領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ

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第四章 弱小領地の攻撃

第35話 わからせ

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 半日前。

 ベネ領主の屋敷で門の見張りをしていた兵士二名は、林の向こうから妙な少年があらわれるのを認めた。

「こんにちはー。わからせ屋さんです」

 年の頃は十代の前半ほどの美少年で、なにやら木箱をひとつ抱えている。

「ここはベネ領主のおうちだよね?」

「ぁあ!? なんだキサマ!」

「お前のようなガキの来るところではない。帰れ帰れ!」

 見張りの兵たちは近所の子供が興味本位で近づいて来たものと思ってか無造作に追い返す。

「困ったなあ。兄ちゃんに言われて『わからせ』に来たんだけど……」

「なにをワケのわからないことを!」

「さっさと帰らないと痛い目をみるぞ!」

 そこで少年はポンと手を叩く。

「そうだ。おじさんたちって兵士なんだよね?」

「むッ、そうだぞ。だからこうして領主さまをお守りしているのだ」

「へー、カッコいいねー!」

「ま、まあな……」

 門兵たちはポリポリと頬をかいて照れる。

「ってことは、死ぬのなんか怖くないんだよね?」

「なにイ? ふんッ、当然だ」

「死をおそれて兵士は務まらぬからな」

「……もし今日、これから死ぬことになっても?」

「もちろんだ」

 うなづく門兵たち。

「よかったぁ。それを聞いて安心したよ」

 少年はニッコリ笑うと背中に隠してあった剣をぬらりと抜いた。

 あッ、と声が出る前。

 すでにひとり斬られていた。

 胸を貫かれ、事切れている。

「キサマ……ッ!」

 もうひとりがあわてて柄へ手をかけるが、遅い。

 剣が鞘から抜ける前に、彼の頸動脈には少年の剣が差し込まれていた。

 けたたましく吹き出る血潮。

「死ぬのが怖いなら、殺したら可哀想だもんね……」

 少年は剣の血糊を払うとスタスタと屋敷へ入っていった。



 ◇



「うまい! うまいぞー!」

 ベネ領主は、たっぷりと塩を使った海の幸を食して絶叫した。

 生貝、白子、 きも、塩釜焼き……

 時間や領地にとらわれず幸福に空腹を満たすとき、束の間、彼は自分勝手になり、自由になる。

「領主さま、またそのような無茶なお食事を!」

「ロッシ……」

 苦言を呈するのは家臣のロッシ。

 ベネ領主はまだ40代ではあるが、食にまつわる不摂生が祟って幾度もぶっ倒れている。

 そばに仕えるロッシの心配ももっともだった。

「ふん、細かいことを申すな。オレなんぞよりダダリの新領主を見よ。ヤツはすでに二人の嫁を娶っておるスケベったらしの上、ナディア様までものにしたとかいうウワサだ。ぐぬぬ……憎ったらしい! それに比べればオレの“食欲”などよほど慎ましく、清潔な趣味だろう。そうは思わんか?」

「たしかに、それはそのとおりでございます」

 ふたりの男の瞳に嫉妬の炎が宿る。

 口ではああ言っているが、十代の若い女を複数嫁にするなどという ドリームが羨ましくないはずはないのだ。

 うさばらしに珍味三昧でもやらねばやっていられない。

「……トルティの息子には相応の報いを受けてもらわねばな」

「はッ!」

「それにしてもライオネの領主はうまいことを考える。これでダダリはジリ貧。嫁を養う甲斐性もなくなるだろう」

 ただ、そこでロッシは再び表情を曇らせる。

「しかし領主さま……本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫、とは?」

「ライオネに塩の包囲網を敷いてもらう代わりにダダリへ10倍の価格を要求し、ライオネの仲裁によって最終的に2倍の価格を呑ませる。たしかに合理的な“攻め”ではありますが、窮鼠猫を噛む――あまりに強い経済的な追い込みによって逆にダダリを奮起させ、死にもの狂いで我が領を攻めて来させてしまう……そんなことにはなりませぬか?」

「ロッシよ。あいかわらずの心配性だな」

 ベネ領主はあきれたように返す。

「トルティが生きているのならそのような心配もわかる。だが……お前も王都で見ただろう。トルティの息子が、ライオネのお嬢さんにボコボコにされた御前試合を。あのようなヘタレによそを攻めるような気概があろうはずはないわ」

「私はあの試合、八百長だったのではと考えております」

「あ?」

「おかしな点が多いのです。ダダリはついこの前、侵攻するガゼット領を相手に圧勝しているのですぞ。ダダリの新領主が本当にヘタレならば、そのような戦果と整合いたしませぬ」

 ロッシがそこまで言った時。

 ふいに部屋へ一陣の風が吹き込んだ。

 二人同時に振り返ると、部屋のドアが開かれ、見知らぬ子供がひとり入ってくるではないか。

「なんだお前! ここはガキの来るところではないぞ!」

 ロッシが目を いて叱る。

「僕はダダリの領主アルトの弟ラム。今日はわからせに来ました」

 ベネ領主とロッシは顔を見合わせる。

「……キサマ、ひとりか? 見張りの兵たちはどうした?」

「彼らには先にわかってもらったよ。そんなことより、これが兄ちゃんの書状です」

 少年が書状を差し出すので、ロッシが受け取る。

「返書というわけか。使者はどうした?」

「使者のヒトならこっちだよ♪」

 そう言って、少年は抱えていた正方形の木箱を床へ置いた。

 片腕で抱えられるような小さな箱である。

「キサマ、何を言っているのだ?」

「僕はね。に来たんだ。兄ちゃんがどれだけ怒っているか……」

 少年はそれだけ残して、ぷいっと去って行ってしまった。

「おかしなガキだ」

 ベネ領主とロッシはまた顔を見合わせる。

 が、ロッシが木箱を開けてみせた時、二人は絶句することになった。

 そこには使者の凄惨な生首が納められていたのだから……

「なッ……」

「ヤツめ!」

 ロッシはカッとなって得意の槍を持って部屋を飛び出た。

 使者を首だけで返してくるなど、なんてナメきった無法。

 ならばこちらもあのガキの首を取って送り返してやる!

 まだそう遠くへは行っていまい。

 そう思いながら屋敷の階段を駆け降りている時……

 異変に気付く。

 そう。

 屋敷には十名ほどの兵士が詰めており、領主邸の警護に当たっているはずだった。

 その十名が、ことごとく血祭りにあげられていたのである。

「ま、まさかあの子供が?」

「ロ、ロッシ……」

 立ち尽くすロッシの後ろで、開かれた書状を持ったベネ領主が呼び止める。

「お前の心配が当たったようだ。だ、ダダリの新領主は相当怒っている……これは宣戦布告だろう」

 青ざめた顔のベネ領主の横で、シャンデリアに串刺しになった兵の血がぴちょんと滴っていた。

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