臆病者と呼ばれても

赤井水

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「寂しいよ~辛いよ~怖いよ~」

1人の子供が真っ暗などこまでも続く闇を見て咽び泣いていた。

俺はそれを常にただ見つめるだけだ。

俺にはそれをもう向き合う資格は無い。
ただ只管見つめて心の中で謝るだけだ。

人は孤独の闇の中で光を見つけ道を作る。
それを拒絶して閉じ込めた心根を受け入れ関わり本心を表に出してはならない。

それが俺の罪であり、罰でもある。

今日もまた何ひとつ成長出来ぬまま閉じ込められた泣いている子供の頃の心の自分自身を見て謝るだけだ。

ふと、体の感覚が戻る、心臓の鼓動と嫌な脂汗が体を覆う気持ち悪さが残る。

瞼を開けると、今日も陰鬱な1日が始まる朝日がで意識の覚醒を促す。

「はぁ、毎度の事ながら最悪の目覚めだな」

そう独り言を呟きながら布団から出て井戸の水を汲みに向かう。

顔を洗った後は、木刀を持ち素振りを始め朝のルーティンが始まるのであった。

素振りを始めて2時間が経った辺りで宿の中から冒険者が出てくる。

「ぷっ、くそ雑魚最低の冒険者なのに鍛錬は1丁前だよな」

そちらに視線だけ向けると、筋骨隆々のスキンヘッドの冒険者が大剣を持ち振り回している。

「けっ、反論も出来ねぇのかよ、くそビビりが早く辞めちまえよ」

多分冒険者を辞めろと言ってるんだろうけど、ここはわざと鍛錬をやめて桶に水を汲んで部屋に戻る事にする。


わかってる、俺には攻撃力のある重量級の武器を扱う事は出来ず剣術も速度と切れ味を持ち味にした物は扱えない。

出来る事は相手の力を利用してちまちま傷を与えて弱らせて倒す事しか出来ない。

厄介なタイプの剣術であり、対人戦で相手を抑える訳でも無く嬲り殺す剣術だ。

誰にも言ってないが、俺の目は魔眼だ。
脅威の眼メナスのめ自分を殺し得る脅威に対する事柄にのみ反応する眼だ。

初めて開眼したのは5年前の10歳になった年に孤児院が魔物に襲われた時だった。
赤く目の前が色付けられた瞬間、俺は本能で動き安全な場所に逃げていた。

ついさっきまで楽しく話してた子供達、いつも暗くひとりぼっちの俺に優しくしてくれたシスターの悲鳴と絶叫を聴きながら震えて隠れていた臆病者だ。

 この事を思い出す度に心の中からマグマの様に湧き上がる怒りと死に対する恐怖。

この怒りのままに冒険者になって魔物をぶちのめそうとした。
無理だった……必死に覚えた剣術も腰抜けだった。

最弱の魔物と言われるゴブリンにすら喰らい付けなかった。
まぁ、最初の討伐依頼でゴブリン5体に囲まれてボコボコにされた訳だ。

学も無く、腰抜けの俺には商人にも騎士にもなれる訳がなかった。
ただひたすら冒険者にしがみついて早5年今はやっとゴブリンやスライム、コボルトと言った低級魔物に勝てる様になった程度だった。

流石に5年も冒険者として最底辺に居れば有名にもなる。
強く英雄的な冒険者には2つ名が与えられる。
そして、逆に悪逆非道であったり悪目立ちする冒険者にも2つ名という蔑称が与えられる。

『陰鬱の臆病者チキン臆病者』
これが俺に与えられた蔑称だ。
必要最低限の会話しかせず、魔物にも腰が引けているという雑魚。

 魔眼を隠す為に前髪を伸ばし、最底辺のランクで最底辺の依頼しか受けれない雑魚という訳だ。

まぁ、正直に言うと新たな可能性を開く為に魔術を勉強しているのだが教えて貰うにも師匠を探す必要があるのだが。
ハッキリ言おう、無理だった。

こえーよ知らない人にこんな暗い奴が話しかけたら迷惑だろ?嫌がられるだろ?無理だよ。
何年まともに人と会話してないと思うんだよ!


そんなこんなで、最低限の依頼を受けて毎日図書館に通っている。

 図書館に通っている理由は弟子には出来ないが基礎なら教えても良いととある人に言われたからだ。


部屋に戻り柔軟をして汗を拭き、装備のチェックと魔力の制御を行う。
これが大事らしいのだ、この世界に存在する全ての生命には魔力が宿っている。

人によって大なり小なりはあるが、魔術を扱うにはこの魔力を意識して動かさないといけない。
それに魔眼持ちは魔力を眼で扱っている為魔力が多いと本に書いてあったから不幸中の幸いだった。

簡易砥石で剣を磨いだ後は、ポーション等の道具をチェックして装備する。

周りに忘れ物が無いかを確認して外に出る。
桶の水を捨て洗い、通りに出ると朝早くにも関わらず徐々に人々が動き出していた。

『ラクルト王国・迷宮都市ムザル』
それが俺の居る場所の名前だ。大陸にある5つの国全てにダンジョンと呼ばれる迷宮に都市が作られ冒険者の街と言われている。

今日も荒くれ共の狂宴に合わせて街が動き出したのだ。
この都市はダンジョン資源で成り立っている。

なので冒険者を誘致しようと必死なのだ。
冒険者が集まれば集まる程、経済が潤うという訳だ。

実力があればソロでもパーティーでも名を馳せ、クランや国に勧誘される。

この都市には数百のクランがある。
クランに入れない、又は入らない者は冒険者ギルドに行き依頼を受けて金を稼ぐ訳だ。

まぁ、実力があれば魔物の素材やマジックアイテムを売ってお金になるが俺には無理だから……そんな深い階層には潜れないし
依頼を受ける為にギルドへと向かう。


依頼が張り出されるのは朝・昼・夜各3回あるが1番多く張り出されるのは朝だ。

長期間潜らないといけない依頼は基本的にクランや高位ソロ冒険者への指名依頼になる。

俺みたいなEランク冒険者には朝一に張り出される依頼位しか取れないのだ。
昼や夜に張り出されるのは緊急的にその素材が必要になった場合位だからな。

依頼が張り出されるボードの目の前には既に数組のパーティーとソロ冒険者が居たのでその後ろに並ぶ。

とは言っても、ゴブリン・スライム・コボルト討伐しか受けれないけどな。
と自嘲しながらも張り出されるのを待つ。

受付嬢が依頼を張り出し始める。
張り出しが終わると朝の鐘が鳴ったと同時に依頼受付開始だ。

すぐにコボルトの依頼とスライム捕獲の依頼書の2枚を取り受付に行く。

「ラクサ・レーヴェさんおはようございます。コボルト5体の討伐とスライム3匹の捕獲の依頼の受付完了しました。お気を付けて」

いつもの事務的なやり取りを終えて俺はダンジョンへと向かう。

ラクサ・レーヴェ
レーヴェは魔物に襲われて潰れてしまった孤児院の名前を貰った。
ラクサは昔召喚された勇者の国の花の名前を逆から読んだ物だ。
俺が孤児院の目の前に籠に入れられ捨てられていた時にピンク色の花が裏返しで置かれていた事からシスターが付けてくれた名前だった。

全世界の子供達が1番最初に憧れるであろう存在が"勇者"
御伽噺として語り継がれている。

俺も子供の頃は憧れた。
自分にもそんな力が眠っているんじゃないか?
なんて、期待もしたが今の所勇気もなければ力もない。
唯一の魔眼の長所は自分にマイナスな変なマジックアイテムや武器を掴まない所だろうな。
呪われた武器やマジックアイテムは黒いオーラが脅威として見える。

冒険者の世界は実力主義で"力こそが正義"
どんな理想論や悪人だろうと力がなければ通らないだからこそ慎重にならなければならない。

今もダンジョンの入口で声掛けをしている4人組の男達。
こいつらは2人組やソロの初心者冒険者の女を狙って行動しているクズだが実力が中位冒険者なので誰も言わない。

情報を集めていれば要注意人物として上げられる連中だ。
あーあー今も話しかけられている2人組の女の周りには脅威のオーラで真っ赤だ。

誰も目にも留めない自業自得で終わらせる狂った世界。
黒いオーラが出ていれば呪いや殺意だから力で跳ね返さないと無理だが……


ドンッ
「あ?痛てぇな、って臆病者じゃねぇか。何ぶつかって来てんだよ。何ボソボソ言ってやがる」

1人の男がキレて殴りかかって来る。
脅威の眼を使えば余程の差が無ければ基本的に避ける事は出来る。

男達はヘラヘラして居たがだんだんイラつき1人また1人と数が増えてくるが俺にとってはただのゲームだ。

スキルや魔術を使えば憲兵や中位・高位冒険者が排除に動く事を知っているからだ。

「ちょこまかと避けやがって当たれや!」
それは暴論だろうよ。
流石はアホだ、こいつらは短気だからな。

あーあーめっちゃやばい脅威が出てきた。
そうこれが力こそが正義という言葉通りに他の冒険者が動いた証拠だ。

俺は色が最大限赤くなった瞬間その範囲から逃れる。

「ぎゃあああ」
雷魔術パラライズか……

「あんたも喰らいなさいよ!避けてんじゃないわよ!」
後ろから声が聞こえた瞬間、ビリッと全身に電撃が走ると体が動かなくなった。
ちっ化け物め。

最古の最大手クラン『夜明けの燐光』
勇者が在籍してた事もあると言われている程昔から存在しているクランだ。

そして介入してきた女は俺と同い歳でありながら絶対的な才能を持ってA級冒険者として有名な『痺れ姫』と言われている女だ。

雷魔術を好んで使い、見ると痺れる程の美少女という意味らしい。
俺にとっては毒女だと思うけどな。

いやー何で俺までわざわざ麻痺させてくるのかは謎なんだよな……

「ラクサ!あんた何で避けんのよ魔術2回も使わせんじゃないわよ!」
暴論だ。

「おい、あれって痺れ姫じゃねぇか!眼福眼福」
「アイツら終わったな。ミヤ様に喧嘩を売るとは」

何て騒ぎになり始めている。
最悪だ。俺は来るやつが大体分かっていたのですぐに麻痺解毒薬を使い。

ミヤの近くに行き。
「こいつらは絶対に懲りない……徹底的に調べれば余罪はどんどん出てくる。じゃあな」

そう伝えダンジョンへと向かって行った。

「あ、ラクサ待ちなさい!無視すんなコラッ!」

知らんよ。君と関わると呪い手前みたいな脅威がわんさか来るから嫌だよ。

すぅーっと気配を薄め人混みに紛れる。

スキルと魔術。
魔術は学問と相性、スキルは経験と閃きと言われどちらも得るには才能と努力が必要だ。

俺が使ったのは『隠密』
気配を消すスキルだ。『看破』や『気配察知』を持って居ない奴は見つける事がほぼ不可能だ。
理不尽な相手だと、何となくで攻撃されるがな。あれらは人外の獣だから本能で見つけられるから仕方ない。

喧騒を背にダンジョンに入る。
このムザルダンジョンは全部で今の所123階層まで攻略されているが未だに最深層が分かっていない。

まぁ、俺みたいな最底辺は15階層までしか行けてないがな。
入口脇にある転移陣で6階層へと転移する。

コボルトの出現階層が6階層なのだ。
転移が終わるとすぐに『隠密』を発動する。

足音立てない様に行動を開始する。
おっ!早速目の前には3体のコボルトが居る。
短剣2の弓が1か弓を持ったコボルトへ近付く。
後ろから思いっきりぶった斬る。

絶命には至らなかったが、大ダメージで動けはしまい。
残り2体も俺に気付いた様だ。

俺を殺そうと行動を開始するがコイツらには連携という頭はない猪突猛進数で圧殺が基本だから。

すれ違い様に、手首を切りつける。
力は要らない、ただほんの少しだけ切りつけるだけ。

コボルト2体は短剣を落とす。
次は噛み付くために突っ込んでくるのを首前に剣を置き突っ込んできた力に合わせて切っ先で切りつけていく。

後は動けなくなったコボルトにトドメを刺すだけだ。

戦闘が終わると素材回収だ。
胸の辺りにある魔石とコボルトの討伐証明は牙だ。
後は短剣と弓を拾い袋に詰めて行く。

「ふぅ、後は2体と帰りがけにスライムだ」
俺はその後も危なげなくコボルトを倒してスライムを捕獲を成功させ、帰ろうと入口付近に差し掛かると。
目の前から物凄い広範囲に赤い脅威が映った。

「!!!?!チッ」

思わず恐怖で膝に力が入らず片脚を地面につける。
高位冒険者はこれだから嫌いなんだ。

ただの武威による威圧だ。
たったそれだけなのにこんなにも生物としての格を見せつけられる。

それを発している男を見るとこちらを見ていた。
見つかっているか、それとも本能か。
仕方ない『隠密』解除。

すると相手も武威を解いた。
「すまない、姿が見えないのに気配がするから威圧してしまった。今度から入口付近では解除した方が良い余計なトラブルになるからな」

俺はその言葉に頷くと男は転移して行った。
ソロの高位冒険者は基本変人で厄介だ。

先程の奴は初めて見たのでココ最近ムザルに来たのだろう。
威嚇であの威力だ。最高到達階層はどんな人外魔境なのだろうかと身震いしてしまう。

そんな邂逅があったものの俺は無事に依頼の素材の確保を済ませダンジョンから出る事が出来たのでさっさと冒険者ギルドへと向かい依頼の報告を済ませた。


2つの依頼と素材売却をして精々銅貨50枚1日暮らせるギリギリの値段にしかならない。
パーティーを組んで深い階層に潜るかでもしないと休養日など取れないのだ。
しかし、パーティーを組めば無理が出来る為分不相応の階層まで行ってしまい死ぬ何て事はココでは日常茶飯事だ。
冒険者はか細いその日暮らしの生活や成長が鈍足でも自分の力に合った階層で力を得るか
無理して死地で活路や閃きを得るかは冒険者でも意見が別れるが俺は前者を選んだだけだ。

俺はいつも通り、図書館へと入る。
ムザル図書館は冒険者カードを持っていれば無料で使える施設の1つだ。

魔物の情報や魔術の本等色々な本が置いてある。
情報は武器であり命綱だ。

例えば、プラントという木の魔物が居るとする弱点は火だ。
しかし上位魔物のハイプラントになると雷魔術が弱点になり火魔術は効きづらくなる。

見分け方も書いてあるので、そんな情報を持っていれば対処出来たのに命を落とす奴も居るのだ。

「今日も来たのか?小僧」

好々爺の面で話しかけてくるのはこの図書館の司書のムゥ爺だ。

「あぁ、依頼が終わったからな。今日も魔術の本を読むよ」

「そうかい、そうかい。何か痺れ姫が今日も暴れておったのぉ」
とニヤニヤと笑っている。

そうこの爺はこんな大人しめの爺だが、昔は『火炎地獄の賢者』とも呼ばれていた有名人だ。
この図書館の魔物情報や魔術の本も大概この爺の趣味で書いた物が置いてある。

「また、馬鹿な冒険者が返り討ちに会ったんだろう。じゃじゃ馬娘に突っかかって豚箱行きになる冒険者は後を絶たないからな」

そんな事を伝えて、俺は本を3冊持ってくる。
・初級魔術の教本
・無属性魔術の重要さ
・ムザル滞在高位・中位冒険者情報最新版

魔術の本2冊と、先程出会った冒険者の情報だ。

「ムゥ爺、最近高位ソロ冒険者が来てるか?さっき入口付近で有り得んレベルの武威による威嚇を受けた」

「む?どんな奴じゃ?お主また『隠密』をかけたままダンジョンから出ようとしたな。癖の強い奴じゃとそのまま殺られるぞ?」

「あぁ、気をつけるよ。さっきの奴なら瞬殺されるのがオチだけどな。金髪のオールバックで金ピカの金属鎧を着けてた」

それを聞くと呆れながらも眉をひそめる。

「ラクサ……お前さんよく生きてたのお。『英雄』の1人サンデルジャンの一族の者じゃな。あれには近付くな、自分達の一族に有益か無益かでしか判断出来ない強さのみを求める狂人じゃよ」

ため息をつきながらムゥ爺はそう言う。

『英雄』か……世界に10人しか居ない英雄。
S級冒険者の事だ。
まぁ、目の前にも2年前から活動してないが居る訳だが。
サンデルジャンの一族は強さと『英雄』の称号のみを求める狂人一族。
そんな彼らはでも英雄序列の中では下の方の為。
めぼしい能力を持つ者が居れば力づくでも手に入れようとするらしい。

先代サンデルジャン一族出の英雄は英雄序列3位の虚空の剣士に迫り呆気なく首を飛ばされたらしい。
サンデルジャンの一族には『英雄』の1席が渡されており象徴は常に一族の1番強い奴との事。
ギルドも一族に席を与えていれば何かあった時に一族総出の強力な戦力を借りれる為の処置でもあるらしい。


「情報感謝する。英雄は基本的にこの街には来ないと思ってたがムゥ爺の事を知らないのか?」

そう、この街には目の前に居るムゥ爺が常に居る為、英雄みたいな癖のある災厄は基本的には来ない。
居ても2人位だ。理由はちゃんとあるS級冒険者は人類の最高到達地点である為ダンジョンに潜ると場所が被り争いになるからだ。

最大手クランの夜明けの燐光のクランマスターがS級冒険者の為必ずぶつかる。


「警戒は必要じゃろうて。どうせお前しか来ないからな。しばらく留守にするぞ、ギルドとかち合いそうなクランに警告を出しておく」

そう言うとムゥ爺の足元には魔術陣が現れ消えて行った。

「個人で転移魔術とは……化け物め」

苦笑いするしかなかった、この間読んだ本の中に個人の魔力で転移魔術は自殺行為であると書いてあったんだけどな。

俺は席に着き、ムゥ爺の机から南の国のダンジョンで採れるコーヒーという飲み物の粉末を貰いお湯を入れ飲み始める。

こんな事を出来る奴はそうそうと居ないだろうな。
10歳の頃より通っていて、ムゥ爺には沢山の事を教えて貰った。

5年かけてやっと魔術の勉強を許される位時間がかかっている。

魔力が少ないと動かす事も容易らしいが俺みたいに魔力が多いと凝り固まって全く動かないのだ。

魔術師の家庭では幼少期の魔力が少ない時から動かす訓練をしたり、生まれた時から魔力が多い子は魔力放出をさせて動かす訓練をするらしい。

「何時になったらステップアップ出来るんだろうな」

そんな呟きと共に俺は本を読み耽って行くのであった。

「小…小僧……小僧ラクサ!」
いきなり大声で呼ばれて驚いて振り返るとムゥ爺がそこに居た。

「お!帰ってきたのか。あ、そうか」
周りを見渡すと外は既に暗くなっていた。

本を読み出すと時間を忘れてしまい困る。

「ほれ、いつものじゃ」
そう言うとムゥ爺は俺の目の前に、水晶を差し出す。

俺はその水晶に手を翳し、魔力を送る。
水晶は赤・青・緑・茶・黄・黒・白と色を変えて2周すると

「ふむ、合格じゃな。1ヶ月前より変質がスムースに出来ておる。実習場に行って練習しても良いぞ。使えたらすぐにダンジョンで実戦も良い。その魔力量があればそうそう魔力切れなんて有り得んからの」

ふぉっふぉっと笑みを浮かべるムゥ爺。

「今までそんな話聞いてないぞ?」

「言ってないからの。ラクサ?お前の魔力量は今。ふむ、大体特級魔術2発分かの?」

は?特級2発分て……

「おい!そんな魔力量あったら宮廷魔術師レベルじゃねぇかよ!」

俺は驚いた。確かに魔眼持ちの魔力量は多いがそんなに多いとは思わなかった。

「そりゃそうじゃろ。お主の魔眼は常時発動型。そんな魔眼扱うには膨大な魔力量を要するなんて分かりきってる。だから教えんかったのじゃ。その魔力量が知られればお主魔力タンクとして奴隷にでもなるのか?」

背筋が冷っとした。

「ムゥ爺、ありがとう。それはそうだな。魔眼持ちは差別対象だもんな。流石に力を付けるまでは隠すべきだ」

そうこの国では過去に息子の魔眼の暴走により、王と女王が死ぬという事件がありそれ以来魔眼持ちは差別対象だ。

ムゥ爺と出会った頃、俺にマジックアイテムを与えてくれて隠す事が出来ているがなければすぐにバレて居ただろう。

「ま、地道にコツコツとじゃな。そろそろ帰りなさい。初級魔術をやっと扱える所まで成長したのだ。宿で使う修行も無属性を使うと良い」

「おう!分かった!じゃあ明日も来るよ!ムゥ爺」

俺は本を片付け、手を振り帰って行く。

「はぁ、何事もなければ良いがのう。さて、邪魔者を排除しに行くとするかの」

この街の夜はまだ始まったばかりだった。


次の日、冒険者ギルドは騒然としていた。

依頼板に1枚の紙が貼られていた。

ー緊急事態につき、ダンジョン封鎖ー

依頼の補填はS級冒険者ムゲルト・サーディンが責任を持って補填する。

こういう事態が起きたという事は、ダンジョンで異変が起きたか冒険者同士で問題が起きてその余波で人が死ぬ事があるということだ。
低ランク冒険者は高ランク冒険者の戦闘の余波であっさり死ぬ。
大概の低ランク冒険者は高純度の魔力や武威で蛇に睨めた蛙の如く動けずに死ぬ。
だからこの様に人格者による人やクランが補填してくれる訳だ。


「ムゥ爺……動いたのか。負けるなよ」

そう呟いた、俺は受付に行き補填を受付完了して銀貨1枚を受け取る。

そして、図書館へと向かうとムゥ爺とは別の司書が居た。
暗い顔をした女性がそこには居た。

「ラクサさん、実はおじいちゃんがこれ渡せって」
彼女はムゥ爺のお孫さんのメルさん

「メルさん、ありがとうございます。受け取ります。昨日聞いた話で、もしかしてと思いましたがそれ程危険なんですね?」

そう言うと静かにコクっと頷く。
俺は袋を受け取るとそれはマジックバックだった。

手を入れると頭の中にリストが表れる。
・初級~帝級魔術書
・手紙
・野営セット×1
・食料×30日分
・上級ポーション×5
・上級魔力ポーション× 5
・金貨10枚

が入っていた。


俺は手紙を取り出し読んだ。

­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-
ラクサよ

サンデルジャンの坊主の探している人材の条件に一致しておる。
しばらく逃げるか近付かぬ様にする事じゃ。

サンデルジャンの坊主は、探索系統のスキル持ちや魔眼持ちを探し、魔眼は奪うつもりじゃ。
見つかれば確実に殺される。

隣の国に逃げるのがオススメじゃな。
儂がもし、坊主に負けた場合は逃げる事を勧める。

魔術書は中級以上は才能が必要じゃ使えないと感じたら売っても良い
儂はラクサとメル2人共孫の様に可愛いからのう。
感動して涙流しても良いのじゃぞ?

ムウ爺より

­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-

半分まで読んで泣きそうになったが最後の一言で俺は涙が引っ込んだ。

正直、悩んでいた。
金貨10枚は俺にとって正直今の低ランク冒険者の生活基盤なら5年位暮らせる。

多分ムウ爺はランクが上がると信じてくれているのだ。
冒険者はランクが上がれば上がる程金食い虫だ。

マジックバックに入っている上級ポーションですら1つ銀貨50枚だ。
俺の生活費20日分だ、それに階層に合わせて毒消しや麻痺消し、武器防具のランクも重なるとソロ冒険者は難しくなる。

高ランクソロ冒険者は大概特殊能力付きのダンジョン武器や俺の魔眼の様なユニークスキルを活用して成り上がっている。

上級ポーションにもなると片手位の部位欠損や臓器なら治る。
特級ポーションになると片脚や即死じゃ無ければ治る。

神級ポーションにもなるとどんな病気でも治る。

ーーそしてエリクサーなら死んで3日以内なら体の1部が残っていれば治ると言われている。
100歳近い老いた老婆が飲んで10代にまで若返ったという伝説もありエリクサーの存在がバレれば戦争が起きると言われている。

エリクサーは願いの結晶と呼ばれ飲む人によって効果が変わると言われている。
つまり、力を望めば力を得るし存在全てを生まれ変わらせる事が出来るという眉唾物の噂もある。

エリクサーを飲んだと疑われている冒険者は過去数人存在すると言われている位だ。

噂の理由は過去の『英雄』の話に数百年前に実在した英雄が最近、村の危機を救った時に名前を伝え

その後、ギルドが確認をとったところ数百年前の英雄の名前と一致したという噂があるのだ。

英雄にも様々な人が居る。
認定するのは国とギルドだが、積み重ねでなる人もいれば1発で誰もが出来ないような偉業を達成し、贈られる場合もある。

その英雄は積み重ねで、英雄になった為に名前が有名ではなかった。
噂の為にたまたま同じだったと学者は言うが。

冒険者達は、エリクサーを飲んで長命種に進化したとか不老不死になったとかはやし立てた訳だ。

各国がその出来事を機にダンジョン攻略を躍起になったのも噂が広まった原因でもあった。


--------あとがき--------

この作品は2話までしか書いておらず他の作品が手詰まりになった時に書き足していた作品です。

なのでこれはこの話で放置しますが、状況が好転すれば書きます。

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