前たちを見ていると、その頃を思い出す』

 ……そうか。このユグドラシルも人間に育てられたと、さっき自分で言っていたな。俺たちがリアンを預けられたように。
 恐らく、その人間というのが、マナ・ユリエ教の初代聖女なんだろう。
 ユグドラシルは優雅に紅茶を飲んでいた。かちゃ、とカップがソーサーに戻る音が立つ。

「……でも、リアンが精霊だというなら、なんでこちらが鑑定したとき、<物質>が検出されたんですか?」

 俺の疑問に、ユグドラシルは答えてくれた。

『ユグドラシルはな、先代から生み出されるときに〝種〟を託される』
「種、ですか」
『そう。新たな世界樹の種だ』

 そっと自身の胸元に触れる。

『苗木は、時が来るまでその種を身の内で育てる。人間に分かりやすく言うなら、発芽させるための条件を整える、というところかな。種は、生ける者たちの世界で樹となる。だから<物質マテリアル>を持つ。あの子に【鑑定魔法】を使った際<物質マテリアル>が検出されたのは、その為だろう』
「……そうか、数値がめちゃくちゃに揺れ動いていたのも、発芽準備のせいで安定していなかった……」
『そうだ』

 ユグドラシルは俺の呟きに頷く。
 世界樹という、<物質マテリアル>の肉体ともいえるべきものの精霊だからこそ、ユグドラシルは人間を、生物を好ましく思ってくれるのだろうな……。

『……本題に移ろうか。お前をこの領域に置いているわけを』
「……!」

 きた。俺は身構えた。
 一体どんな話が飛び出してくるんだろう。
 ユグドラシルはケーキスタンドからサンドイッチを取りながら、話を始めた。

『確かに、お前は一度死んだ。体から魂が離れ、こちらに来たのは揺るぎようのない事実だ』
「……やはり……」
『今は、リアンが自分の体液世界樹の樹液を混ぜた魔法薬で、体の損傷は全て回復している。だが、お前の魂が入るに耐えられるほどにはまだ回復していない。そのため、お前の体は更なる癒やしのために眠りについている状態だ』
「……魂が入るのに耐えられる強度?」

 なんだそれ。体が回復したら大丈夫なんじゃないのか?
 説明の合間にサンドイッチを食べ終わったユグドラシルは、スコーンにジャムを塗りたくっていた。

『……人間は魔力を伸ばすのに、どういう訓練をしている?』
「えっ、ええと……、魔力を空にするまで使い切るようにして、睡眠中に回復させる……ことで、魔力を貯めるキャパシティを拡大させる方法が一般的かと……。もちろん、どこまで大きくなるかは個人差がありますけど」
『そうか、私の知っていることは今の世でも通用する方法なのだな』
「……これが一体?」

 ジャムの上にクロテッドクリームも山盛りにしたスコーンを食べ終わり、紅茶を飲んだユグドラシル。
 ナッツ入りのバターケーキを手にしながら、今の世の人間にとっては結構な爆弾発言をしたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼不定期連載となりました。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...