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第5話
しおりを挟むあの後すぐ、シンデレラは魔法使いと合流することが出来ました。
やはりあの黒猫は、彼が変身していたものでした。どうして分かったのかは、自分でも分かりません。
シンデレラが涙を流していることに驚いた彼は、一体どうしたのかと心配しましたが、見知らぬ人達の中で不安だったので、魔法使いに会ったことで緊張の糸が切れたからと説明しました。少し苦しい言い訳でしたが、彼はそれ以上追求してきませんでした。
夢の時間は、あっという間。
魔法が解けたシンデレラは、いつものみすぼらしい格好に戻りました。
自宅である屋敷まで魔法使いに送り届けられ、自室に辿り着いて、ようやくほっと力が抜けました。緊張が解れ、やっとのことで一息つくことが出来ます。
(…………──僕には、過ぎた夢だったなぁ……)
あの、きらびやかなパーティー会場。
思い思いに着飾った、美しい人々。
用意されていた料理や飲み物、飾ってある花まで、どれもが美麗で初めて見るものばかりでした。
それだけでも充分わくわくしたと言うのに。
(…………王子様…………)
誰よりも輝いていた、黄金の瞳の麗人。
あんな雲上の人と、シンデレラはダンスをしたのです。それも何度も!
あんなに楽しかったのも、どきどきと胸が高鳴ったのも、昔に妹と遊んでいた頃以来でした。
こんなに素晴らしい思い出は、もうきっと無いでしょう。
そして──。
もう1度会う機会など、金輪際やって来ないでしょう……。
シンデレラは再び溜め息を吐いて、ぼんやりと手元を眺めました。
其処にあるのは、あのガラスの靴。
魔法使いが記念にと、これだけ残してくれていました。
ガラスの靴をそっと撫で、王子様を思い浮かべます。
せっかく引き留めてくださったのに、振り切って逃げてしまい、申し訳ない気持ちで一杯でした。けれど同時に、楽しかったなぁと満足感も抱いていました。
(…………どうか、お元気で──…………)
翌日。
舞踏会があった、次の日のこと。
お城から国中に、あるお触れが出されました。
曰く。
昨晩出逢い、共に踊った美しい姫に、王子様が大層ご執心されている、何としてでも探し出すように、とのことでした。
しかも見付け次第、その者と結婚する、と仰ったそうです。
王国は上から下から大騒ぎでした。
特に妙齢の女性は、自分こそが!と息巻いています。
と言うのも、その姫の名前が分からない為、お城の偉い方々は、落とし物で見付け出そうとしているからです。
その、落とし物とは。
ぱりん!
「きゃっ!?」
「な、何をやってるんだい、シンデレラ! そのお皿は高いんだよ!!」
「ご、ごめんなさい……!」
するりと手から抜け落ちた皿が、シンデレラの足元で粉々に砕け散りました。淡い水色の絵具で描かれていた花模様が、見るも無残です。
継母達に謝罪しながら、箒と塵取りを手に、シンデレラは慌てて片付けました。
呆れて溜め息を溢す彼女達を後目に、懸命に自分を落ち着けようとしています。まるで、どきどきと心臓が暴れているようです。
(……お、王子様が……!?)
まさか、自分を探しているとは。
それも落とし物は、あのガラスの靴です。シンデレラの足に合うように魔法使いが誂えてくれた物で、しかも片方は自室に隠してあります。
継母達の話によれば、あのお城に落としてきてしまったガラスの靴を履いて、ぴったり合った者こそが、件の姫だと言うのです。
確かに間違っていません、名前も分からぬ者を見付けるには、妥当なやり方とも言えるでしょう。国中の娘に履かせれば、いつかは辿り着けます。
「でもお母様、国中の娘に、って……」
義姉が訝しげな表情で、ちらりとシンデレラに目をやりました。床に這いつくばって掃除をしている彼女を見る様は、とても義妹へ向けられたものとは思えません。
娘の心配を察して、継母がころころと笑いました。
「大丈夫だよ。あの子は屋根裏部屋にでも押し込んでおけば良いのさ。お城の遣いの方が来ようと、あの子は関係無いんだから」
「そうですわね、お母様の仰る通りだわ」
「そんなことより自分の心配をおし。昨晩のお姫様は大層お綺麗で、細身の方のようだったよ。お前と背格好は似ているかね……」
「任せて頂戴、お母様。何としてでも、落とし物の靴を履いてみせるわ!」
「そうそう、その意気だ。上手くいけば、玉の輿だよ!」
凄い会話です。継母も義姉も、王子様の探し人に成り代わる気満々です。
シンデレラはそれを遠くの方で聞きながら、早く騒ぎが落着することだけを祈っておりました。
(…………当日は、隠れていなくちゃ…………)
そうしておけば、嵐は勝手に通り過ぎて行くのですから──……。
とは、参りませんでした。
そうです、皆様のご存知の通りです。
お城の使者は、屋敷の奥に隠れていたシンデレラに気付き、連れてくるよう命じ、靴を履かせました。
すると、どうでしょう。
シンデレラの白い足が、するりと靴に収まったではありませんか!
何とか靴を履こうと四苦八苦していた義姉達は、それを見て絶句しています。愕然、という言葉がぴったりです。
シンデレラはめでたく、王子様の探し人としてお城へ連れて行かれ、無事に再会を果たしました。
感動の再会に国中が沸き上がり、人々は揃って祝福を送ります。
こうしてシンデレラは、ようやく幸せを掴n
「ちょっと待って!! 私……僕は男だよー!!!」
あ。
そうでした。
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