1 / 4
プロローグ
病弱な少年
しおりを挟む
「かっこいいな……」
テレビに映る存在に、僕は胸を躍らせた。
鮮やかに血を操り悪人を成敗し、瀕死の人間にはそっと血を分け与え命を救う存在──血の君主。
僕は一瞬でその存在の虜になった。
僕も血を操り、格好良く人々を助けたい。そう強く心に願った。
しかし目を移せば、そこにはベットに横たわる自分の体があった。
僕は生まれつき病弱で、まともに動くことすらままならない。
だから血の君主になりたいだなんて、本当に夢でしかなく、僕には虚しい願いなのだ。
「はあ……」
僕はため息を吐いた。
何度この虚しさを感じたかは、もう覚えていない。
窓の外を見ると、先月は満開だった桜は既に大半が枯れてしまっていて、あと何枚かの花びらしか残されていない。
もういっそのこと、花びらと一緒に死んでしまいたい。
そう思うようになった。
辛い。
毎日ベッドの上で過ごすことが、僕にとっては耐えられない苦痛と化していた。
僕もみんなのように外で走り回りたい。
テレビで見たスポーツに全力で取り組んでみたい。
そんな当たり前の願いでさえ、僕にはひとつたりとも叶いはしないのだ。
なんで僕は生きているのだろうか。
何のために僕は生かされているのだろうか。
教えてくれよ。教えてくれよ、母さん。
【その日の夜】
僕は何かの物音で目を覚ました。
消灯時間はとっくに過ぎていることが分かるし、何より起きたところですることはない。
個別の病室であるのでテレビでも見ようかとも考えたが、イヤホンは繋がっていないのでそれはやめておこう。
僕はおもむろに目を瞑る。
しかし、一度起きてしまってすぐには眠ることができない。
「ダメだ……」
何度試みようとも眠ることは出来ないようだ。
諦めて天井でも眺めていよう。
暫くすれば眠気もするだろう。
体感時間で一時間ほど立った気がし、僕は時計に目をやる。けれども、時計が示す時間は十分ほどしか進んでいなかった。
「眠れないな」
半ば眠ることを諦め、朝まで血の君主になったら何がしたいという想像をすることにした。
その方が楽しいかもしれない。
叶いはしないが、時間潰しにはなるだろう。
と、考えていると静かにドアが開いた。
「看護婦さん?」
僕はドアから近づく人影に問いかけた。
多分看護婦さんであろうと、何の心配もしていなかったが、影が近づくと共に僕は目を見開くこととなった。
「だ、誰……?」
そこにいたのは看護婦ではなく、ロングコートを着た見知らぬ老人であった。
彼はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出すと、ある動画を僕に見せた。
『ごめんね。お母さん、もう疲れちゃったの。ろくでなしの夫に、病院から動けない子。どっちの世話をするのも、もう限界。だからお母さん、もう全部終わりにしたいの』
画面に映し出されているのは、明らかに自分の母親であり、最も信じていた筈の人。
見間違えることなどない。だって、僕が一番愛を求めていた人なのだから。
「どうして?嘘だよね、母さん?」
動画には続きがあった。
『だからこの人にお願いしたの。夫も子供も、どっちも殺して頂戴って。だから、お願い────』
老人はもう片方の手で銃を握った。
銃口は僕の脳天に向けられ、何一つの揺らぎはない。確実に僕を殺す気だ。
やめて、やめてよ母さん。
僕いい子にするよ。何でも言うこと聞くよ。
だから、死んでなんて言わないでよ。
僕は生きてちゃいけないの?
嘘だよね?全部、嘘なんだよね?
これは現実じゃない。夢だ。夢以外あり得ない。全部、僕の夢だ。
こんな夢早く覚めてくれよ。
『────死んで』
動画の終わりと同時に引き金は引かれ、発砲された弾丸は僕の頭を貫いた。
痛い。体が焼けるように熱い。
夢なんかじゃ無かった。全部、現実だった。
あんなにも僕は信じていたのに、裏切られた。こうもあっさりと。情なんてなく。
ああ、これは死んだな。
溢れ出す血は止まる気配を見せず、僕の視界を赤く埋め尽くしていく。
こんな時、血の君主だったらな。
血を止めて、流れてしまった血は鮮やかに、あの老人を殺す武器に変えられたのに。
今の僕じゃ何もできずにただ、死を待つだけだ。
死にたいって思っていたけど、何もできずに死ぬとなると後悔しか生まれないや。
やだな。この先僕はどうなるんだろうか。
天国に行けるのかな、それとも地獄かな。
どっちにしても、ここよりはいい場所か。
もしも、もう一度人生が歩めるのなら、今度こそ血の君主になってみたい。あの存在のように、血を操って人を救いたいな。
スローだった時間はあっという間に過ぎ去り、僕の脳内は思考能力を失う。
次第に視界は黒く変わっていき、いつしか僕の意識は遠い何処かへと消えてしまっていた。
テレビに映る存在に、僕は胸を躍らせた。
鮮やかに血を操り悪人を成敗し、瀕死の人間にはそっと血を分け与え命を救う存在──血の君主。
僕は一瞬でその存在の虜になった。
僕も血を操り、格好良く人々を助けたい。そう強く心に願った。
しかし目を移せば、そこにはベットに横たわる自分の体があった。
僕は生まれつき病弱で、まともに動くことすらままならない。
だから血の君主になりたいだなんて、本当に夢でしかなく、僕には虚しい願いなのだ。
「はあ……」
僕はため息を吐いた。
何度この虚しさを感じたかは、もう覚えていない。
窓の外を見ると、先月は満開だった桜は既に大半が枯れてしまっていて、あと何枚かの花びらしか残されていない。
もういっそのこと、花びらと一緒に死んでしまいたい。
そう思うようになった。
辛い。
毎日ベッドの上で過ごすことが、僕にとっては耐えられない苦痛と化していた。
僕もみんなのように外で走り回りたい。
テレビで見たスポーツに全力で取り組んでみたい。
そんな当たり前の願いでさえ、僕にはひとつたりとも叶いはしないのだ。
なんで僕は生きているのだろうか。
何のために僕は生かされているのだろうか。
教えてくれよ。教えてくれよ、母さん。
【その日の夜】
僕は何かの物音で目を覚ました。
消灯時間はとっくに過ぎていることが分かるし、何より起きたところですることはない。
個別の病室であるのでテレビでも見ようかとも考えたが、イヤホンは繋がっていないのでそれはやめておこう。
僕はおもむろに目を瞑る。
しかし、一度起きてしまってすぐには眠ることができない。
「ダメだ……」
何度試みようとも眠ることは出来ないようだ。
諦めて天井でも眺めていよう。
暫くすれば眠気もするだろう。
体感時間で一時間ほど立った気がし、僕は時計に目をやる。けれども、時計が示す時間は十分ほどしか進んでいなかった。
「眠れないな」
半ば眠ることを諦め、朝まで血の君主になったら何がしたいという想像をすることにした。
その方が楽しいかもしれない。
叶いはしないが、時間潰しにはなるだろう。
と、考えていると静かにドアが開いた。
「看護婦さん?」
僕はドアから近づく人影に問いかけた。
多分看護婦さんであろうと、何の心配もしていなかったが、影が近づくと共に僕は目を見開くこととなった。
「だ、誰……?」
そこにいたのは看護婦ではなく、ロングコートを着た見知らぬ老人であった。
彼はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出すと、ある動画を僕に見せた。
『ごめんね。お母さん、もう疲れちゃったの。ろくでなしの夫に、病院から動けない子。どっちの世話をするのも、もう限界。だからお母さん、もう全部終わりにしたいの』
画面に映し出されているのは、明らかに自分の母親であり、最も信じていた筈の人。
見間違えることなどない。だって、僕が一番愛を求めていた人なのだから。
「どうして?嘘だよね、母さん?」
動画には続きがあった。
『だからこの人にお願いしたの。夫も子供も、どっちも殺して頂戴って。だから、お願い────』
老人はもう片方の手で銃を握った。
銃口は僕の脳天に向けられ、何一つの揺らぎはない。確実に僕を殺す気だ。
やめて、やめてよ母さん。
僕いい子にするよ。何でも言うこと聞くよ。
だから、死んでなんて言わないでよ。
僕は生きてちゃいけないの?
嘘だよね?全部、嘘なんだよね?
これは現実じゃない。夢だ。夢以外あり得ない。全部、僕の夢だ。
こんな夢早く覚めてくれよ。
『────死んで』
動画の終わりと同時に引き金は引かれ、発砲された弾丸は僕の頭を貫いた。
痛い。体が焼けるように熱い。
夢なんかじゃ無かった。全部、現実だった。
あんなにも僕は信じていたのに、裏切られた。こうもあっさりと。情なんてなく。
ああ、これは死んだな。
溢れ出す血は止まる気配を見せず、僕の視界を赤く埋め尽くしていく。
こんな時、血の君主だったらな。
血を止めて、流れてしまった血は鮮やかに、あの老人を殺す武器に変えられたのに。
今の僕じゃ何もできずにただ、死を待つだけだ。
死にたいって思っていたけど、何もできずに死ぬとなると後悔しか生まれないや。
やだな。この先僕はどうなるんだろうか。
天国に行けるのかな、それとも地獄かな。
どっちにしても、ここよりはいい場所か。
もしも、もう一度人生が歩めるのなら、今度こそ血の君主になってみたい。あの存在のように、血を操って人を救いたいな。
スローだった時間はあっという間に過ぎ去り、僕の脳内は思考能力を失う。
次第に視界は黒く変わっていき、いつしか僕の意識は遠い何処かへと消えてしまっていた。
0
あなたにおすすめの小説
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」
その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ!
「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた!
俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる