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第4話『俺の特技はツッコミじゃありません』
しおりを挟む数10分後。
クロムは、小さなお城にやって来ていました。
と言うより、連れて来られていました。
彼が元々居た所よりも少々こじんまりとした、古びたお城です。
小人の用意した馬に姫と乗せられ、颯爽と門を潜り抜け、そうして今は仰々しい扉の前に立っています。
(──あぁもう本当マジ何なの俺何かした!?)
黒い目は静かに遠くを見つめていますが、心中は荒れ狂っていました。
そんな彼には構わず、警護の兵士達があっさり扉を開け放ちます。隣に立つ白雪姫を見た途端、彼らはにこやかに対応してくれました。
ぎいぃぃ……。
重々しい音と共に、開け放たれた扉。
その向こうには──。
「よ、息子クロム。久しぶり♪」
「何で!!??」
クロムの母……魔女・ミチルが鎮座していました。
赤みがかった茶色い髪。
唇の左端だけ上げて見せる笑み。
間違いなく、クロムの母です。
混乱の極みにある息子に構うこと無く、ミチルはにこやかに手を振りました。
「ホント久しぶりだねぇ。何年ぶりか…元気にしてたかい?」
「イヤイヤ待って、何でお袋が此処に居んの?」
「何でって、だって私此処の女王だし」
「女王!?」
「そ。あれ? 言ってなかったっけ?」
「軽ぅ!!」
「やー、この国を通り掛かった時に、王様にプロポーズされちゃってね」
「プロポーズ!?」
「えぇ、父はお義母様に一目惚れだと言っておりましたわ」
「お、白雪も久しぶり。もう帰って来たのかい?」
「こっちも軽ぅ!!」
ぽんぽん飛び交う会話に、クロムの突っ込みも追い付きません。
──ミチル曰く。
数年前に城を出た後、王子様の呪いを解く為に、彼女は様々な国を渡り歩いていました。
この国もその1つ。
何処かに古文書でも無いかとミチルが探していたところ、其処を偶然通り掛かった国王に突然求婚されたのです。
まるでお伽話のようです。
最初はミチルも辞退していました。
自分が魔女であること、旅の途中であること、目的を達していないことを滔々と語りました。
が、それで諦める国王でもなかったのです。
度重なるプロポーズに、遂にミチルも根負けしました。
そうして、彼を受け入れ──。
ミチルは女王に。
義理とは言え、白雪姫の母となったのでした。
「……──って訳☆」
「☆じゃねぇえよお袋何してんだよぉおお!!」
「あっれー? 使い魔遣ったと思ってたんだけどねぇ」
「来てませんけど!?」
ミチルの私室に場所を変え、彼女は実に簡潔に説明しました。
クロムは突っ込みのオンパレードで、息も絶え絶えです。
「──まぁまぁ。どうか落ち着いてくださいませ」
激しい応酬を気にもとめず、おっとり穏やかに白雪姫が声を掛けました。
手には可愛らしい花模様のカップ。湯気が上がっているのを見ると、温かな飲み物が入っているようです。
「お茶でも如何ですか? お義母様お気に入りの茶葉ですわ」
「あ、あぁ……どうも、ありがと……」
「気が利くねぇ、白雪♪ さっすが私の義娘だね」
「まぁ、お義母様ったら」
ふふ、と小さく笑う白雪姫。
そののんびりした雰囲気に、クロムも気が削がれたのか、ようやく一息ついて口を閉ざしました。
はぁあああー。
胸一杯の空気を吐き出してから、目の前に差し出されたカップを受け取り、僅かに揺れる水面を眺めます。
「……まァ、お袋には何言っても無駄ってのは、よーく分かってンだけどさ……」
「ん? 何か言ったかい、クロム?」
「──お袋さァ、何で白雪姫に毒盛ったの?」
そうです。
母・ミチルの登場ですっかり忘れていましたが、白雪姫は仮死状態に陥っていたのです。
しかもそうしたのはミチルだという疑いもあります。
それが本当なら、クロムは何故そんなことをしたのか問い質すつもりでした。
いつになく真剣な面持ちで、母を見据えます。
が。
「…………ん? 毒?」
きょとん。
ぱちぱちと目を瞬かせる、ミチル。
その様子に、嘘や誤魔化しは見受けられません。
何のこと?
そう言いたげな彼女に、クロムも困惑しました。
「……えっ、と……いや、つまり……」
「何を言い出すかと思えば……私が白雪に毒なんか盛るわけ無いだろう?」
「えぇー……」
呆れを通り過ぎて、ミチルはぷりぷり怒り出します。彼女からすれば、義理とは言え初めて出来た可愛い娘に、害を与えたと言われたのです。ご機嫌を損ねても仕方がありません。
続きます(^^;)
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