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第一部 王立宮廷大学を目指そう!
40. 父との対面
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「おおっ、少し会わないうちに、……カテリーナが見違えるほど美しくなっているぞ!」
約九ヵ月ぶりに、各領地の運営から父・ネフィリオスが帰ってきた。
「父上、お疲れさまでした。領地の運営をほとんどお任せしてしまい、申し訳ありません」
アレクシオスが恭しく頭を下げる。
「何を言う。アレクシオスは神聖騎士団の副団長なのだから、領地運営まで手が回らないのは当然だよ。むしろ私の得意分野だから、任せておきなさい」
「ありがとうございます」
ネフィリオスの顔には、久しぶりに会う家族への愛情があふれていた。
「お父さま、お帰りなさいませ」
「父上、お帰りなさい」
ゼノビアとキリロスも続けて挨拶をする。
「おお、二人ともずいぶん成長したな……おや? キリロス、随分精悍な顔つきになったじゃないか。何かあったのか?」
「はい。カテリーナお姉さまに、剣の稽古をつけていただいております」
「なにっ!?」
ネフィリオスは二重の意味で驚いた。
かつて不仲だった兄妹が仲良くなり、しかもカテリーナが稽古を?
「驚かれているようですね。以前の私は未熟で思慮も足りませんでした。しかし、アレクシオスお兄さまとカテリーナお姉さまが、私を正しい道へ導いて下さり、鍛えてくれているのです」
「手紙にはカテリーナと試合をして負けた、と書いてあったが……これは、詳しく聞かねばなるまいな」
「はい、後ほどゆっくりと」
キリロスが礼儀正しく答える横で、ゼノビアはぎこちない笑顔を浮かべたまま黙っている。
カテリーナはその横顔を見て、吹き出しそうになった。
――あ! またあの“ギギギ”という音がしそうな作り笑いをしてる! ……だめよ、笑っちゃだめ!
必死に笑いをこらえるカテリーナの顔には、もはや以前のような陰りはなかった。
かつては失敗や叱責に怯え、自信を失っていた彼女が、今では明るく、活気に満ちた姿を見せていた。
その変化を目にしたネフィリオスは、ほっとしたような笑みを浮かべるのだった。
「お疲れさまでした、あなた。報告は後ほどゆっくりと。今はまず休まれてください」
カリスタが優雅に礼をし、使用人たちに目配せをする。
使用人たちは手際よく、帰宅した父と、随行者一行の世話を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久しぶりに家族全員がそろった食事だった。
この日ばかりはカリスタも、マナーについて口を挟むことなく、会話は和やかに弾んでいた。
食事を終えると、ネフィリオス、アレクシオス、カテリーナの三人が父の書斎に集まっていた。
「あの、父上……」
「ああ、分かっている。宮廷大学の受験日が近いからね。来週には王都へ発つといい。その準備を済ませているからね」
「えっ?」
カテリーナは驚いた。
手紙で受験のことは伝えていたが、返事は「こちらはなかなか帰れなくて済まないが、頑張ってほしい」というような簡単な内容だった。
そのため、父の本心が受験に賛成なのか反対なのか、分からなかったためだ。
「驚かなくていいよ。私が領地経営の仕事を進んでやっているのは、アレクシオスの負担を減らすためだけではないんだ。みんなが将来困らぬよう、十分な財産を残すためでもあるんだ」
初めて聞く父の本心に、カテリーナは目を見開いて聞いていた。
「私はカリスタと違って、カテリーナが嫌なら、貴族同士の婚姻はしなくてもいいと思っている。アレクシオスも同じ考えなんだよ」
ネフィリオスが視線を向けると、アレクシオスは少し頷き、照れたように顔を赤らめた。
「たとえカテリーナが生涯家にいても、困らぬだけの財産を残すつもりだったんだ」
「そうだったのですか……」
「知っての通り、ルクサリス家は広い領地を持つ侯爵家で、王家とも近い。そのような家はいざというときのために、私兵による軍事力を維持しておかなければならない。軍隊は金食い虫だから、膨大な財力が必要になる」
「はは、まったくその通りですね」
アレクシオスが苦笑する。
神聖騎士団の副団長である彼には、軍備にかかる費用が痛いほど分かっていた。
「でもそれ以上に……お前たち二人は、アナスタシアが託した大切な子供たちなんだ」
ネフィリオスの瞳が一瞬遠くを見つめる。
「お父さま……」
カテリーナは、父がなぜ家にいない事が多かったのか、初めて理解できた気がした。
父なりに子供たちの将来を案じて、自分にできることを必死にこなしていたのだ。
「もっとそばにいて、才能を引き出してやるべきだった。カテリーナ、今まで辛い思いをさせて済まなかった」
ネフィリオスが深々と頭を下げる。
「いいんです、お父さま。私たちのために働いてくださっていたのですから……」
カテリーナの目から大粒の涙がこぼれた。
義母カリスタから守ってほしかった過去の痛みが、少しずつ解けていく。
「アレクシオスが才能を見抜いてくれて、カテリーナ自身が自分で未来を選んだ。そのことが、何よりも本当に嬉しいんだ」
ネフィリオスの瞳にもうっすらと涙がにじむ。
「だから、お金の心配は全くしなくていい。それだけの貯えも十分にある。早めに王都に行って、万全の態勢で受験に備えて欲しい」
早く王都に行くという考えまでは無かったため、アレクシオス自身も驚きを隠せなかった。
「実は剣技の訓練ができる庭付きの宿を手配してある。受験前は宿が取りづらくもなるからね」
父の先回りの手際の良さに、アレクシオスは改めて感服した。
母がかつて「自分に足りない部分を補ってくれるから、あの人を選んだのよ」と語っていたことを、アレクシオスは思い出していた。
母が騎士団に所属していた頃、父は騎士団から要請が来る前に、必要な物資や準備をすでに整えており、その手際の良さに誰もが舌を巻いたという。
世間の人々はつい魔物を討伐する騎士たちの勇姿にばかり目を向けがちだが、その陰には黙々と支える者たちがいて初めて、任務は成し遂げられる。
ネフィリオスは目立たない裏方の仕事ばかりしていたが、文官として、実務官僚として極めて優秀な人間だったのだ。
「お父さま、ありがとうございます!」
「王城からも近いし、アレクシオスにとっても都合がいいんじゃないかな」
ネフィリオスがアレクシオスに微笑みかけると、アレクシオスは照れ隠しをするように深々と頭を下げた。
「宮廷大学は学ぶべきことの多い素晴らしい場所だ。私も、アナスタシアも、アレクシオスも通った大学だ。同じ学び舎で成長できることを心から願っているよ」
カテリーナの胸に感謝の気持ちが溢れれてくると共に、強い気持ちが湧き上がってきた。
――絶対に合格してみせる!
そう決意するカテリーナだった。
約九ヵ月ぶりに、各領地の運営から父・ネフィリオスが帰ってきた。
「父上、お疲れさまでした。領地の運営をほとんどお任せしてしまい、申し訳ありません」
アレクシオスが恭しく頭を下げる。
「何を言う。アレクシオスは神聖騎士団の副団長なのだから、領地運営まで手が回らないのは当然だよ。むしろ私の得意分野だから、任せておきなさい」
「ありがとうございます」
ネフィリオスの顔には、久しぶりに会う家族への愛情があふれていた。
「お父さま、お帰りなさいませ」
「父上、お帰りなさい」
ゼノビアとキリロスも続けて挨拶をする。
「おお、二人ともずいぶん成長したな……おや? キリロス、随分精悍な顔つきになったじゃないか。何かあったのか?」
「はい。カテリーナお姉さまに、剣の稽古をつけていただいております」
「なにっ!?」
ネフィリオスは二重の意味で驚いた。
かつて不仲だった兄妹が仲良くなり、しかもカテリーナが稽古を?
「驚かれているようですね。以前の私は未熟で思慮も足りませんでした。しかし、アレクシオスお兄さまとカテリーナお姉さまが、私を正しい道へ導いて下さり、鍛えてくれているのです」
「手紙にはカテリーナと試合をして負けた、と書いてあったが……これは、詳しく聞かねばなるまいな」
「はい、後ほどゆっくりと」
キリロスが礼儀正しく答える横で、ゼノビアはぎこちない笑顔を浮かべたまま黙っている。
カテリーナはその横顔を見て、吹き出しそうになった。
――あ! またあの“ギギギ”という音がしそうな作り笑いをしてる! ……だめよ、笑っちゃだめ!
必死に笑いをこらえるカテリーナの顔には、もはや以前のような陰りはなかった。
かつては失敗や叱責に怯え、自信を失っていた彼女が、今では明るく、活気に満ちた姿を見せていた。
その変化を目にしたネフィリオスは、ほっとしたような笑みを浮かべるのだった。
「お疲れさまでした、あなた。報告は後ほどゆっくりと。今はまず休まれてください」
カリスタが優雅に礼をし、使用人たちに目配せをする。
使用人たちは手際よく、帰宅した父と、随行者一行の世話を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久しぶりに家族全員がそろった食事だった。
この日ばかりはカリスタも、マナーについて口を挟むことなく、会話は和やかに弾んでいた。
食事を終えると、ネフィリオス、アレクシオス、カテリーナの三人が父の書斎に集まっていた。
「あの、父上……」
「ああ、分かっている。宮廷大学の受験日が近いからね。来週には王都へ発つといい。その準備を済ませているからね」
「えっ?」
カテリーナは驚いた。
手紙で受験のことは伝えていたが、返事は「こちらはなかなか帰れなくて済まないが、頑張ってほしい」というような簡単な内容だった。
そのため、父の本心が受験に賛成なのか反対なのか、分からなかったためだ。
「驚かなくていいよ。私が領地経営の仕事を進んでやっているのは、アレクシオスの負担を減らすためだけではないんだ。みんなが将来困らぬよう、十分な財産を残すためでもあるんだ」
初めて聞く父の本心に、カテリーナは目を見開いて聞いていた。
「私はカリスタと違って、カテリーナが嫌なら、貴族同士の婚姻はしなくてもいいと思っている。アレクシオスも同じ考えなんだよ」
ネフィリオスが視線を向けると、アレクシオスは少し頷き、照れたように顔を赤らめた。
「たとえカテリーナが生涯家にいても、困らぬだけの財産を残すつもりだったんだ」
「そうだったのですか……」
「知っての通り、ルクサリス家は広い領地を持つ侯爵家で、王家とも近い。そのような家はいざというときのために、私兵による軍事力を維持しておかなければならない。軍隊は金食い虫だから、膨大な財力が必要になる」
「はは、まったくその通りですね」
アレクシオスが苦笑する。
神聖騎士団の副団長である彼には、軍備にかかる費用が痛いほど分かっていた。
「でもそれ以上に……お前たち二人は、アナスタシアが託した大切な子供たちなんだ」
ネフィリオスの瞳が一瞬遠くを見つめる。
「お父さま……」
カテリーナは、父がなぜ家にいない事が多かったのか、初めて理解できた気がした。
父なりに子供たちの将来を案じて、自分にできることを必死にこなしていたのだ。
「もっとそばにいて、才能を引き出してやるべきだった。カテリーナ、今まで辛い思いをさせて済まなかった」
ネフィリオスが深々と頭を下げる。
「いいんです、お父さま。私たちのために働いてくださっていたのですから……」
カテリーナの目から大粒の涙がこぼれた。
義母カリスタから守ってほしかった過去の痛みが、少しずつ解けていく。
「アレクシオスが才能を見抜いてくれて、カテリーナ自身が自分で未来を選んだ。そのことが、何よりも本当に嬉しいんだ」
ネフィリオスの瞳にもうっすらと涙がにじむ。
「だから、お金の心配は全くしなくていい。それだけの貯えも十分にある。早めに王都に行って、万全の態勢で受験に備えて欲しい」
早く王都に行くという考えまでは無かったため、アレクシオス自身も驚きを隠せなかった。
「実は剣技の訓練ができる庭付きの宿を手配してある。受験前は宿が取りづらくもなるからね」
父の先回りの手際の良さに、アレクシオスは改めて感服した。
母がかつて「自分に足りない部分を補ってくれるから、あの人を選んだのよ」と語っていたことを、アレクシオスは思い出していた。
母が騎士団に所属していた頃、父は騎士団から要請が来る前に、必要な物資や準備をすでに整えており、その手際の良さに誰もが舌を巻いたという。
世間の人々はつい魔物を討伐する騎士たちの勇姿にばかり目を向けがちだが、その陰には黙々と支える者たちがいて初めて、任務は成し遂げられる。
ネフィリオスは目立たない裏方の仕事ばかりしていたが、文官として、実務官僚として極めて優秀な人間だったのだ。
「お父さま、ありがとうございます!」
「王城からも近いし、アレクシオスにとっても都合がいいんじゃないかな」
ネフィリオスがアレクシオスに微笑みかけると、アレクシオスは照れ隠しをするように深々と頭を下げた。
「宮廷大学は学ぶべきことの多い素晴らしい場所だ。私も、アナスタシアも、アレクシオスも通った大学だ。同じ学び舎で成長できることを心から願っているよ」
カテリーナの胸に感謝の気持ちが溢れれてくると共に、強い気持ちが湧き上がってきた。
――絶対に合格してみせる!
そう決意するカテリーナだった。
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