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3.君の余韻を残したい
しおりを挟む仲睦まじく会話しながら帰路につく人達を抜き去って、ズカズカと1人歩を進めた。
「(……必要最低限しか、会話しないくせに。)」
夕方の帰宅ラッシュの街の中、ぐちゃぐちゃの頭の中には普段通りのこの人混みが酷く鬱陶しいものに感じる。
「…………チッ。」
無意識で舌打ちをした。
ずっと見ていたのすら、なんだか見透かされているような気がして不安が胸を渦巻く。
しかし、それだけではないというのがまた面倒で、胸の中にある不安とは別の、熱いもの。
「…………誰かに話しかけんのなんて初めて見た…。」
それが他の誰でもない俺だということに、優越感が溢れてくる。
これは、紛れもない執着だ。もう認めざるをえない。
でないと、なぜこんなに胸が満たされるのか、説明がつけられない。
「…………はぁ。」
口から出た息が、ため息なのか。それともこの感情を少しでも逃したい為のものなのかよく分からなかった。
ーーーーーーーーーーー…………。
「ただいま。」
家にいるであろう家族に玄関から声をあげて帰宅を知らせた。
俺は返事を聞かずにすぐに玄関から部屋へと向かう。
今の顔を見られたくなくて、少し俯きながら部屋への階段をあがった。
部屋の中は、誰も入らないのをいいことに服は無造作に投げたままのものもあるし、
ベッドの上には昨日寝る直前まで読んでた漫画が置いたままで、気持ちを落ち着かせるために少し部屋の整理をすることにした。
目に見えるものだけを、とりあえず元の場所に戻していきながらも、頭に浮かぶのはやはり森のことで、思わず手に力が入る。
「……くそ、…」
ぐしゃぐしゃと頭を掻き回して、ぼす、とベッドに寝っ転がった。
真正面から初めて交わったあの俺の心を見透かすような、水色の瞳。
遠くから見ている時より遥かに綺麗で、澄んでいた。
水に溶かした空のように、透き通って、淡い水色。
「…………綺麗だったなぁ……」
熱に浮かされたようにひとりぽつりと呟いた。
浮ついたように頭がなんだかふわふわした。
暴きたい、なんて衝動のまま書いてしまったノート。
この感覚をまだ味わっていたい。
いつでも思い出せるようにノートに書き記そうと、カバンに手を伸ばした。
しかし、漁るカバンの中からはいつまで経ってもノートが見つからない。
「…………は?」
カバンをひっくり返してひとつひとつ確認してもどこにもない。
(どこいった……っ……!?)
授業で使って、それっきり。
机の中にねじ込んで、カバンに突っ込んで……。
頭の中に、帰りの光景をよみがえらせる。
ノート、入れたか?
雑だったが入れたような気もしなくもない。
けれど、入ってない。つまり、入れたつもりになって学校に置き忘れてしまってるということだ。
(やっべぇ……!!)
もし先生が見つけて、回収されたら?
中身を万が一見られたら?
冷や汗が溢れそうになった。
心臓が嫌に高鳴る。
俺は慌てて部屋を飛び出た。
親の驚いた声なんて、答える余裕もなくて。
学校へと走り出した。
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