人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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20. 額縁

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 私たちは森を進み、古びているけれど丁寧に手入れされた社に入った。そこには間引き戒めの額縁が掛かっている。間引き戒めの絵馬など地域によって差はあるものの、間引きされることが多い時代に各地で似たようなものが作られたらしい。
 間引きすることに同意した者たちは首に紐を巻きつけられ、反対した者は観音様の光を浴び、子供は観音様に祈りを捧げているというものだ。恐ろしい絵が描かれているのは、間引きをやめさせるためにだろう。
 近くに寄ると、その額に描かれている子供が外へと出てくる。この社がきれいに保たれているのはこの子のおかげだ。名前を太郎といって、とても人懐こい。

「あっ、いらっしゃい」
「久しぶり。元気にしてた?」
「うん! あ、なんかお姉ちゃんちょっと変わった?」

 太郎の言葉に私は首を傾げる。何も変わってないけど? 髪型も変えてないしなぁと隣の綾を見ると、額に手を当て、深いため息をついている。

「綾、ねえまだなんか私に伝えてないことある?」
「……だから、駄目って言ったんだよ」
「えー、だって仕方なかったしー」

 綾と洋介が言い合いをしてる横で、私はしゃがみこんで目線を合わせると太郎に尋ねた。

「何が違うかな?」
「えっとね、お姉ちゃん強くなってる……気がする。んとね、妖力が増えてて、前は全然違ってたけど今はそこの二人よりキラキラしてる」

 キラキラ? どういうこと?
 私は綾たちをジッと見つめる。視線をそらされても見つめたままでいたら、唸るような声を上げていた綾が、観念したように話しだした。

「あのあめ玉は単なる器ではなくて、限界まで注ぎ込んで割ることができれば上位の力を手に入れることができる代物なんだよ。この間は本当にこいつが悪戯で渡そうとしてたから止めたんだ」
「でも、今回のはそれがなかったら出られなかったわけだしさー」

 えーっと、私はなんの説明もなく、勝手に力を手に入れさせられたということなんだろうか。妖力が高いというただそれだけで人間と妖怪の二つの組織から狙われ、さらにどんなものかは分からないけれど力を手にしてしまったと。最悪だ。
 しかし、手にしてしまったのは仕方が無いし、あの状況ではあれが最善だったと私も思う。どうでもいいけれど何に使うんだよ、妖力。そんなのを持っていたって、できることは少ないんだから意味がないと思う。ああ、でもあめ玉にため込んで他の妖怪の補給源とすれば使い道があるのかもしれない。わー、妖力生産器になるのは嫌だな。そんな風に考えていると気が重くなってくるけれど、一つだけ確かなことがある。

「ねえ、私ってばこれからさらに狙われるんじゃ……」

 綾と洋介に深く頷かれた。やっぱり最悪だ。

「そうなんだよねー、だからどうしようかなって。俺の家で匿おうっかなーとも思ったんだけどさー、人数が多いから内部にお馬鹿さんがいる可能性もあるし」
「それはうちもだ。上が手を出すなと言っても、全員従うとは言いきれない。特に今回は」

 そんな酷い状況なの。なんてことだ。もう、自分とは違う世界の話のようで現実逃避したくなる。まあ、やったところで状況が改善するわけではないからしないけれど。
 ぐったりしながらも、二人から聞けることは聞いておこうと口を開く。

「ちなみに、私はいつから狙われてたの?」
「妖力が爆発的に強くなってきたのが今年に入ってからだから、その辺りから」
「澄ちゃん、その頃なんかあった?」
「まったく思いつかない。何もしてないと思うんだけれど」

 切っ掛けあると思うんだけどなー、と洋介が考えるそぶりを見せる。いや、あんたが考えたところで出てこないでしょ。私だって分からないんだから。
 三人でどうしたものかと思っていると、太郎がおずおずと手をあげた。

「ねえ、お姉ちゃんどこかに隠れたいの? 僕と一緒に額の中に居る?」
「え? そこに私も入れるの?」
「うん。観音様が良いよって」

 観音様、ありがとうございます! と私は絵と社の中の観音像に手を合わせた。観音様が味方なら心強い。普段は妖怪だし特に信心深くないんですが、お邪魔させてください。人間からも妖怪からも狙われてて、この世界に居場所がないなんて本当に悲しい。

「わーい、お姉ちゃんがここにいてくれたら嬉しい」
「私も嬉しい。これからよろしくね」
「うん!」

 その様子を複雑そうな顔で見てくる二人組。どう考えてもこれが最善。それを狙ってここに来たんじゃ? 私が外にいたら邪魔だよね?

「私、できるか分からないけれど頑張って組織潰したら良い? それとも隠れてた方が良い?」
「隠れてて欲しい。俺たちに考えがある」
「そうそう。俺たちけっこう強いし」

 こういうところは幼馴染なんだなあと思う。私は二人の気持ちを嬉しく思いながら微笑んだ。
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