聖女は記憶の残滓に恋焦がれる ~男体化してしまった聖女の妹が私を汚そうとするんですが誰か助けてください~

なのの

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11.約束の日

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 悪しき魔女と聞いて、数名の名前が浮かび上がる。
 だけど有名どころなのは、知名度が高すぎて入国が禁止されていた。

 さてはて、では誰が犯人?
 探すのは得意分野です。
 性別を変えるなんて高レベルの魔法を使える人は限られている。
 しかも、この王都の近くに住んでいる事が条件となるともっと少ない。
 10人に絞り込み、その氏名やアクセスコードをメモした。

 次に、一気に範囲を広げる。
 隣国くらいまでで同条件の者をリストアップ。
 多い、多いよ!

 105名、こんなの悠長に調べられない。
 でも、本は渡すと約束したし、それを全部メモするしかなかった。
 つらつら書いている内に、そのうちの一人がアリニャーヌ公国の大公様だと気が付いた。
 大公様自ら魔女、というか女大公だったとはね。
 会う事すら、難しそう。

 ずらずらと書き写したアクセスコードの多さに目がくらむ。
 住所を明かしたくない人が手紙を受け取る為の非公開型匿名の住所がアクセスコード。
 連絡を取りたいなら宛先にアクセスコードを書いて手紙を送るだけの簡単な話。

 ただ、こちらが『サザーランド公爵の娘ですけどー』なんて言って手紙を送って、『はい、私が犯人です』なんて名乗り出る訳がない。
 こればかりは一計を案じないといけない訳です。
 その案はいくつかあるのですが、先ずはこの本を渡さないとですね。


 約束の日になって、私は茶店に赴いた。
 ストレートの紅茶を飲みながら、茶葉が何処産なのか推測していた。
 それなりに有名どころの産地なのでは、なんて思いながら、匂いを楽しんでいる。
 味はフルーティで爽快感があるのに深コクがある、ちょっと珍しい物。
 中々良い店を指定すると感心した。

 カランカランとドアを開ける音と共に彼が入って来た。
 彼は私に気付くとフードを外し、店員に『いつものを頼む』と言って私の前に座った。

「おや、マスカテルフレーバーですか、いいですね私も好きなんですよ」

「紅茶に詳しいのですね」

 挨拶も無しに会話が始まった。
 でもそれが、何だか自然に思えるのはとても不思議に思えた。
 遅れてウェイトレスが同じ紅茶を運んでくる。
 それを余計な言葉を挟まず、手振りと笑顔だけで感謝を伝える。
 そこになんだか気品を感じた。

「商売柄ですよ。各国に行く事がありますので、駄賃ついでに荷物を運ぶんです」
「それは楽しそうですね。あ、そうでした、忘れないうちに、はい、この本、お待たせしました」

 魔女年鑑を渡すと彼は本の上に手を置いて、神妙な表情で言葉を口にする。

「これを欲しがると言う事は、貴女、もしくはその周りの人に呪いを受けた人がいるという事ですか」
「ええ、そうですね。詳しくは言えませんが」
「そうですか、私もそうなんですよ、もし再び必要になったら、ここのマスターにことづけしてもらえれば」
「ありがとうござます。ちなみにお名前を伺っても?」
「私の名前ですか・・・、一度しか言いませんよ。■■■■■です。聞こえましたか?」

 名前の所がザーっという音にしか聞こえなかった。
 何・・・これは何?

「あ・・・あの、聞こえ・・・」
「ですよね。そうなのです、私は名前が名乗れない呪いなのですよ。ですから好きにお呼びください」
「それ、本当に名前だけですか?」
「ふむ、鋭いですね、呪われた当時、深くかかわった方の記憶にも似た効果が出てると思われます」
「──それっていつ頃からですか!?」

 私は思わず立ち上がり、机を揺らしてしまうくらいに動揺していた。

「それは知らない方がいい。特に君は」
「え・・・それはつまり・・・」

 私の唇に人差し指をそっと当てた。
 それ以上は話さない方がいいと言う意図が伝わって来る。
 深入りすると呪いが発動するとでも言いそうな、そんな脅迫染みたものが私を襲う。

「そういう、事・・・ですね」
「ああ」

 んんん・・・。
 もしかして・・・。

 今、指にキス・・・しちゃった・・・。

「どうかしたかい?」
「な、なんでもありませんっ」

 異性の指が唇に触れただけ。
 それなのに、何故か、イケナイコトをしてしまった様な感覚。
 その後はしどろもどろになりつつも彼と別れ、レッドに連れられ屋敷に戻った。

 魔女の特定なんてすっかり忘れ、頭の中は彼の事ばかりを考えていた。
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