大量チートスキルをイマイチ使いこなせない勇者〜それは召喚に巻き込まれた私でした〜

MIILU

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42事の顛末とあらまし

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10日前ーーーー。

エタンに大切な人を殺したと告げられた後のお話。





私の大切な人が全員殺された。

エタンの手によって。

許さない、絶対に。

魔法が使えなくても精霊が見えるという事は、使役できる?



「…お願い…全精霊よ…私の想いに応えて…!」



涙でボロボロのぐしゃぐしゃ。

心もぐちゃぐちゃ。

エタンを恨めしい気持ちと、私だけが生きている屈辱。

集まってきた色とりどりの精霊たち。

痛々しそうに私を見つめる。



「お願い…!まだ生きているなら、みんなを仮死状態にして!」



初めての命令に快く頷く無数の精霊たち。

集まりきれなかった精霊にも繋がっていっているのが私にもわかった。

MPを殆ど使い、ぐったりしていると精霊たちが『終わったよ』と話しかけてきた。



『全部』

『うん、全部!』

『あっちもこっちも♪』

『でもやっぱりあそこだけは』

『無理だったねー』

「…全部…?」

『うん♪全部ー♪』

『これも壊す?』



白い精霊が私の両手足首の枷に触れる。



「壊せるの?!」

『壊せるよー♪えいっ♪』



言うが早いか、私を縛っていた枷は亀裂が入り壊れてしまった。

やった!これで魔法が使える?!



「ヒール!」



自身を回復する。

使える!

急いでみんなの元へ飛ぼうとしたけれど、エタンをどうにかしないと私の気持ちが収まらない。

沸々と怒りがこみ上げてきて、開いたままの扉から一歩廊下へ出ると、そこにはエタンと医者らしき人が倒れていた。



「え?倒れてる?」



エタンの元へ行き、鼻に手を翳しても息をしていない。

驚いて心音を聞こうと服の上から胸に耳を付けても、音がしなかった。



「…死ん…でる…?」

『死んでないよ』

『仮死状態だよ』

『女王様、願ったよね?みんなを仮死状態にって』



確かに願った。みんなをって。まさか?!



『この世界全部仮死状態にしたよ』

『あの城の中だけは無理だったけど』



一国が滅びるくらいの力というのも、あながち嘘ではないのかもしれない。



「…ピンポイントで生き返らせられる?」

『出来るよー!』



そう聞いて安心した。

とりあえず。どうしてもエタンを許せなかったから、光の精霊にお願いして両手足首に私と同じ枷を嵌めてから、エタンを起こして貰う事にした。



『あ!』

『…新しき勇者…この身体に何をした?』

『違うほう起こしちゃったー!てへぺろ』



無邪気な精霊の言葉と低く暗い声に驚いて、開いた口が塞がらない。

エタンじゃない何かが、その身体を起こし目を私と合わせた。



「…エタン…じゃない…?」

『我は暗黒龍…この身体を乗っ取れるとは。精霊には感謝せねばな』



ニヤリと笑う、エタンの様でエタンでないその人は、私の首に手をかけて床に叩きつけた。



「うっ!」

『はは!新しき勇者よ、お前はどれほど強いのだ?光の枷を我にしても、力はこの身体の方が強そうだな?』

「かっはっ!やめっ!」



腕を掴んで離そうとするけど、ビクともしない。

次第に息が苦しくなって、藁にもすがる思いでエタンを睨みつけた。涙が溢れる。

お願い。

この身体の持ち主なのなら、魔を飼いならしなさいよぉ!



「やめろ!レーナに手ぇ出すんじゃねぇ!」

『なにっ?!』

「ゴホッ!」



一人芝居みたいになっているけど、手が手を離してビタンと床にくっつける。

精霊がエタンを起こしてくれたみたい。

必死に息を整えて、エタンを見た。



「レーナを傷つけていいのは俺様だけなんだよぉ!」

『…勇者を殺す機会が…!まさか…貴様、この勇者を愛しているのか…?』

「愛なんて知らねぇ!だが、レーナを殺るのは俺様だ!お前じゃねぇ!」

『…それを愛と呼ばず、何と呼ぶ』

「うっせぇ!黙れよぉ!」



真っ赤な顔でうろたえるエタンを初めて見た。



「…エタン…私の事、殺したい程愛してるの?」

「っ?!うっせ!うっせぇよぉ!俺様だけのものにしたいくらいには愛してるに決まってんだろぉ!?」

「…だからって、私の大切な人を殺して良いことにはならない」

「ぅぐっ!」

『…くっ!わっはっはっはっは!』



いきなり大声で笑い出した暗黒龍は、目尻に涙を溜めて拭った。



『久方ぶりに笑った。この身体が勇者を殺められないのなら、我がここにいる理由はない。それに…』



私の頬を触って、慈しむ様に見る瞳からはもう殺意が感じられない。



『…我ももう疲れた。そろそろ次代で生まれ変わろうぞ』

「触んなよぉっ!俺様のだぞ!」

『くっ、この身体の主は短気で仕方ないな。勇者よ、主にも慈悲をやってくれ』



慈悲、と言っても。みんなを殺したという事実があるから、私にはとてもじゃないけどエタンを許す事が出来ない。

たとえ私を愛しているから、手に入れたいからした事だと言われても。



『なに、あいつらは生きてるさ』

「あ!てめぇ!!」

「…え?」

『今は魂が2つに別れたが、あの時我は主と一心同体だった。だからわかるが、主は勇者の仲間たちを殺してはいない』

「…ほんと?」



期待の眼差しを向けると、バツが悪そうに顔を歪ませる。



「ちっ…殺ってはない…半分だけ殺った。俺様のレーナをみんなで囲って楽しそうだったからよ…ついカーッとなっちまって…。まさかこうなるとは思ってなかったけどぉ…」



みんなが生きてる?!

仮死状態にしたのは間違いじゃなかった!



「あいつらが生きてるなら、いつかはここに来て魔王を倒すと思ったんだよぉ。俺様の中に眠ってるこいつごと俺様をな。その頃にはレーナは俺様なしじゃ生きられなくなってるから…俺様に加勢してくれると思ってぇ…」

「エタン…死ぬつもりだったの?」

「…今、レーナを手に入れられるのなら…あいつらに殺されても良かった…。その時はお前の手で死んでも…俺様は喜んでお前の剣を受けてたろうなぁ…」



ドSなのかドMなのか。

ツンツンなのかヤンデレなのか。

わからないけど、そうまでして私を一人占めしたかったの?エタンって、私の手におえる?取り扱いに困る。



『…魂が一つのままならそうなっていただろう…。だが今は2つに別れている。我を倒す術なら教えてやらんでもない』

「「えっ?!」」

『何を驚く。我を倒す為に召喚されたのだろう?哀れな異世界の住民よ。なに、タダでとは我も言わん』



ニヤリと笑ったのは暗黒龍なのかエタンなのか。



『昨夜、主と交わったであろう。確実に着床したはずだ。その子を堕ろさず産んでほしい。ただそれだけだ』

「えっ!」

「確実にって!着床したって、そんなのわかんないじゃない!」

『いや、わかる。昨夜主が言ったように、新月の夜には我の力が強くなり、子孫を残そうとする力が強くなる』

「で、でも…私…」



一番初めに産む子供はカサトとの子供って決めてた。それがカサトとの約束でもあるし、私のカサトへの想いのカタチだから。



『では、我はこのまま主の身体に居続けるしかないか。我がいなくなれば皆は平和に暮らせようものなのになぁ。次に召喚される勇者を待たねばならんのか…。それまで、今まで通り人間共は魔王の存在に、恐怖に慄き、不安でいっぱいの毎日を生きねばならんのか…』

「…魔王は、倒さなければいけないの?」

『我がいなくなれば、魔物もいなくなるだろう。冒険者共は途方に暮れ、露頭に迷うだろうが…新しい時代が来るいい機会なのだがなぁ』



自分が死んでしまうのに、楽しそうに話すのはどうして?



『…我を解き放ってくれ。我はオームラとの戦いで倒されて満足しておるのだ。未練はない。強き者に倒されて、やっと眠られると思ったのに。この地に縛りつけられて、新しき勇者と戦わされてまた倒されて。そんな繰り返しをしたくはない。…頼む』



頭を下げられて、NOなんて言えなかった。

カサトには申し訳ないけれど。

暗黒龍を解放出来るなら、願ってもないことだから。

お腹に手を充ててエタンを見る。覚悟、した。



「…わかった。一番に、この子を産むよ」

「レーナ…!」

『…ありがとう。主とも仲良くしてやってくれ。主は親の愛情もなく育てられ、人を愛する事に馴れておらん』

「うっせぇ!余計なお世話だぁ!」

「…大丈夫。エタンも私の夫ですから。みんな平等に愛します。そうよね?エタン。私はみんなのもので、みんなは私のものなの。一人占めは出来ないけど、みんなと仲良く出来るわよね?」

「うぐっ!」



いい笑顔を向けると、心底悔しそうだ。

どうしても一人占めしたいみたい。



『…主、勇者たる者は番一人では到底抑える事は出来ない。元々持っている力が違うのだ。皆で発散させなければ狂ってしまう』



え?そうなの?と思ったけどどうやら嘘らしい。

エタンの顔でウインクしてこないで。

ちょっと怖いし、エタンそんなキャラじゃないから。



「う…うぅ…わかったよぉ!」



説得させてくれるなんて。暗黒龍っていいヤツ?

腑に落ちない顔で私を抱きしめてきたけれど、



『…これで我も…そなたの元へ…』



小声で言った暗黒龍の言葉が聞こえないくらいぎゅうぎゅうに抱きしめられて、エタンの頬をグーパンチして身体を離した。







暗黒龍が言うには、魂をこの世に留めている物を壊せばいいとの事。

それは、暗黒龍の魔石。

オームラとの戦いで身体が朽ちた際にドロップした魔石を、壊さなければ永遠に魂は浄化されない。

転生を繰り返して魔石を探してきたが、私の精霊魔法でも影響を及ぼさないお城にあるだろうと目星をつけた。



『…勇者の聖魔法があれば壊せるだろう。問題は城のどこにあるか、だが』

「…ほんまに暗黒龍なんか?俺たちを半殺しにしたんって?」



あれから。

アンブシュアの宿で手当てされてベッドで寝ていたみんなを回復してから起こした。

本当に半殺しに留めてくれたみたいで、手練の回復魔法使いがいなかったから危なかったみたいだけど。

今は家に戻ってテーブルに私、カサト、ドラコ、ハルト、ネージュ、緋色、エタン、ビーバ、ベル、キッキリ、ジュード、グリさんがいた。

ネージュは私を後ろから抱きしめて、グリさんは緋色の後ろに立っている。



「…到底信じられませんが。レーナ様が戻られたので…信じるしかないかと」

「エタンは暗黒龍に操られていたのか。同族を殺めたのも暗黒龍だと…。元々魔物なのだから、それなら辻褄が合う気がする」



えぇ、えぇ。いい感じに丸め込んでおきました。

みんなを騙す様で申し訳ないけど、そうした方がいいと暗黒龍に言われたから。

エタン本人はあまりいい気してないみたいだけど、それでも黙っているのは私が言い聞かせたから。

枷で力が前みたいに出ないみたいだし、愛してあげないわよって言ったら半泣きになってた。



「それなのにこんどはじょうぶつしたいって?むしがよすぎない?」

『…この通り、レーナ殿に捕らえられ、我は正気に戻った。転生を繰り返して1000年…そろそろ我を眠らせてほしい。…後生だ』



頭を垂れ、みんなにお願いする。

その姿は真摯的で、みんなの心も動いた事だろう。



「…わかった。そういう事にしとったろやないか。…んで、どうやって城に入るんや?」

「それは多分、簡単に入れるんじゃないかな?本題は、どうやって国王に魔石の場所まで案内させるかよねー」



深いため息が広がる。

入るのは簡単だ。

結界の外には未だに仮死状態になる魔法が発動しているから、怖がって外に出ない=警備が手薄になっているだろうし。

1000年も隠してきた魔石を、どうやって案内させよう?

緋色があっ、と何かを思い出した様に拳を手のひらに打ち付けた。



「ね、玲奈。私達が召喚された所にあったかも。真っ黒い石」

「ほんと?!私見てないけど!」

「だって、玲奈の後ろにあったから。私は、玲奈を守ろうとした時に見ただけだから、あれがそうかって大見得切って言えないけれど…」

『真っ黒くて人一人分くらい大きな、菱形の石だったか?』

「多分そうです!すぐ後ろに人が立ってると思ったら、石だったから。直ぐに目の前の人たちに話しかけられて意識がそっちに行きましたけど」

『…間違いない、それだ。人を異世界から召喚するくらいの力なら残っているだろうしな』



城の外に出られない以上、勇者である緋色がどうなったかなんて誰もわからない。

だから、きっとまた勇者を召喚するかもしれない。

それに立ち会えたら魔石の元へ行ける!



「魔石を壊して暗黒竜を解放する。

そして、もう勇者なんて召喚させない。絶対に!」
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