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18土地、購入
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ぎゃいぎゃい言い合う二人を無視し、お茶を飲みながらエマと話していると。
「ダンジョンを見つけられたという事は、永住権を頂けましたのよね?!レーナお姉さまをどうにかしてアンブシュアに定住して頂こうと試行錯誤しておりましたが、ワタクシは安心致しました♡」
既にお姉さま呼びになってる!
そうなんだよねぇ。
このままだとここに永住してしまいそう。
温泉もあるし、一定の給金も出るし、私の発想はお金になるしでエマたちは私を離したくないだろうなー、とは思っていた。
「お二人で住まわれると思っていましたが、お兄さまもあの調子ですし…やっぱり一軒家で広めのお家がいいですわよね。あれを持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
エマはそれでいいんだろうか。一妻多夫制なんて私の中では全くNO!なのに、周りがそんな態度だから、私がおかしいのかな?と思ってきている。
「こちらです」
「ありがとう。お姉さまにオススメの場所を探させましたわ。1から家を建てるならこちら、家にこだわりがなければもう建てられているこちらをオススメ致しますわ」
一枚目は平地のイラストとどれくらい広いかが。
二枚目には家の外観と内部、広さ等が事細かく描かれている。
「やっぱ家は1から建てたいやんなー」
「僕はどちらでも構いません。ですが今後の事を考えると、やはり部屋は広く、多くないと…」
私の右側にカサト、左側にマルセルが座って紙を覗き込んできた。
さっきまでケンカしてたんじゃなかったのか。
それにマルセルはまだOKしてないけど?!
「…マルセルさん…」
「どうかマルセルと。呼び捨てで構いません、レーナ様♡」
そっちは様付けじゃん!
「僕は20歳の若輩者ですが、貴方を幸せにする事ができる一人だと自負しています。…どうか考えて下さいませんか?」
メガネの奥の黄緑色の瞳が揺れる。
くぅー!そんな眉8の字にして言われたら無下に出来ないじゃんかー!このイケメン顔共め!!
ついでにエマもそんな目で見ないでよ!
「…わかった!わかりました!但し!提案した事を無事に商品化出来てからね!?」
「…っ!レーナ様!ありがとうございます!ありがとうございます!」
私の手を握って頭を何度も下げた。
信仰されてるみたいで何だか嫌だなぁ。
後ろから深いため息が聞こえ、怖くて振り向けない。
「はぁあ。…まぁ、ええわ。一番は全部俺やったし。こんなえぇ女、独り占め出来るわけなかったんや…」
落ち込んでる?
本気で怒ってない所を見ると、やっぱり気持ちが理解出来る分、譲歩しているのかな。
だけど、すぐ腰に手を回されて抱きしめられる。
「マルセル、言っとくけどお前は4番目や!簡単に手に入ると思うなよ!」
「よ…んばんめ…!流石、女神様…!触れるのも恐れ多いけど…禁忌に触れたい気持ちもあります…!」
4番目?!もしかしてその中にディグ入ってない?まさか、そんな、ねぇ?
カサトを見上げて真意を問う。
「…えぇ女はえぇ男を統べる。何人でもえぇんや。平等に愛してくれたら、それで…」
と口付けて来たから、ここがどこで誰がいるかを思い知らす為に鳩尾に肘鉄を食らわせた。
「ぐはっ!」
「場所をわきまえなさいよ!!バカ!」
お腹を抑えうずくまり、軽く吐血する。
赤い顔で見ていたエマとマルセルは一瞬で青ざめた。
「…ヒール」
「…怒ってる顔も可愛い…けど痛いのはいやだな…」
「お姉さまの方が強いのね…」
と各々口にしていた。
善は急げという事で。
回復したカサトとマルセル、エマと一緒に土地を見に行く事になった。用意してくれた馬車に乗り込む。
街の真ん中付近に建てられた家は、昔貴族が使っていた家だそうで、買い手がつかず困っているみたいだ。貴族は没落してしまったらしいけど、中はボロボロ。外壁も蔦が巻き付いていつ崩れてもおかしくない。これだと立て直した方が良さそう。
建物を囲む様に塀が建っていて、周りには家が密集している。商会から近く大通りに面していて、買い物には向いている場所だと思うけど、人目が気になる私には向いていないかも。
もう一つの土地は、街の入り口から左側奥に行った所にあった。
街の外の森の木々が、街を囲む壁を通り越して立っている。その為か周りに家は少ない。木々の奥は広く、何故ここだけ拓けているのか?
「ここでは昔、牛を育てていたのですが…牛を狙いに木を伝って魔物が入ってきたりしたので、今は誰も近づかなくなっています。土地代も市税も安いのですが買い手が見つからなくて。商業地からも一番遠いですし」
買い物が困難で、誰も近づかない土地。
こんなに広いのに勿体無い。
「ここにします!」
安くで済むなら越したことはないし、目立ちたくない私にはうってつけだ。
私の返事にカサトはやっぱりなと頷く。
家が出来るまで宿暮らしだけど、仕方ないよね。
「僕もお金出します!交渉もお任せください!」
やる気のマルセルが頼もしく見える。
いや、まだ商品化してないから。と芽生えかけた何かを引っ込めた。
オルテュース商会に戻り、契約を進める。
簡単に見取り図も書いていいと言われたので、これくらいでー♪と楽しく考えていたら、エマにジャンプー等の在庫を置いていって欲しいと言われた。
シャンプー等の入れ物はプラスチックなので、燃やすと人体に有害な物質が出るかもと説明し、中身だけを売る方法を考えた。
大きな樽に腐食防止を加工し、中身だけを入れる。
蛇口を捻れば出てくる様にして、中身だけの販売なら安くて済ます事を提案した。
案の定、もの凄く喜ばれた。
なのでその樽を用意して貰い、3つずつ中身を創った。
大体の見取り図から外観と諸々の費用の算出はマルセルとエマに任せ、私達は宿に戻った。
宿に着く手前でカサトは、あ!と思い出した様に口にした。
「ここに定住するんやったら、家が出来るまでに俺の村に行った方がええんちゃうか?」
あ、完璧に忘れてた!
古の勇者の日記を見たいんだった。
「そうだね、そうしよう!すぐにでも出発した方がいいかな?」
「…そやな。この靴のお陰で着くのは早いと思うけど、長男の俺が違う場所に住むてなったら親父怒るかもしれん。その説得は長丁場になるかもな…」
そうか、カサトって長男なんだ?
「言うてなかったな。俺が長男で、下に兄弟が15人くらいおると思う。まぁ、まだおるかもしれんけど」
「え!?多くない?…もしかして、奥さん1人じゃない…とか?」
あははー!と笑って誤魔化すから、じとっとした目で見ておく。もしかしたら私も逆にそうなるかもしれないな、と思いながら。
「玲奈!遅かったね!」
宿に入ると、食堂で食べていた緋色が駆け寄ってくる。元気になって良かったと胸を撫でおろし、一緒に食べようと誘われた。
カサトを見ると、頷いたので今は近くに影はいないのかな?
椅子を用意して貰い、大所帯になった。
私の横に緋色、隣にはカサト。
ドラコが座りたがったけれど、緋色がどうしてもと押し切った。
ベルが徐に立ち上がり、私の横に立つ。
「ありがとう、レーナ。私達、とても危なかったわ」
優雅にお辞儀され、みんなもお辞儀してきたので、私は首を横に振って席に着くように促した。
「しかしあのダンジョンは…僕たちは貰った物があるから容易に入れるが、他の冒険者には過酷だろうな」
「あ!それについては相談があるんだけど!」
オルテュース商会から、ゴーグルとマスクを試して貰えるパーティを探すと言われていたので、ブルードラゴンに聞いておこうか?と言ったら凄く喜ばれた。そんなに有名なんだね、ドラコたち。
「でね、ちゃんとした商品が出来るまで、ダンジョンに潜って試してほしいみたいで。報酬も出るみたいだから、どうかなって」
「そういう事なら、報酬は貰わないでおこう。ダンジョンにはレベル上げの為に元々入るつもりだったから、魔物の買取りで報酬分くらいにはなるだろう」
「…それでいいの?」
「オルテュース商会に貸しが出来て、一石二鳥だよ」
明日にでもオルテュース商会に行って貰うようにお願いして、夕食を取る。
緋色はお肉やこの世界の味付けが苦手みたいなので、マジックバッグからおにぎりを出してあげる。
凄く喜んでくれたと同時に、熱々で出てきたので不思議がられた。
緋色には言ってもいいかな、とカサトを見ると首を横に振られた。
「…でもさぁ、緋色の事は包み隠さず知ってるのに、私は秘密だらけだと何だか嫌だなぁ」
「…はぁー…秘密を墓まで持っていけるんやったらえぇで。でも、教えるのは付与の事だけやで!」
小声でヒソヒソと話す。
緋色に後で一人で部屋に来てもらう様に言うと、笑顔を向けてくれる。
緋色の後ろのドラコから、僕は?何で?と悲し気に見つめられた。
「ドラコとは後でサシで話がある」
空気を察したカサトを心の中で褒めた。
食事が終わり、緋色と私は私達の部屋へ。
カサトとドラコは二人で温泉へ。
他のみんなは自室へ戻った。
「…実は、黙ってたスキルがあってね」
部屋の中を『遮音』し、効果付与について話す。
マジックバッグには収納無限大と、時間経過停止を付与している事を話すと凄く驚かれた。
「そうだったの!ならダンジョンで貰ったローブとマスクの効果付与もしてくれてたの?」
流石、鋭い!
頷くとやっぱり!と納得する。
緋色のバッグも同じ効果付与をしてあげ、その場でおにぎりや味噌汁、卵焼きを作ってあげると大喜びしてくれた。
「これでいつでも日本食が食べられる!ありがとう、玲奈!」
と抱きしめられ、何だかむず痒い。
あ、そうだ!ついでに髪留めを創り、効果付与で物理防御と全属性魔法耐性を付けておく。
「これ、あげる。今オルテュース商会で売ってる髪留めなの。明日には、私達出発すると思うから…」
「え…?…どこに行くの?」
「…カサトの故郷に、古の勇者の日記を見に…」
「それが終わったら、レーナたちはここに住むんだよね?」
「うん、そのつもりだよ。家が出来たら遊びに来てね」
「…うん。全てが終わったら、遊びに行くわ。…元の世界には帰れないみたいだし、将来どうするか私も考えなくちゃ」
古の勇者は帰らず後世は幸せに暮らした。
元の世界には帰れないんだ。
そう思うと、私は1人じゃなくて良かったと心から思える。
「…緋色もここで暮せばいいよ。効果付与で家の中は快適にしてあげられるよ」
「くす…便利すぎだよ、そのスキル。凄い魔法も使えるし、もしかしたら玲奈が勇者なのかもね?」
ドキーッ!としたけど、まさかー!とはぐらかしておいた。
そうこうしてカサトとドラコが帰ってきて、ドラコに話があると言われたので緋色は自室へ。カサトは廊下で待つと言われた。
ベッドに横並びで座り、ドラコが言葉を紡ぐまで少し静かになる。
湯上がりのいい香りにこっちまで熱くなってくる。
「…レーナは、僕の事どう思ってる?やっぱり、まだ怒ってるのかな?」
あんな夢を見せられたお陰で、ドラコの事はまだ信用ならない。
「…魔王討伐が終われば、パーティは解散する事になっている。その後…どうか僕を2番目の夫にしてほしい。君への気持ちは本物だから。どうか僕を受け入れてくれないだろうか…」
右手をぎゅっと握られ、熱い瞳で見つめられる。
ディグの事もマルセルの事もカサトに聞いたからと言われ、手を持ち上げて額に充て瞳を閉じた。
「…一人の人を複数で共有する事に抵抗がないわけじゃない。だけど、レーナはこれからもきっと複数から言い寄られると思う。…それほど魅力的で、共有しても手に入れたいから」
でも、ドラコたちには私の髪や瞳の本当の色を教えていない。
カサトは自分も黒目だし、古の勇者の子孫だから受け入れて貰えたけど。
ずっと騙したままでいるのは、私自身が許せなくなる。
もし昔の国王の隠蔽が今も続いているのなら。
スキルでどうにかならない?
『スキル:古の魔法解除を獲得しました』
タイミング良く獲得してくれるなぁ。いつもいつも。
「『古の魔法解除』」
「…?」
「…ドラコに黙ってた事がある。それを知っても私の事、求めてくれるなら…夫になってくれる?」
「…勿論!」
ゴクリと唾を飲み込むドラコの前で、本当の髪色と瞳の色を見せる。
「…これが本当の私なの…」
古の勇者と同じ髪色。ドラコに蔑まれるのは嫌だなと思いながら、黙っておけるほど強くもない。
「…髪が、黒い、けど…それがどうかしたのか?もしかして…暗黒龍と同じ色だから、髪染めをしていたのか?」
きっと隠蔽がまだ効いていたら、そんな瞳では見なかった。
曇りなき眼で見てくれる。
あぁ、隠蔽解除が効いてくれた!
「ドラコは…気持ち悪くない?この色が…」
「?どうしてそう思う?あぁ、他にその色の人がいないからか?」
首を傾げるドラコを抱きしめると、一瞬驚いたけれど、すぐに抱きしめ返してくれた。
そうだ、私がこの世界にまだ掛かってる『隠蔽』を解いて回ろう!
それが出来るのは私だけだ!
そうすればカサトも、カサトの村の人たちも黒に怯えなくて済む!
「…瞳も、黒なんだな。…綺麗だ」
顔をあげて見つめ合う。
カサト以外の唇を、初めて受け入れた。
不思議と嫌な気持ちにはならなくて。受け入れてしまえる自分が怖かった。
「…やっと、口付ける事が出来た。本当は、僕が一番になりたかったが、仕方ない。レーナはみんなの女神だから」
私、そんなに整った顔してないと思うんだけど。奇麗でもないし、背も低いし髪もボサボサだし。
急にドンッ!と扉を強く叩く音が響く。
「あぁ、第一夫が妬いている」
くす、と笑ったドラコはイタズラ気にまた私に口付けてすぐ離れた。
扉を開けると、嫉妬に塗れたカサトが入ってくる。
「ちょっと長いんちゃうか!」
「…仕方ないだろう。君たちは明日には出ていくと言うし、次会うのはいつになるかわからないんだから。…これくらいは我慢しろよ、第一夫」
第一夫という響きに機嫌を良くしたカサトは、仕方ないかと腕組みして頷いた。
「…じゃ、名残惜しいけど僕はもう行くよ。早くレーナと一緒になれるように、魔王討伐を最優先にしてね」
「あ、待って!」
右手を上げて出ていこうとするドラコを止め、手首に巻いてあるゴムに手を添える。もっと効果付与しておかなくちゃ。
「…レーナ…」
何を勘違いしたのか、ドラコが口付けてくる。
「あー!?」
カサトが見てる前なのに!
「ありがとう、レーナ。お互い頑張ろう。ひとつになるまで」
と笑顔で颯爽と部屋を去って行った。
絶対確信犯だ!!
物理防御と全属性魔法耐性の効果付与は間に合ったけど、後ろのカサトが怖くて見れない。
「…レーナ?とりあえず消毒しとこか?」
そのひっくい声が怖いのよー!!
ドラコのお陰で、嫉妬は朝まで続いた。
最後には、夫は俺だけじゃないもんな、と自分で自分を戒めていた。
それまでに嫉妬を減らしてみんなで共有出来る様にしとかなな。と私を抱きしめながら眠りについた。
「ダンジョンを見つけられたという事は、永住権を頂けましたのよね?!レーナお姉さまをどうにかしてアンブシュアに定住して頂こうと試行錯誤しておりましたが、ワタクシは安心致しました♡」
既にお姉さま呼びになってる!
そうなんだよねぇ。
このままだとここに永住してしまいそう。
温泉もあるし、一定の給金も出るし、私の発想はお金になるしでエマたちは私を離したくないだろうなー、とは思っていた。
「お二人で住まわれると思っていましたが、お兄さまもあの調子ですし…やっぱり一軒家で広めのお家がいいですわよね。あれを持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
エマはそれでいいんだろうか。一妻多夫制なんて私の中では全くNO!なのに、周りがそんな態度だから、私がおかしいのかな?と思ってきている。
「こちらです」
「ありがとう。お姉さまにオススメの場所を探させましたわ。1から家を建てるならこちら、家にこだわりがなければもう建てられているこちらをオススメ致しますわ」
一枚目は平地のイラストとどれくらい広いかが。
二枚目には家の外観と内部、広さ等が事細かく描かれている。
「やっぱ家は1から建てたいやんなー」
「僕はどちらでも構いません。ですが今後の事を考えると、やはり部屋は広く、多くないと…」
私の右側にカサト、左側にマルセルが座って紙を覗き込んできた。
さっきまでケンカしてたんじゃなかったのか。
それにマルセルはまだOKしてないけど?!
「…マルセルさん…」
「どうかマルセルと。呼び捨てで構いません、レーナ様♡」
そっちは様付けじゃん!
「僕は20歳の若輩者ですが、貴方を幸せにする事ができる一人だと自負しています。…どうか考えて下さいませんか?」
メガネの奥の黄緑色の瞳が揺れる。
くぅー!そんな眉8の字にして言われたら無下に出来ないじゃんかー!このイケメン顔共め!!
ついでにエマもそんな目で見ないでよ!
「…わかった!わかりました!但し!提案した事を無事に商品化出来てからね!?」
「…っ!レーナ様!ありがとうございます!ありがとうございます!」
私の手を握って頭を何度も下げた。
信仰されてるみたいで何だか嫌だなぁ。
後ろから深いため息が聞こえ、怖くて振り向けない。
「はぁあ。…まぁ、ええわ。一番は全部俺やったし。こんなえぇ女、独り占め出来るわけなかったんや…」
落ち込んでる?
本気で怒ってない所を見ると、やっぱり気持ちが理解出来る分、譲歩しているのかな。
だけど、すぐ腰に手を回されて抱きしめられる。
「マルセル、言っとくけどお前は4番目や!簡単に手に入ると思うなよ!」
「よ…んばんめ…!流石、女神様…!触れるのも恐れ多いけど…禁忌に触れたい気持ちもあります…!」
4番目?!もしかしてその中にディグ入ってない?まさか、そんな、ねぇ?
カサトを見上げて真意を問う。
「…えぇ女はえぇ男を統べる。何人でもえぇんや。平等に愛してくれたら、それで…」
と口付けて来たから、ここがどこで誰がいるかを思い知らす為に鳩尾に肘鉄を食らわせた。
「ぐはっ!」
「場所をわきまえなさいよ!!バカ!」
お腹を抑えうずくまり、軽く吐血する。
赤い顔で見ていたエマとマルセルは一瞬で青ざめた。
「…ヒール」
「…怒ってる顔も可愛い…けど痛いのはいやだな…」
「お姉さまの方が強いのね…」
と各々口にしていた。
善は急げという事で。
回復したカサトとマルセル、エマと一緒に土地を見に行く事になった。用意してくれた馬車に乗り込む。
街の真ん中付近に建てられた家は、昔貴族が使っていた家だそうで、買い手がつかず困っているみたいだ。貴族は没落してしまったらしいけど、中はボロボロ。外壁も蔦が巻き付いていつ崩れてもおかしくない。これだと立て直した方が良さそう。
建物を囲む様に塀が建っていて、周りには家が密集している。商会から近く大通りに面していて、買い物には向いている場所だと思うけど、人目が気になる私には向いていないかも。
もう一つの土地は、街の入り口から左側奥に行った所にあった。
街の外の森の木々が、街を囲む壁を通り越して立っている。その為か周りに家は少ない。木々の奥は広く、何故ここだけ拓けているのか?
「ここでは昔、牛を育てていたのですが…牛を狙いに木を伝って魔物が入ってきたりしたので、今は誰も近づかなくなっています。土地代も市税も安いのですが買い手が見つからなくて。商業地からも一番遠いですし」
買い物が困難で、誰も近づかない土地。
こんなに広いのに勿体無い。
「ここにします!」
安くで済むなら越したことはないし、目立ちたくない私にはうってつけだ。
私の返事にカサトはやっぱりなと頷く。
家が出来るまで宿暮らしだけど、仕方ないよね。
「僕もお金出します!交渉もお任せください!」
やる気のマルセルが頼もしく見える。
いや、まだ商品化してないから。と芽生えかけた何かを引っ込めた。
オルテュース商会に戻り、契約を進める。
簡単に見取り図も書いていいと言われたので、これくらいでー♪と楽しく考えていたら、エマにジャンプー等の在庫を置いていって欲しいと言われた。
シャンプー等の入れ物はプラスチックなので、燃やすと人体に有害な物質が出るかもと説明し、中身だけを売る方法を考えた。
大きな樽に腐食防止を加工し、中身だけを入れる。
蛇口を捻れば出てくる様にして、中身だけの販売なら安くて済ます事を提案した。
案の定、もの凄く喜ばれた。
なのでその樽を用意して貰い、3つずつ中身を創った。
大体の見取り図から外観と諸々の費用の算出はマルセルとエマに任せ、私達は宿に戻った。
宿に着く手前でカサトは、あ!と思い出した様に口にした。
「ここに定住するんやったら、家が出来るまでに俺の村に行った方がええんちゃうか?」
あ、完璧に忘れてた!
古の勇者の日記を見たいんだった。
「そうだね、そうしよう!すぐにでも出発した方がいいかな?」
「…そやな。この靴のお陰で着くのは早いと思うけど、長男の俺が違う場所に住むてなったら親父怒るかもしれん。その説得は長丁場になるかもな…」
そうか、カサトって長男なんだ?
「言うてなかったな。俺が長男で、下に兄弟が15人くらいおると思う。まぁ、まだおるかもしれんけど」
「え!?多くない?…もしかして、奥さん1人じゃない…とか?」
あははー!と笑って誤魔化すから、じとっとした目で見ておく。もしかしたら私も逆にそうなるかもしれないな、と思いながら。
「玲奈!遅かったね!」
宿に入ると、食堂で食べていた緋色が駆け寄ってくる。元気になって良かったと胸を撫でおろし、一緒に食べようと誘われた。
カサトを見ると、頷いたので今は近くに影はいないのかな?
椅子を用意して貰い、大所帯になった。
私の横に緋色、隣にはカサト。
ドラコが座りたがったけれど、緋色がどうしてもと押し切った。
ベルが徐に立ち上がり、私の横に立つ。
「ありがとう、レーナ。私達、とても危なかったわ」
優雅にお辞儀され、みんなもお辞儀してきたので、私は首を横に振って席に着くように促した。
「しかしあのダンジョンは…僕たちは貰った物があるから容易に入れるが、他の冒険者には過酷だろうな」
「あ!それについては相談があるんだけど!」
オルテュース商会から、ゴーグルとマスクを試して貰えるパーティを探すと言われていたので、ブルードラゴンに聞いておこうか?と言ったら凄く喜ばれた。そんなに有名なんだね、ドラコたち。
「でね、ちゃんとした商品が出来るまで、ダンジョンに潜って試してほしいみたいで。報酬も出るみたいだから、どうかなって」
「そういう事なら、報酬は貰わないでおこう。ダンジョンにはレベル上げの為に元々入るつもりだったから、魔物の買取りで報酬分くらいにはなるだろう」
「…それでいいの?」
「オルテュース商会に貸しが出来て、一石二鳥だよ」
明日にでもオルテュース商会に行って貰うようにお願いして、夕食を取る。
緋色はお肉やこの世界の味付けが苦手みたいなので、マジックバッグからおにぎりを出してあげる。
凄く喜んでくれたと同時に、熱々で出てきたので不思議がられた。
緋色には言ってもいいかな、とカサトを見ると首を横に振られた。
「…でもさぁ、緋色の事は包み隠さず知ってるのに、私は秘密だらけだと何だか嫌だなぁ」
「…はぁー…秘密を墓まで持っていけるんやったらえぇで。でも、教えるのは付与の事だけやで!」
小声でヒソヒソと話す。
緋色に後で一人で部屋に来てもらう様に言うと、笑顔を向けてくれる。
緋色の後ろのドラコから、僕は?何で?と悲し気に見つめられた。
「ドラコとは後でサシで話がある」
空気を察したカサトを心の中で褒めた。
食事が終わり、緋色と私は私達の部屋へ。
カサトとドラコは二人で温泉へ。
他のみんなは自室へ戻った。
「…実は、黙ってたスキルがあってね」
部屋の中を『遮音』し、効果付与について話す。
マジックバッグには収納無限大と、時間経過停止を付与している事を話すと凄く驚かれた。
「そうだったの!ならダンジョンで貰ったローブとマスクの効果付与もしてくれてたの?」
流石、鋭い!
頷くとやっぱり!と納得する。
緋色のバッグも同じ効果付与をしてあげ、その場でおにぎりや味噌汁、卵焼きを作ってあげると大喜びしてくれた。
「これでいつでも日本食が食べられる!ありがとう、玲奈!」
と抱きしめられ、何だかむず痒い。
あ、そうだ!ついでに髪留めを創り、効果付与で物理防御と全属性魔法耐性を付けておく。
「これ、あげる。今オルテュース商会で売ってる髪留めなの。明日には、私達出発すると思うから…」
「え…?…どこに行くの?」
「…カサトの故郷に、古の勇者の日記を見に…」
「それが終わったら、レーナたちはここに住むんだよね?」
「うん、そのつもりだよ。家が出来たら遊びに来てね」
「…うん。全てが終わったら、遊びに行くわ。…元の世界には帰れないみたいだし、将来どうするか私も考えなくちゃ」
古の勇者は帰らず後世は幸せに暮らした。
元の世界には帰れないんだ。
そう思うと、私は1人じゃなくて良かったと心から思える。
「…緋色もここで暮せばいいよ。効果付与で家の中は快適にしてあげられるよ」
「くす…便利すぎだよ、そのスキル。凄い魔法も使えるし、もしかしたら玲奈が勇者なのかもね?」
ドキーッ!としたけど、まさかー!とはぐらかしておいた。
そうこうしてカサトとドラコが帰ってきて、ドラコに話があると言われたので緋色は自室へ。カサトは廊下で待つと言われた。
ベッドに横並びで座り、ドラコが言葉を紡ぐまで少し静かになる。
湯上がりのいい香りにこっちまで熱くなってくる。
「…レーナは、僕の事どう思ってる?やっぱり、まだ怒ってるのかな?」
あんな夢を見せられたお陰で、ドラコの事はまだ信用ならない。
「…魔王討伐が終われば、パーティは解散する事になっている。その後…どうか僕を2番目の夫にしてほしい。君への気持ちは本物だから。どうか僕を受け入れてくれないだろうか…」
右手をぎゅっと握られ、熱い瞳で見つめられる。
ディグの事もマルセルの事もカサトに聞いたからと言われ、手を持ち上げて額に充て瞳を閉じた。
「…一人の人を複数で共有する事に抵抗がないわけじゃない。だけど、レーナはこれからもきっと複数から言い寄られると思う。…それほど魅力的で、共有しても手に入れたいから」
でも、ドラコたちには私の髪や瞳の本当の色を教えていない。
カサトは自分も黒目だし、古の勇者の子孫だから受け入れて貰えたけど。
ずっと騙したままでいるのは、私自身が許せなくなる。
もし昔の国王の隠蔽が今も続いているのなら。
スキルでどうにかならない?
『スキル:古の魔法解除を獲得しました』
タイミング良く獲得してくれるなぁ。いつもいつも。
「『古の魔法解除』」
「…?」
「…ドラコに黙ってた事がある。それを知っても私の事、求めてくれるなら…夫になってくれる?」
「…勿論!」
ゴクリと唾を飲み込むドラコの前で、本当の髪色と瞳の色を見せる。
「…これが本当の私なの…」
古の勇者と同じ髪色。ドラコに蔑まれるのは嫌だなと思いながら、黙っておけるほど強くもない。
「…髪が、黒い、けど…それがどうかしたのか?もしかして…暗黒龍と同じ色だから、髪染めをしていたのか?」
きっと隠蔽がまだ効いていたら、そんな瞳では見なかった。
曇りなき眼で見てくれる。
あぁ、隠蔽解除が効いてくれた!
「ドラコは…気持ち悪くない?この色が…」
「?どうしてそう思う?あぁ、他にその色の人がいないからか?」
首を傾げるドラコを抱きしめると、一瞬驚いたけれど、すぐに抱きしめ返してくれた。
そうだ、私がこの世界にまだ掛かってる『隠蔽』を解いて回ろう!
それが出来るのは私だけだ!
そうすればカサトも、カサトの村の人たちも黒に怯えなくて済む!
「…瞳も、黒なんだな。…綺麗だ」
顔をあげて見つめ合う。
カサト以外の唇を、初めて受け入れた。
不思議と嫌な気持ちにはならなくて。受け入れてしまえる自分が怖かった。
「…やっと、口付ける事が出来た。本当は、僕が一番になりたかったが、仕方ない。レーナはみんなの女神だから」
私、そんなに整った顔してないと思うんだけど。奇麗でもないし、背も低いし髪もボサボサだし。
急にドンッ!と扉を強く叩く音が響く。
「あぁ、第一夫が妬いている」
くす、と笑ったドラコはイタズラ気にまた私に口付けてすぐ離れた。
扉を開けると、嫉妬に塗れたカサトが入ってくる。
「ちょっと長いんちゃうか!」
「…仕方ないだろう。君たちは明日には出ていくと言うし、次会うのはいつになるかわからないんだから。…これくらいは我慢しろよ、第一夫」
第一夫という響きに機嫌を良くしたカサトは、仕方ないかと腕組みして頷いた。
「…じゃ、名残惜しいけど僕はもう行くよ。早くレーナと一緒になれるように、魔王討伐を最優先にしてね」
「あ、待って!」
右手を上げて出ていこうとするドラコを止め、手首に巻いてあるゴムに手を添える。もっと効果付与しておかなくちゃ。
「…レーナ…」
何を勘違いしたのか、ドラコが口付けてくる。
「あー!?」
カサトが見てる前なのに!
「ありがとう、レーナ。お互い頑張ろう。ひとつになるまで」
と笑顔で颯爽と部屋を去って行った。
絶対確信犯だ!!
物理防御と全属性魔法耐性の効果付与は間に合ったけど、後ろのカサトが怖くて見れない。
「…レーナ?とりあえず消毒しとこか?」
そのひっくい声が怖いのよー!!
ドラコのお陰で、嫉妬は朝まで続いた。
最後には、夫は俺だけじゃないもんな、と自分で自分を戒めていた。
それまでに嫉妬を減らしてみんなで共有出来る様にしとかなな。と私を抱きしめながら眠りについた。
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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***
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皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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