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短編集
職業料理研究家
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◇プロローグ
俺は今絶望に晒されていた。
数分前の出来事だった。俺は成人の儀式で職業を貰った。
村には10人の子供が集まり受けていたのだが
「ふむ、お主は剣士だ。精進すれば上を目指せるだろう」
白い服を着た司祭様が名前の呼ばれた子供を水晶の前に立たせて職業を発表するのだ。
「最後はガウェイン!水晶の前へ」
俺は両親がいない為、冒険者を目指して毎日村の手伝いや素振りや
近くの森を走り回って修行していたので出来れば戦闘職が欲しかった。
この村には外から人が来ないので食堂・宿が無いのだ。
俺は壇上に登り、水晶へ手を出しながら必死に心の中で戦闘職を下さいと懇願していた。
「この者に祝福を、職業を」
司祭様がそう唱えると水晶が光俺を包んだ。
「ふむ? む? むぅ? 何だこれ?」
困惑した様な司祭様の声が聞こえた。
俺は先程から一向に聞こえない職業の宣言に体から体温がどんどん抜けていっていた。
「し、司祭様? 俺の職業は? 何ですか?」
「お、そうだなぁ。ガウェインお主の職業は料理研究家だ!」
その場に居た全員が静まり返った。
くしくもその静寂を破ったのは俺が1番嫌いで不快な声だった。
「ギャハハハハッ料理ってハハ腹痛てぇ。無能じゃんか!」
後ろを振り返ると金髪を伸ばした身長170位の青年が爆笑していた。
村長の息子のレルだ。
彼奴は槍士の職業を貰っていたのでこれから都会の学校に行くらしい。
「やっぱり髪の色がスライムと一緒だから雑魚なんだろうなぁ」
「おいっ!髪の色は関係ないだろっ」
俺は怒って飛びかかろうとしたが回し蹴りを食らって吹き飛ばされた。
「ぐぅぅ、うがっ」
痛みに耐えていると頭に衝撃と負荷がかかる。
レルに踏まれているらしい。
「ゴミ職業が戦闘職にかなうわけ無いだろうがよ?馬鹿なのか?」
そう、こいつはいつも俺の髪の色をバカにしてきた。
大好きだった母さんから貰った綺麗な水色の髪を
俺は絶対に泣かず、レルを睨み続けた。
「てんめぇ~ぶっこ「レル!何をしている神の御前なるぞ!」チッ覚えとけよ」
司祭様に怒られ、取り巻きを連れ教会から出て行ってしまった。
起き上がろうにも起き上がれない俺の隣で声がした。
「大いなる神の慈愛をこの者に『ヒール』」
俺の体が光に包まれ痛みが無くなった。
俺はスっと立ち上がり振り返ると司祭様がたっていた。
「すみません、司祭様ありがとうございました」
「ガウェインよ。お主の職業は良くわからんが職業の分類は分かるな?」
前に教えて貰った事を思い出す。
「えー、戦闘職は武器職と魔法職、生産職は創作と商人でしたよね? かなり大雑把な表現ですと」
俺は頬ポリポリかきながら答えると満足そうに司祭様は頷く。
「そうだ。まだ君には言ってなかったが何も職業が全てではない。
私の知る限り鉱夫を授かった者がBランク冒険者になった例もある。
君も相談できる相手が少ないかも知れないがステータスを確認して
将来を勝ち取れる様に努力を積み重ねなさい」
そう言うと、司祭様は帰ろうとしたのでその背中を見て
「ありがとうございました。頑張ります!」
俺はお礼を大きな声で言って教会を後にした。
近くの森に入り、いつも休憩場所にしている岩に腰掛けステータスを確認することにしたした。
「ステータスオープン」
成人して最初の関門がこれだ。
この時だけは声に出して唱えないといけないらしい。
神様に私は成人しましたので職業と魂のすり合わせと情報を下さいって宣言の様な物らしい。
これを済ませたらあとは念じれば何時でも表示できるからな!
目の前に現れた白い少し透けた板が目の前に現れた。
-------------------------------------------
名前:ガウェイン
年齢:15
職業:料理研究家
職業スキル:調理魔法1 解体1 味覚強化1調理5
スキル:身体強化2 体術2 目利き3
-------------------------------------------
「え!えぇぇぇぇぇぇぇ!」
ついつい叫んでしまった。
何で? 俺、完全に魔法職じゃん? ふざけんなよ。
調理5は毎日飯作ってれば誰でも……いやおぼっちゃまや
料理しないやつらには着かないが普通に居るしな。
田舎の平民に魔法職とか、魔力めっちゃ少ないんだけど……
そもそも魔法の使い方知らないぞ?
完全に詰んだ……
そして冒頭に戻る。
◇ 1話 絶望!絶望!絶対嫌!誰得?
俺は取り敢えず、村中の人に魔法職が居ないか聞いたが、やはりダメだった。
村には木こり、狩人、弓士、農民、鍛冶師、商人(接客)・(経理)と言った職業しか居なかった。
俺は借りてる物置小屋に戻り錆びた短剣といつも寝る時にかけているフード付きローブと背嚢を持って
レルが居ない事を確認して村長に挨拶した。
「ガウェインよ生き急ぎ過ぎではないか? 大丈夫か?」
少し心配そうにする村長だが、今まで物置小屋に置いておいて
食事は自分で用意する事を強要してきた人の言葉とは思えない。
「いえ、俺がいる事にあまり意味はありませんので。
予め決めていた通り、街に行って冒険者になります。それでは!ありがとうございました」
そう伝え、俺は村を出るのであった。
この村で俺は何もしてない事になっていたが、実際には行商人が来た時に村の手前で薬草や干し肉、岩塩を売って両親が死んでから10年で銀貨10枚は持っていた。
勿論、岩塩が村の近くにある事を伝えてはいない。
行商人が前回来た時にどんな職業でも村を出る事を伝えていたので教えた所。
背嚢に入っているそこそこ旅に役立つ野営道具と錆びた短剣を貰った。
正直少なっ、とは思ったが俺が嘘を着いているかもしれないし量が少ないかもしれないと言う事らしい。
まぁ、俺が街にたどり着いたら店に来てくれればサービスすると言っていたのでその時は行こうかな。
街への道のりは馬車で向かうと1日半、徒歩だと3日~4日半かかるので俺は少し足早に進んで居たのであった。
4時間程歩きそろそろ足の疲れが見え隠れした時にそいつは現れてしまった。
「グギャギャ」
はい!オワターオワターあらよっともう一丁オワターオワター
人生最初にして最後の難関が出てきてしまったのであった。
街道の脇の林から緑色の小人が棍棒を持ってこちらを見ていた。
「ど、ど、とーひてこんなところにゴブリンがぁ」
街に行くまでにほぼ出ないと言われた魔物に出くわしてしまう。
村の人曰く
ゴブリンは最凶最悪の雑食で何でも食べる。そして何でも遊ぶらしい。
動物を捕まえるとまずは性欲を満たしてからそれを食べるのだ。
キモイしよく食えるよな?
村の子供には軽率な行動をすると
『ゴブリンやオークの目の前に裸で転がすぞ?』
って戒めに使われる程だ。
俺は錆びた短剣を掴むが、体が緊張で強ばって恐怖で震えているのが分かる。
本来であれば、子供にとって絶望な相手でも戦闘職を得た人にとっては苦にならない程雑魚だが
その職業のスキルが使えない俺には手札が短剣と体術しかない上に近接戦闘の不利な職業適性なのだ。
緊張で周りが見えてなかった。
ニチャァと笑うゴブリンがこちらに走って来ていた。
「ヒッ……やれば良いんだろ? やればぁぁ。うわぁぁぁぁ」
適当に短剣を振り回す。
なんと無様な事だろう、あれだけ戦闘職に憧れ木の棒を振り回していたけど
まさか短剣で魔物に挑む事になるなんて思っても居なかった。
「!!? グギャ!」
ゴブリンが離れた。
意味が分からずゴブリンを見ると右腕に切り傷が出来ていて血が出ていた。
俺はハッとなって短剣を見ると血が着いていた。
こんな錆びた短剣でもダメージを与えられる証左だった。
希望が見えた事により冷静になったが、それがダメだった。
次にゴブリンが接近した時に棍棒を振ってきた時に短剣で咄嗟にガードしてしまった。
「あ!」
そう、木製のゴブリンの棍棒に刺さり抜けず持っていかれてしまった。
既に遅し、素手である。
「グギャギャギャ」
ゴブリンが次に振るった棍棒は俺の肩から首に振るわれた。
「アガッ」
俺は痛みと衝撃でよろけて倒れた。
「あ、あぁ死ぬのか? 嫌だよやだぁ」
目の前の視界が滲んで来た。恐怖と情けなさからだった。
ゴブリンは既に俺が戦意喪失したのが分かると棍棒を捨て布を取った。
最悪だ、異性を知る前にゴブリンに遊ばれて死ぬなんて。
何で俺なんて見てそんなにギンギンに出来るのか意味が分からなかった。
1歩1歩近付いて来る時に俺は走馬灯を見ていた。
母さんが作ってくれた、猪の焼肉美味しかったなぁ。内蔵が特にうんまいんだよなぁ。
「母さんの猪の『焼き』肉死んだら食べさせてくれるかなぁ?」
体の中からギュッと何かが搾り取られる虚脱感があったと同時に絶叫が聴こえた
「グギャァァァァ」
それは異様な光景だった。
ゴブリンが炎の鎧を纏っているのでは? と思う位、炎がゴブリンにまとわりついていて
ゴブリンは必死に炎を消そうと転げ回っていたが数十秒後何も聞こえなくなり俺は意識を手放したのであった。
◇ 2話 冒険者の幻想が脆くも崩れ去っていく
パチパチパチと焚き火の時に枝や木が弾ける音が聴こえる。
俺はゆっくり瞼を開けると空は真っ暗で俺は驚いて起き上がった。
すると後ろから声がかけられた。
「お? 少年起きたか?」
俺は肩をはね上げ後ろを振り返ると……金髪のお姉さんがスクワットしていた。
フンッ、フンっ!フゥ~と少し色気のある吐息を混ぜて。
「あ、はい。助けて貰ったみたいですみません」
俺は立ち上がり頭を下げたがそのまま前に倒れかけた時にお姉さんが受け止め胸に直行
ゴンッ
「「あ」」
その後は俺は悶絶した事は言うまでもない。
流石に全体重の乗った金属胸当てに頭突きかましたのだから。
でも、硬い金属の後の柔らかいクッションがあったって事は……セクハラになりそうなので悶絶しておこう。
落ち着いた後、金髪美女と向かい合って座り話をすることになった。
「改めてまして、助けて頂きありがとうございました。ガウェインです」
「そう、改まる事はないさ。ガウェインが倒れた原因を追ってきたパーティー薔薇の乙女のローズだ」
その紹介を聞き周りを見渡すとテントが1つ張ってあったので納得した。
「追ってきたのはゴブリンですね?」
「あぁ、毎年成人の儀式が終わるとダメだと言われているのに勘違いして
特攻するバカのお陰で君みたいに助かる人も居れば死ぬ物も出る」
そこで俺はブルっと肩を震わせた。
そう、下手すれば俺はあそこで死んでいたのだ。
「俺が倒れたのは何故ですか? 職業がいまいち分からず村を出てきたのですけど」
そして俺はその時の状況をローズさんに教えた。
「ふむ、それは魔力切れだな。その歳まで魔力の扱いを知らずに
尚且つ自身の危険に対処する為に限界まで魔力を使い切ったのだろう。
それにしても……ユニーク職業とはな」
「ん? ユニーク職業とは何ですか?」
ローズさんに聞いたユニーク職業は
・教会の記録に残ってない職業
・分類があやふやな職業
・職業進化による発展系職業
が簡単に言うとあるらしい。
「君みたいに料理をする様な職業なのに戦闘が出来る潜在力がある時点でそれが分かる。
料理人なら刃物を持ってないと倒す事はまず無理だろ。それも運次第だがな?」
そんなこんなを話していると夜が開けてきた。
「あ、料理研究家って職業なのだから料理は出来るか?」
「村では孤児だったので1人暮らしなので多少の心得はありますよ?」
するとローズさんはすんごい笑顔で鞄から机を出した……え?机?
「え!? 鞄から机?」
「ふっふっふっ!ガウェイン君!高位冒険者にはマジックバッグは必需品なのだよ?」
机にはまな板と包丁と肉と野菜と小麦粉と器が置いてあった。
「いやー今まで色んな所からお礼にと食材を貰って来たが如何せん誰も料理出来なくてね?」
ローズさんには1つだけ聞きたい事があった。
「え? 薔薇の乙女って女3人組の「ガウェイン君それ以上は言ってはいけない」あ、はい分かりました」
これは多分推測になるが、何処ぞのお嬢様か家事がダメで花嫁修行出来ずに職業が良かったから飛び出して来たパターンか……
「では作り始めますのであ、水と調味料もあれば下さい」
ローズさんは笑顔で水瓶と調理の入った小瓶を置いて周りを散策しに行った。
俺は肉を触ると目の前に面白い画面が出てきた。
------------------------------------------
品質を考慮しての推奨手順
レッドブルの肉
焼く(塊)・カット(指定の厚さ)
キャベン・キャロ・オニオ
解体:指定の大きさ・千切り・細切り
ガリク・ジンジャ
解体:スライス・すりおろし
小麦粉
こねる:パン用・細切り(太さ指定)・板焼用
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「まじか……えーっとじゃあ小麦粉太さ2センチでこねる4人分ちょっと多めで」
タッチしただけでは何も起こらなかったら恥ずかしいので
1番手のかかる小麦粉を村でも食べる腹の膨れる料理を作る為の指定をした。
すると小麦粉の入っていた袋がひとりでに開いたと思えば
塩や水瓶からも食材が勝手に動きグネグネと空中で動いていた。
何か色々ありすぎて俺は考える事を辞めた。
「『焼く』レッドボアの肉」
俺はカットしたレッドボアの肉を塩と胡椒をまぶして
ガリクとジンジャをすりおろして揉みこみ焼くと唱えると
器を用意すると食材が空中に浮き上下に小さい火が発生し始めた。
俺はキャベン、キャロ・オニオをカットして鍋の中に水を入れて煮込む。
その時にカットした時に邪魔になるレッドボアの脂身や筋切りの時に出た端材を一緒に入れてハーブを数種類入れた。
後は待つだけである。
沸騰したら空中に留まっているレッドボアのステーキの余分な油をこちらに入れてもう1つの鍋でお湯を沸かし小麦粉の細切りを茹でる。
かき混ぜながら茹でて透明になりつつ茹で上がったら水瓶の水を使い締める。
器に盛りつけをしたらスープを温め始めた所でローズさんが戻って来たが俺の方を見て口をあんぐり開けていた。
◇ 3話食べ専は楽、報酬は笑顔です
今、俺はキラキラとした屈託のない笑顔を見てやられそうです。
ガツガツと俺が作った料理を3人の美女が食べて飛びっきりの笑顔になっている。
俺も1口食べて、うん、美味い。
「うみゃーうみゃー」
何か変な鳴き声の如く食べているのは赤髪のメラルーさんこの人は斥候っぽいな。
「メラルー静かに。こんなに美味しい物食べれるならふふふじゅるり」
やばい視線を向けてくるのは神官服を着てる緑髪のサナさん。
「コラコラ、悩ましいが私達のパーティーに男は入れないと言ったのはサナだぞ?」
そして注意をしているのはローズさんだ。
「むぅ、残念。失敗した」
「そもそも、ガウェインが絡まれてしまっては意味が無いだろう?」
「嫉妬、吐き気」
そんな2人の不穏な会話を聞いてしまった俺は決意した。
街に行く前に逃げようと
「皆さんは有名みたいですのでいやぁ朝食の片付けがおわ「ダメです!」あはは……はい」
すんごい圧力が3方向から来よる。
多分、メラルーさんが居なければ逃げ切れる自信があるが
「ガウェイン、魔力操作必要」
サナさん? 接続詞って知ってます?
単語しか話さねぇこの人。
俺は片付けを終えて街に向かっているのだが……問題が発生している。
「あの~サナさん? 手を繋ぐ必要「魔力操作、逃亡予防」はい」
魔力操作を覚える過程でまず魔力の知覚からスタートで
サナさんの手を握り魔力を感じたら終わる筈だったのだ。
すぐに出来たのだが……手を離してくれない。
理由は簡単だ、このまま一緒に街に行けばトラブル必須なのだ。
必死に静かにフェードアウトしようとして3回失敗したのだ。
何がヤバいってこの人用を足そうとする時も着いて来ようとするんだよ。
2回目の逃亡失敗時俺は考えた。
用を足すと言えば離れてくれると!そして失敗した。
その後本当にしたくなったのでメラルーさんが近くにいる事を条件におしっこしてたら
「ユニーク」
ギョッとしたよね。
すぐ側にサナさんが覗き込んでいたんだから。
ついつい悲鳴あげたわ
「どうしたガウェイン君!」
「少年どした?」
2回目の悲鳴をあげる事になったわ!
ローズさんとメラルーさんとはちょっと距離が出来た。グスン。
「見られた~お婿にいけない」
よよよと嘘泣きをしつつ全力フルチンで逃げたらあっさり捕まったよ(笑)
ブツはすぐにしまったけどね。
流石に見られて気まずいから逃げたんだけどなぁ……
サナさんが徐に近付いて来て俺の手を握り
「逃亡禁止、魔力操作練習」
「そそそ、それが良いな、サナ逃がすなよ?」
「そそ、そうだねぇ。でもサナ? 覗くのはダメだよ?」
顔を真っ赤にしたローズさんとメラルーさんに言われてサナさんは
いい笑顔で
「委細承知」
と今に至る訳なんだよねぇ。
「そう言えばガウェイン紹介状は?」
「なんすかそれ?」
ローズさんのその一言でトラブル必須の前にトラブルがやって来た様だ。
俺以外の全員の空気がピキっと固まった。
◇ 4話え? 俺は村人ですら無かった様だ……
「ガウェイン、村人、紹介状必要」
むむむ? どういう事だ?
「街に入るのに紹介状が必要なんですか?」
頭を抑えながらローズさんがこちらに来る。
「一応、無しでも入れるが。お金がかかる。紹介状があれば出稼ぎで来たと認識された上に税金の関係で村にも利益がある筈なんだが……」
ふと、メラルーさんが質問してくる。
「も、もしかしてガウェイン。カード持ってない?」
俺はその言葉を聞いて更に首を傾げてしまったし3人は口をパクパクさせて驚いていた。
「ガウェイン君。各国の決まり事でカード発行を義務化されているのだがそれを知らないという事は持ってないな?」
そこでようやく俺は今の状況がやばい事に気付いた。
そう、カードを持っていない子供や大人は犯罪者や捨て子等の人社会と隔離されている世界に居る人ばかりだからだ。
「俺……村人ですらなかったんですねあはは……すみません」
肩をガックリと落とすとサナさんが手をギュッと握ってくれた。
「それよりも深刻。村税金誤魔化している」
「あ!そういう事ですか。確かに徴税官が来る時に俺を含めて
4人位森に行く事を厳命されていたのもそのせいかなぁ」
3人は俺を物凄く可哀想な奴として見ているが俺は村から出て行ってる時点であまり関係が無かった。
「まぁ、興味は無いですね。俺は冒険者になる為に孤児ですと言うだけですから。
そもそも村に居着いた冒険者の子供ですからね」
そんな時だった、目の前に猪が現れたのだ。
「あ、今日のメインディッシュが来よった」
俺は飛び出した、後ろから何か聞こえた気がしたが気にせず
こちらに突進してくる猪の首から肩にかけて短剣で切込みを入れた。
「むむむ? 前にも増して弱くなってる? って言うより何処に短剣を入れれば筋が切れるかわかる気がする」
そこからは魔物と戦闘と言うより食材と料理人の処理だった。
猪が力尽き足を畳んだ所で素早く近付きトドメを刺した。
「ふぅ、今日のお肉は新鮮だな」
「マッドボアをどうしてそんなに倒せる奴がゴブリンとの戦闘で死にかけていたのだ!」
ローズさんにぐわんぐわん肩を揺さぶられるが意味が分からない。
「え? だってコイツ動き単純ですし、食材ですからね?」
「ガウェイン、職業貰う前から倒してた?」
サナさんがそんな普通の質問して来たので俺は頷く。
「 職業の恩恵値無しで魔物を倒せるとは……村って怖い」
メラルーさんが何か村人に対しての風評被害を言ってる気がする。
「簡単ですよ? 先ずは右前脚の肩辺りを切りつけ、次逆側。
そうすると頭を垂れる様にプルプル止まりますから後は噛まれない事と後脚で蹴られない様に近付いてトドメ刺すだけですよ?」
「「それが難しいんだよーー」」
俺は、そんな2人の大絶叫をよそに内蔵処理と血抜きをしていた。
その様子に何か驚いてる3人。
後ろを見るとサナさんが俺を指差す。
「それ、何?」
今、血抜きをしているが血がポンプの様に一定周期で飛び出しているのが気になる様だ。
「あ、あぁこれですか? 人間と同じ様に魔物にも鼓動を放つ部位があるんですけど
これ多分人間も同じで血を送る役割をしてるんですよ。
だから腹側に少し切れ込みを入れて手を突っ込んでその部位を握って首の傷から血を出すんですよ。
まぁ、山で狩りをしてる人なら知ってる時短術ですね。
水魔法が得意な人は血に干渉して全部出しちゃうらしいですけどね」
3人の心の中の意見は一致した。
"村人ってしゅごい"と
その後、毛皮と牙と魔石はローズさん達に肉は俺が調理用にする事になった。
俺は今絶望に晒されていた。
数分前の出来事だった。俺は成人の儀式で職業を貰った。
村には10人の子供が集まり受けていたのだが
「ふむ、お主は剣士だ。精進すれば上を目指せるだろう」
白い服を着た司祭様が名前の呼ばれた子供を水晶の前に立たせて職業を発表するのだ。
「最後はガウェイン!水晶の前へ」
俺は両親がいない為、冒険者を目指して毎日村の手伝いや素振りや
近くの森を走り回って修行していたので出来れば戦闘職が欲しかった。
この村には外から人が来ないので食堂・宿が無いのだ。
俺は壇上に登り、水晶へ手を出しながら必死に心の中で戦闘職を下さいと懇願していた。
「この者に祝福を、職業を」
司祭様がそう唱えると水晶が光俺を包んだ。
「ふむ? む? むぅ? 何だこれ?」
困惑した様な司祭様の声が聞こえた。
俺は先程から一向に聞こえない職業の宣言に体から体温がどんどん抜けていっていた。
「し、司祭様? 俺の職業は? 何ですか?」
「お、そうだなぁ。ガウェインお主の職業は料理研究家だ!」
その場に居た全員が静まり返った。
くしくもその静寂を破ったのは俺が1番嫌いで不快な声だった。
「ギャハハハハッ料理ってハハ腹痛てぇ。無能じゃんか!」
後ろを振り返ると金髪を伸ばした身長170位の青年が爆笑していた。
村長の息子のレルだ。
彼奴は槍士の職業を貰っていたのでこれから都会の学校に行くらしい。
「やっぱり髪の色がスライムと一緒だから雑魚なんだろうなぁ」
「おいっ!髪の色は関係ないだろっ」
俺は怒って飛びかかろうとしたが回し蹴りを食らって吹き飛ばされた。
「ぐぅぅ、うがっ」
痛みに耐えていると頭に衝撃と負荷がかかる。
レルに踏まれているらしい。
「ゴミ職業が戦闘職にかなうわけ無いだろうがよ?馬鹿なのか?」
そう、こいつはいつも俺の髪の色をバカにしてきた。
大好きだった母さんから貰った綺麗な水色の髪を
俺は絶対に泣かず、レルを睨み続けた。
「てんめぇ~ぶっこ「レル!何をしている神の御前なるぞ!」チッ覚えとけよ」
司祭様に怒られ、取り巻きを連れ教会から出て行ってしまった。
起き上がろうにも起き上がれない俺の隣で声がした。
「大いなる神の慈愛をこの者に『ヒール』」
俺の体が光に包まれ痛みが無くなった。
俺はスっと立ち上がり振り返ると司祭様がたっていた。
「すみません、司祭様ありがとうございました」
「ガウェインよ。お主の職業は良くわからんが職業の分類は分かるな?」
前に教えて貰った事を思い出す。
「えー、戦闘職は武器職と魔法職、生産職は創作と商人でしたよね? かなり大雑把な表現ですと」
俺は頬ポリポリかきながら答えると満足そうに司祭様は頷く。
「そうだ。まだ君には言ってなかったが何も職業が全てではない。
私の知る限り鉱夫を授かった者がBランク冒険者になった例もある。
君も相談できる相手が少ないかも知れないがステータスを確認して
将来を勝ち取れる様に努力を積み重ねなさい」
そう言うと、司祭様は帰ろうとしたのでその背中を見て
「ありがとうございました。頑張ります!」
俺はお礼を大きな声で言って教会を後にした。
近くの森に入り、いつも休憩場所にしている岩に腰掛けステータスを確認することにしたした。
「ステータスオープン」
成人して最初の関門がこれだ。
この時だけは声に出して唱えないといけないらしい。
神様に私は成人しましたので職業と魂のすり合わせと情報を下さいって宣言の様な物らしい。
これを済ませたらあとは念じれば何時でも表示できるからな!
目の前に現れた白い少し透けた板が目の前に現れた。
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名前:ガウェイン
年齢:15
職業:料理研究家
職業スキル:調理魔法1 解体1 味覚強化1調理5
スキル:身体強化2 体術2 目利き3
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「え!えぇぇぇぇぇぇぇ!」
ついつい叫んでしまった。
何で? 俺、完全に魔法職じゃん? ふざけんなよ。
調理5は毎日飯作ってれば誰でも……いやおぼっちゃまや
料理しないやつらには着かないが普通に居るしな。
田舎の平民に魔法職とか、魔力めっちゃ少ないんだけど……
そもそも魔法の使い方知らないぞ?
完全に詰んだ……
そして冒頭に戻る。
◇ 1話 絶望!絶望!絶対嫌!誰得?
俺は取り敢えず、村中の人に魔法職が居ないか聞いたが、やはりダメだった。
村には木こり、狩人、弓士、農民、鍛冶師、商人(接客)・(経理)と言った職業しか居なかった。
俺は借りてる物置小屋に戻り錆びた短剣といつも寝る時にかけているフード付きローブと背嚢を持って
レルが居ない事を確認して村長に挨拶した。
「ガウェインよ生き急ぎ過ぎではないか? 大丈夫か?」
少し心配そうにする村長だが、今まで物置小屋に置いておいて
食事は自分で用意する事を強要してきた人の言葉とは思えない。
「いえ、俺がいる事にあまり意味はありませんので。
予め決めていた通り、街に行って冒険者になります。それでは!ありがとうございました」
そう伝え、俺は村を出るのであった。
この村で俺は何もしてない事になっていたが、実際には行商人が来た時に村の手前で薬草や干し肉、岩塩を売って両親が死んでから10年で銀貨10枚は持っていた。
勿論、岩塩が村の近くにある事を伝えてはいない。
行商人が前回来た時にどんな職業でも村を出る事を伝えていたので教えた所。
背嚢に入っているそこそこ旅に役立つ野営道具と錆びた短剣を貰った。
正直少なっ、とは思ったが俺が嘘を着いているかもしれないし量が少ないかもしれないと言う事らしい。
まぁ、俺が街にたどり着いたら店に来てくれればサービスすると言っていたのでその時は行こうかな。
街への道のりは馬車で向かうと1日半、徒歩だと3日~4日半かかるので俺は少し足早に進んで居たのであった。
4時間程歩きそろそろ足の疲れが見え隠れした時にそいつは現れてしまった。
「グギャギャ」
はい!オワターオワターあらよっともう一丁オワターオワター
人生最初にして最後の難関が出てきてしまったのであった。
街道の脇の林から緑色の小人が棍棒を持ってこちらを見ていた。
「ど、ど、とーひてこんなところにゴブリンがぁ」
街に行くまでにほぼ出ないと言われた魔物に出くわしてしまう。
村の人曰く
ゴブリンは最凶最悪の雑食で何でも食べる。そして何でも遊ぶらしい。
動物を捕まえるとまずは性欲を満たしてからそれを食べるのだ。
キモイしよく食えるよな?
村の子供には軽率な行動をすると
『ゴブリンやオークの目の前に裸で転がすぞ?』
って戒めに使われる程だ。
俺は錆びた短剣を掴むが、体が緊張で強ばって恐怖で震えているのが分かる。
本来であれば、子供にとって絶望な相手でも戦闘職を得た人にとっては苦にならない程雑魚だが
その職業のスキルが使えない俺には手札が短剣と体術しかない上に近接戦闘の不利な職業適性なのだ。
緊張で周りが見えてなかった。
ニチャァと笑うゴブリンがこちらに走って来ていた。
「ヒッ……やれば良いんだろ? やればぁぁ。うわぁぁぁぁ」
適当に短剣を振り回す。
なんと無様な事だろう、あれだけ戦闘職に憧れ木の棒を振り回していたけど
まさか短剣で魔物に挑む事になるなんて思っても居なかった。
「!!? グギャ!」
ゴブリンが離れた。
意味が分からずゴブリンを見ると右腕に切り傷が出来ていて血が出ていた。
俺はハッとなって短剣を見ると血が着いていた。
こんな錆びた短剣でもダメージを与えられる証左だった。
希望が見えた事により冷静になったが、それがダメだった。
次にゴブリンが接近した時に棍棒を振ってきた時に短剣で咄嗟にガードしてしまった。
「あ!」
そう、木製のゴブリンの棍棒に刺さり抜けず持っていかれてしまった。
既に遅し、素手である。
「グギャギャギャ」
ゴブリンが次に振るった棍棒は俺の肩から首に振るわれた。
「アガッ」
俺は痛みと衝撃でよろけて倒れた。
「あ、あぁ死ぬのか? 嫌だよやだぁ」
目の前の視界が滲んで来た。恐怖と情けなさからだった。
ゴブリンは既に俺が戦意喪失したのが分かると棍棒を捨て布を取った。
最悪だ、異性を知る前にゴブリンに遊ばれて死ぬなんて。
何で俺なんて見てそんなにギンギンに出来るのか意味が分からなかった。
1歩1歩近付いて来る時に俺は走馬灯を見ていた。
母さんが作ってくれた、猪の焼肉美味しかったなぁ。内蔵が特にうんまいんだよなぁ。
「母さんの猪の『焼き』肉死んだら食べさせてくれるかなぁ?」
体の中からギュッと何かが搾り取られる虚脱感があったと同時に絶叫が聴こえた
「グギャァァァァ」
それは異様な光景だった。
ゴブリンが炎の鎧を纏っているのでは? と思う位、炎がゴブリンにまとわりついていて
ゴブリンは必死に炎を消そうと転げ回っていたが数十秒後何も聞こえなくなり俺は意識を手放したのであった。
◇ 2話 冒険者の幻想が脆くも崩れ去っていく
パチパチパチと焚き火の時に枝や木が弾ける音が聴こえる。
俺はゆっくり瞼を開けると空は真っ暗で俺は驚いて起き上がった。
すると後ろから声がかけられた。
「お? 少年起きたか?」
俺は肩をはね上げ後ろを振り返ると……金髪のお姉さんがスクワットしていた。
フンッ、フンっ!フゥ~と少し色気のある吐息を混ぜて。
「あ、はい。助けて貰ったみたいですみません」
俺は立ち上がり頭を下げたがそのまま前に倒れかけた時にお姉さんが受け止め胸に直行
ゴンッ
「「あ」」
その後は俺は悶絶した事は言うまでもない。
流石に全体重の乗った金属胸当てに頭突きかましたのだから。
でも、硬い金属の後の柔らかいクッションがあったって事は……セクハラになりそうなので悶絶しておこう。
落ち着いた後、金髪美女と向かい合って座り話をすることになった。
「改めてまして、助けて頂きありがとうございました。ガウェインです」
「そう、改まる事はないさ。ガウェインが倒れた原因を追ってきたパーティー薔薇の乙女のローズだ」
その紹介を聞き周りを見渡すとテントが1つ張ってあったので納得した。
「追ってきたのはゴブリンですね?」
「あぁ、毎年成人の儀式が終わるとダメだと言われているのに勘違いして
特攻するバカのお陰で君みたいに助かる人も居れば死ぬ物も出る」
そこで俺はブルっと肩を震わせた。
そう、下手すれば俺はあそこで死んでいたのだ。
「俺が倒れたのは何故ですか? 職業がいまいち分からず村を出てきたのですけど」
そして俺はその時の状況をローズさんに教えた。
「ふむ、それは魔力切れだな。その歳まで魔力の扱いを知らずに
尚且つ自身の危険に対処する為に限界まで魔力を使い切ったのだろう。
それにしても……ユニーク職業とはな」
「ん? ユニーク職業とは何ですか?」
ローズさんに聞いたユニーク職業は
・教会の記録に残ってない職業
・分類があやふやな職業
・職業進化による発展系職業
が簡単に言うとあるらしい。
「君みたいに料理をする様な職業なのに戦闘が出来る潜在力がある時点でそれが分かる。
料理人なら刃物を持ってないと倒す事はまず無理だろ。それも運次第だがな?」
そんなこんなを話していると夜が開けてきた。
「あ、料理研究家って職業なのだから料理は出来るか?」
「村では孤児だったので1人暮らしなので多少の心得はありますよ?」
するとローズさんはすんごい笑顔で鞄から机を出した……え?机?
「え!? 鞄から机?」
「ふっふっふっ!ガウェイン君!高位冒険者にはマジックバッグは必需品なのだよ?」
机にはまな板と包丁と肉と野菜と小麦粉と器が置いてあった。
「いやー今まで色んな所からお礼にと食材を貰って来たが如何せん誰も料理出来なくてね?」
ローズさんには1つだけ聞きたい事があった。
「え? 薔薇の乙女って女3人組の「ガウェイン君それ以上は言ってはいけない」あ、はい分かりました」
これは多分推測になるが、何処ぞのお嬢様か家事がダメで花嫁修行出来ずに職業が良かったから飛び出して来たパターンか……
「では作り始めますのであ、水と調味料もあれば下さい」
ローズさんは笑顔で水瓶と調理の入った小瓶を置いて周りを散策しに行った。
俺は肉を触ると目の前に面白い画面が出てきた。
------------------------------------------
品質を考慮しての推奨手順
レッドブルの肉
焼く(塊)・カット(指定の厚さ)
キャベン・キャロ・オニオ
解体:指定の大きさ・千切り・細切り
ガリク・ジンジャ
解体:スライス・すりおろし
小麦粉
こねる:パン用・細切り(太さ指定)・板焼用
-------------------------------------------
「まじか……えーっとじゃあ小麦粉太さ2センチでこねる4人分ちょっと多めで」
タッチしただけでは何も起こらなかったら恥ずかしいので
1番手のかかる小麦粉を村でも食べる腹の膨れる料理を作る為の指定をした。
すると小麦粉の入っていた袋がひとりでに開いたと思えば
塩や水瓶からも食材が勝手に動きグネグネと空中で動いていた。
何か色々ありすぎて俺は考える事を辞めた。
「『焼く』レッドボアの肉」
俺はカットしたレッドボアの肉を塩と胡椒をまぶして
ガリクとジンジャをすりおろして揉みこみ焼くと唱えると
器を用意すると食材が空中に浮き上下に小さい火が発生し始めた。
俺はキャベン、キャロ・オニオをカットして鍋の中に水を入れて煮込む。
その時にカットした時に邪魔になるレッドボアの脂身や筋切りの時に出た端材を一緒に入れてハーブを数種類入れた。
後は待つだけである。
沸騰したら空中に留まっているレッドボアのステーキの余分な油をこちらに入れてもう1つの鍋でお湯を沸かし小麦粉の細切りを茹でる。
かき混ぜながら茹でて透明になりつつ茹で上がったら水瓶の水を使い締める。
器に盛りつけをしたらスープを温め始めた所でローズさんが戻って来たが俺の方を見て口をあんぐり開けていた。
◇ 3話食べ専は楽、報酬は笑顔です
今、俺はキラキラとした屈託のない笑顔を見てやられそうです。
ガツガツと俺が作った料理を3人の美女が食べて飛びっきりの笑顔になっている。
俺も1口食べて、うん、美味い。
「うみゃーうみゃー」
何か変な鳴き声の如く食べているのは赤髪のメラルーさんこの人は斥候っぽいな。
「メラルー静かに。こんなに美味しい物食べれるならふふふじゅるり」
やばい視線を向けてくるのは神官服を着てる緑髪のサナさん。
「コラコラ、悩ましいが私達のパーティーに男は入れないと言ったのはサナだぞ?」
そして注意をしているのはローズさんだ。
「むぅ、残念。失敗した」
「そもそも、ガウェインが絡まれてしまっては意味が無いだろう?」
「嫉妬、吐き気」
そんな2人の不穏な会話を聞いてしまった俺は決意した。
街に行く前に逃げようと
「皆さんは有名みたいですのでいやぁ朝食の片付けがおわ「ダメです!」あはは……はい」
すんごい圧力が3方向から来よる。
多分、メラルーさんが居なければ逃げ切れる自信があるが
「ガウェイン、魔力操作必要」
サナさん? 接続詞って知ってます?
単語しか話さねぇこの人。
俺は片付けを終えて街に向かっているのだが……問題が発生している。
「あの~サナさん? 手を繋ぐ必要「魔力操作、逃亡予防」はい」
魔力操作を覚える過程でまず魔力の知覚からスタートで
サナさんの手を握り魔力を感じたら終わる筈だったのだ。
すぐに出来たのだが……手を離してくれない。
理由は簡単だ、このまま一緒に街に行けばトラブル必須なのだ。
必死に静かにフェードアウトしようとして3回失敗したのだ。
何がヤバいってこの人用を足そうとする時も着いて来ようとするんだよ。
2回目の逃亡失敗時俺は考えた。
用を足すと言えば離れてくれると!そして失敗した。
その後本当にしたくなったのでメラルーさんが近くにいる事を条件におしっこしてたら
「ユニーク」
ギョッとしたよね。
すぐ側にサナさんが覗き込んでいたんだから。
ついつい悲鳴あげたわ
「どうしたガウェイン君!」
「少年どした?」
2回目の悲鳴をあげる事になったわ!
ローズさんとメラルーさんとはちょっと距離が出来た。グスン。
「見られた~お婿にいけない」
よよよと嘘泣きをしつつ全力フルチンで逃げたらあっさり捕まったよ(笑)
ブツはすぐにしまったけどね。
流石に見られて気まずいから逃げたんだけどなぁ……
サナさんが徐に近付いて来て俺の手を握り
「逃亡禁止、魔力操作練習」
「そそそ、それが良いな、サナ逃がすなよ?」
「そそ、そうだねぇ。でもサナ? 覗くのはダメだよ?」
顔を真っ赤にしたローズさんとメラルーさんに言われてサナさんは
いい笑顔で
「委細承知」
と今に至る訳なんだよねぇ。
「そう言えばガウェイン紹介状は?」
「なんすかそれ?」
ローズさんのその一言でトラブル必須の前にトラブルがやって来た様だ。
俺以外の全員の空気がピキっと固まった。
◇ 4話え? 俺は村人ですら無かった様だ……
「ガウェイン、村人、紹介状必要」
むむむ? どういう事だ?
「街に入るのに紹介状が必要なんですか?」
頭を抑えながらローズさんがこちらに来る。
「一応、無しでも入れるが。お金がかかる。紹介状があれば出稼ぎで来たと認識された上に税金の関係で村にも利益がある筈なんだが……」
ふと、メラルーさんが質問してくる。
「も、もしかしてガウェイン。カード持ってない?」
俺はその言葉を聞いて更に首を傾げてしまったし3人は口をパクパクさせて驚いていた。
「ガウェイン君。各国の決まり事でカード発行を義務化されているのだがそれを知らないという事は持ってないな?」
そこでようやく俺は今の状況がやばい事に気付いた。
そう、カードを持っていない子供や大人は犯罪者や捨て子等の人社会と隔離されている世界に居る人ばかりだからだ。
「俺……村人ですらなかったんですねあはは……すみません」
肩をガックリと落とすとサナさんが手をギュッと握ってくれた。
「それよりも深刻。村税金誤魔化している」
「あ!そういう事ですか。確かに徴税官が来る時に俺を含めて
4人位森に行く事を厳命されていたのもそのせいかなぁ」
3人は俺を物凄く可哀想な奴として見ているが俺は村から出て行ってる時点であまり関係が無かった。
「まぁ、興味は無いですね。俺は冒険者になる為に孤児ですと言うだけですから。
そもそも村に居着いた冒険者の子供ですからね」
そんな時だった、目の前に猪が現れたのだ。
「あ、今日のメインディッシュが来よった」
俺は飛び出した、後ろから何か聞こえた気がしたが気にせず
こちらに突進してくる猪の首から肩にかけて短剣で切込みを入れた。
「むむむ? 前にも増して弱くなってる? って言うより何処に短剣を入れれば筋が切れるかわかる気がする」
そこからは魔物と戦闘と言うより食材と料理人の処理だった。
猪が力尽き足を畳んだ所で素早く近付きトドメを刺した。
「ふぅ、今日のお肉は新鮮だな」
「マッドボアをどうしてそんなに倒せる奴がゴブリンとの戦闘で死にかけていたのだ!」
ローズさんにぐわんぐわん肩を揺さぶられるが意味が分からない。
「え? だってコイツ動き単純ですし、食材ですからね?」
「ガウェイン、職業貰う前から倒してた?」
サナさんがそんな普通の質問して来たので俺は頷く。
「 職業の恩恵値無しで魔物を倒せるとは……村って怖い」
メラルーさんが何か村人に対しての風評被害を言ってる気がする。
「簡単ですよ? 先ずは右前脚の肩辺りを切りつけ、次逆側。
そうすると頭を垂れる様にプルプル止まりますから後は噛まれない事と後脚で蹴られない様に近付いてトドメ刺すだけですよ?」
「「それが難しいんだよーー」」
俺は、そんな2人の大絶叫をよそに内蔵処理と血抜きをしていた。
その様子に何か驚いてる3人。
後ろを見るとサナさんが俺を指差す。
「それ、何?」
今、血抜きをしているが血がポンプの様に一定周期で飛び出しているのが気になる様だ。
「あ、あぁこれですか? 人間と同じ様に魔物にも鼓動を放つ部位があるんですけど
これ多分人間も同じで血を送る役割をしてるんですよ。
だから腹側に少し切れ込みを入れて手を突っ込んでその部位を握って首の傷から血を出すんですよ。
まぁ、山で狩りをしてる人なら知ってる時短術ですね。
水魔法が得意な人は血に干渉して全部出しちゃうらしいですけどね」
3人の心の中の意見は一致した。
"村人ってしゅごい"と
その後、毛皮と牙と魔石はローズさん達に肉は俺が調理用にする事になった。
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