人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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16. 不完全な

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【注意】詳細な描写ではありませんが、欠損表現あるので苦手な方は回れ右!


 私が呪い返しをした翌日、綾に呼び出されたので指定された空き教室へと向かった。手紙の主でも捕まえたかな、と考えながら扉を開ける。その瞬間、うわー、という声が出てしまった。
 ロッカーの中は綾が見せてくれなかったけれど、こんな感じだったのかもしれない。
 教室の後ろに机とイスはすべて押しつけられていて、黒板の前はひらけていた。そこに綾が腰掛けているイスが一つあり、その前に黒くドロッとした物体がある。コールタールを全身に浴びたように見えるそれは、人なんだろうか。妖怪かもしれないけれど、教室に充満した臭いで鼻が利かないため分からない。饐えたような臭いは不快極まりない。それに、ピクリとも動かないから遠目ではよく分からない。
 まさか、呪い返しが強すぎて死んだとかそんな話じゃないよね?

「綾、なにこれ」

 いや、私から呪い返しされた手紙の主だろうことは分かるんだけれど、思わず聞いてしまう。命の危険もあったし周りに飛び火したこと怒ってるから一発くらいは殴っても良いかなと思ってたけれど、さすがにこのドロドロに触れたいとは思わない。まずは詳細な説明を希望する!

「手紙の主だよ。この状態を見れば一目瞭然。私が言った通り、澄の方が強かったでしょ。まあ、それは良いとして、これは戻っていったロッカーの中のものが体の内側から噴き出しちゃったみたいだね。そのせいで、体の中が自分の呪いでいっぱいになって活動停止中」
「……活動停止中。耳は生きてるのかな」
「動けないだけで五感はそのままだと思うよ。ちなみに、澄が返した呪いを辿ってこいつに辿り着いた。触ると呪いに巻き込まれるから、触っちゃ駄目だよ」

 はーい、と良い返事をした私は、不快な表情を隠そうともしない綾の隣からその物体を見下ろした。見れば見るほど、人では無いような気がする。でも、私に呪いをかけたかったのって誰なんだろう。家まで行って引っ張ってきたんだから名前くらい分かるよね?

「ねえ、この人の名前は?」
佐々倉ささくら さとし、人間」
「……人の姿を保ってないのでは? え、両手両足はどこへ?」
「呪いが返った時に、きっとドロドロが体の中に入りきらなくて持ってかれたんじゃないかな。でも、それは澄のせいではないし佐々倉の不完全な呪いが招いた事故だから」

 私は怒っていた。確かに怒っていたけれど、手紙の主がこんな体になるのを望んだわけではない。綾はすごく心配していたけれど、呪いの効力もたいしたことなかったし、呪い返しをしてもせいぜいお腹を壊し続けたりとかそんな程度だと思っていた。
 まさか不完全な呪いだったから効力が落ちていたのだろうか。テストの時は成功したのに本番でミスをしてこの有様なんて。

「不完全な呪いになったから、半分以上がロッカーの中に残っていたんだろうね。呪いのテストをされた人たちも、佐々倉がこの状態だからか目覚めたって連絡が来たよ。澄が救った人たちだね」
「救ったのは偶然だし、元々その人たちは私のために犠牲になったから、私に怒って良いと思う。あと、この人はどうして私に強い呪いをかけようと思ったのか。そこのところが全然分からないんだけれど」

 私に何か相容れない気持ちがあるんだろうし、この佐々倉と話をしてもきっと平行線のままだろう。でも、理由くらいは教えてもらわないと。今はそれができるような状態では無いけれど。

「ねえ、綾。これは、どうすればいいのかな」

 なんだか、これはもう私一人でどうにかできる話では無い。それを分かっていながら冷静なのは、妖怪は死とか怪我というものに関して少し鈍いから。それに、人を呪わば穴二つなのだ。私は妖怪だけれども。

 目の前の人間が一人、四肢を失い死にかけている。けれど、私にできることはなにもない。
 いくら人間と共存したいと思っていても、攻撃されれば種族に関わらず反撃はするだろう。その結果がこれだ。でも、人間だって私と同じことをされたら、同じことをすると思う。
 しかし、呪われた理由が分からないのは困る。他にも同じ理由で私を呪う人が出てくるかもしれない。

「なぜ澄を狙ったのかは、佐々倉が少し回復してから聞こう。これから佐々倉はうちのとこで保護観察に入る。回復させてみせるから」
「お願い。……佐々倉聡、こうなったこと、私は謝らないよ。他人を呪うと決めた時点で、あんたの負けだし。でも、これを望んでいたわけではないから回復してほしいと思ってる」

 綾の隣で屈み込んで佐々倉に伝えていると、隣から手が伸びてきて私の頭を優しく撫でた。

「澄は優しいね」

 そんなことないよ、と思いつつも撫でられる心地良い感触に目を細める。目の前の黒い塊から視線を感じたけれど、それを無視して私は綾に抱きついた。私は安全圏から悪意の塊を眺めるのだった。
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