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40.女神、再び降臨
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その日、私はドルヴァー公爵領近くの村に降臨する予定だったのを急遽変更して、大聖堂に降臨した。
それはエイダがアリアナの呪いが解けたと言った事に起因する。
事実関係を確かめるべく、大聖堂で情報を集めようとした。
呪いが解けるなんて事はほぼ有り得なかった。
それこそ、死ぬ以外の方法は・・・。
結局、大聖堂で鼻にも分からず、大司教様が調べてくれると言う。
一応、サザーランド公爵領の教会にも降臨し、妹の安否を確認するように頼んだ。
そんなバタバタした時間を経て、当初予定していた教会に降臨していたが、そこには横たわって死にかけているウォルターが居た。
「ウォルター!」
私の声にウォルターは反応しなかった。
代わりに副官が口を開く。
「女神様、治療をお願いします!訳は後でお話しますので!」
「わ、わかりました」
治療の光を発動するも毒が邪魔をして、顔色は悪いままだ。
私が予定通りに降臨していればこんな事にはならなかったと後悔しながらも必死で治療を続ける。
献身的な看病と言うには烏滸がましい、ただ祈り続けているしかできない自分に腹が立つ。
「ウォルター!生きなさい!ここで死んじゃったら、あの約束はどうなるの!」
傷口は塞がった。
後は毒が抜けるのを待つだけ・・・待ってていいの?
不安だった。
文献の知識を総動員するまでもなく、いくつかの毒の知識が出てくる。
このままでは駄目なのは分かる、毒を何とかしないと──。
そう思った時、エリザベートの話を思い出した。
彼女は降臨した女神の血を研究した所、それを舐めるだけで、あらゆる病に効果があると言っていた。
私の血を拭き取ったタオルを元に研究し始めていたのだ。
濃縮された女神の恩恵を受けれるとかなんとか。
私は近くに居る兵士の剣を借り、3本まとめて指先を切りウォルターの口に突っ込んだ。
どうせなら、キスの方が治療効果が高いって研究だったらロマンチックなのにと思いながらしたとは言えない。
私と彼は、婚約者でも恋人でも将来を誓いあった仲でもない。
そう、私達は───
「一緒に世界征服するって約束したでしょ!ここで死んだら許さないんだから!」
あの日、ウォルターが自身の境遇を嘆き、それを慰める為、争いの無い世界を作ろうと話した。
どうせなら、自由にどこにでも行きたい、色んな人達を友達になりたい、色んな地域の料理を食べたい。
じゃあ世界征服するしかないね、二人で一緒に。
約束だよ。
そう誓い合った。
それは結婚なんかよりももっと重い、盟約だ。
こんなきな臭い世界なんて征服しちゃえって単純な思考からくる約束。
子ども過ぎた発想に赤面する。
だって、私はウォルターの事を、相棒じゃなく、男の人と見ているのだから。
きっとそう言ったら、変に思われる。
約束はどうなったと問い詰められる。
好きだと言われた時は、まだ彼の事を想い出していなかった。
今ならわかる。
相棒としての好意だと言う事に。
そんな私が恋愛的に好きと言えば、今の関係が崩れる。
私はそんな自分を律して、治療を専念する事を考える。
れろっ
祈りを邪魔するかの様に指先を彼の舌が纏わりついた。
指先を舐めているのが意識があるのか無意識なのか判断つかないけど、いままでピクリとも動かなかった事を考えると、徐々に意識を取り戻し始めたのだとお思い、薄目を開けた。
子供の頃に教会で祈っていた時の事を思い出す。
周りが一斉に祈りを捧げ、目をつぶるのを真似したはいいものの、開けるタイミングが分からず、薄目を開けて周りを観察する。
祈りよりも周りに合わせ、体裁を保つ事が大事だと思っていた時期。
そんな子どもに戻った気がした。
そして、薄目に映ったのは少し顔色が良くなった彼の姿。
目を開いていないと言うのに、舌は動き続けた。
邪魔とでも感じているのか、指と指の間に割り込む様に入り込む舌に敏感になる。
指先を舐められているだけというのに変な気持ちになってゆく。
「気持ちいい?」
「はい・・・って」
「ありがとう、命拾いしたよ」
ちゃんと目を開いている彼を見た時、私は無意識に抱き着いてしまっていた。
相棒としてよりも、一人の男性として生きていて嬉しかったと思ってしまった。
誰にも言えない恋だと分かっている。
身分不相応だと分かっている。
それでも好きでいる事を否定できなかった。
口から離れていた指は唾液が絡みついたままだ。
それを私が舐めたら、ふしだらと思われるかな、なんて思ってしまう。
体裁上許されない行為に、少し胸が高鳴る。
少しだけ、指を舐めてみる。
その時点で気が付いた、教会内が二人きりになっている事に。
ふしだらな行為を誰にも見られていない事に安堵する。
彼は抱き着いているので、見ていない。
もう一舐めくらい大丈夫かな?なんて思っていると彼の体重が私に───
ばたん──
押し倒されたような状況に、彼も私も困惑する。
「すまない、思った以上に力が入らない様だ」
「無理しないでください。しかし、困りましたね」
お互いに身動きが出来ない状態に陥っていた。
彼の体重に幸せを感じる。
本当だったら、このまま抱かれたいなんて思ってしまう。
だから、こんな状態じゃないと、できない事を私は実行した。
このままでいたい。
そう思って再び抱きしめた。
「しばらく、このままで」
「俺もそうしたい、だが女神様じゃなく、エリアナとこうしたいな」
「でも、私達の関係は───」
「だから何だ、世界を征服する前に、お前を征服してもいいのだろう?」
それはエイダがアリアナの呪いが解けたと言った事に起因する。
事実関係を確かめるべく、大聖堂で情報を集めようとした。
呪いが解けるなんて事はほぼ有り得なかった。
それこそ、死ぬ以外の方法は・・・。
結局、大聖堂で鼻にも分からず、大司教様が調べてくれると言う。
一応、サザーランド公爵領の教会にも降臨し、妹の安否を確認するように頼んだ。
そんなバタバタした時間を経て、当初予定していた教会に降臨していたが、そこには横たわって死にかけているウォルターが居た。
「ウォルター!」
私の声にウォルターは反応しなかった。
代わりに副官が口を開く。
「女神様、治療をお願いします!訳は後でお話しますので!」
「わ、わかりました」
治療の光を発動するも毒が邪魔をして、顔色は悪いままだ。
私が予定通りに降臨していればこんな事にはならなかったと後悔しながらも必死で治療を続ける。
献身的な看病と言うには烏滸がましい、ただ祈り続けているしかできない自分に腹が立つ。
「ウォルター!生きなさい!ここで死んじゃったら、あの約束はどうなるの!」
傷口は塞がった。
後は毒が抜けるのを待つだけ・・・待ってていいの?
不安だった。
文献の知識を総動員するまでもなく、いくつかの毒の知識が出てくる。
このままでは駄目なのは分かる、毒を何とかしないと──。
そう思った時、エリザベートの話を思い出した。
彼女は降臨した女神の血を研究した所、それを舐めるだけで、あらゆる病に効果があると言っていた。
私の血を拭き取ったタオルを元に研究し始めていたのだ。
濃縮された女神の恩恵を受けれるとかなんとか。
私は近くに居る兵士の剣を借り、3本まとめて指先を切りウォルターの口に突っ込んだ。
どうせなら、キスの方が治療効果が高いって研究だったらロマンチックなのにと思いながらしたとは言えない。
私と彼は、婚約者でも恋人でも将来を誓いあった仲でもない。
そう、私達は───
「一緒に世界征服するって約束したでしょ!ここで死んだら許さないんだから!」
あの日、ウォルターが自身の境遇を嘆き、それを慰める為、争いの無い世界を作ろうと話した。
どうせなら、自由にどこにでも行きたい、色んな人達を友達になりたい、色んな地域の料理を食べたい。
じゃあ世界征服するしかないね、二人で一緒に。
約束だよ。
そう誓い合った。
それは結婚なんかよりももっと重い、盟約だ。
こんなきな臭い世界なんて征服しちゃえって単純な思考からくる約束。
子ども過ぎた発想に赤面する。
だって、私はウォルターの事を、相棒じゃなく、男の人と見ているのだから。
きっとそう言ったら、変に思われる。
約束はどうなったと問い詰められる。
好きだと言われた時は、まだ彼の事を想い出していなかった。
今ならわかる。
相棒としての好意だと言う事に。
そんな私が恋愛的に好きと言えば、今の関係が崩れる。
私はそんな自分を律して、治療を専念する事を考える。
れろっ
祈りを邪魔するかの様に指先を彼の舌が纏わりついた。
指先を舐めているのが意識があるのか無意識なのか判断つかないけど、いままでピクリとも動かなかった事を考えると、徐々に意識を取り戻し始めたのだとお思い、薄目を開けた。
子供の頃に教会で祈っていた時の事を思い出す。
周りが一斉に祈りを捧げ、目をつぶるのを真似したはいいものの、開けるタイミングが分からず、薄目を開けて周りを観察する。
祈りよりも周りに合わせ、体裁を保つ事が大事だと思っていた時期。
そんな子どもに戻った気がした。
そして、薄目に映ったのは少し顔色が良くなった彼の姿。
目を開いていないと言うのに、舌は動き続けた。
邪魔とでも感じているのか、指と指の間に割り込む様に入り込む舌に敏感になる。
指先を舐められているだけというのに変な気持ちになってゆく。
「気持ちいい?」
「はい・・・って」
「ありがとう、命拾いしたよ」
ちゃんと目を開いている彼を見た時、私は無意識に抱き着いてしまっていた。
相棒としてよりも、一人の男性として生きていて嬉しかったと思ってしまった。
誰にも言えない恋だと分かっている。
身分不相応だと分かっている。
それでも好きでいる事を否定できなかった。
口から離れていた指は唾液が絡みついたままだ。
それを私が舐めたら、ふしだらと思われるかな、なんて思ってしまう。
体裁上許されない行為に、少し胸が高鳴る。
少しだけ、指を舐めてみる。
その時点で気が付いた、教会内が二人きりになっている事に。
ふしだらな行為を誰にも見られていない事に安堵する。
彼は抱き着いているので、見ていない。
もう一舐めくらい大丈夫かな?なんて思っていると彼の体重が私に───
ばたん──
押し倒されたような状況に、彼も私も困惑する。
「すまない、思った以上に力が入らない様だ」
「無理しないでください。しかし、困りましたね」
お互いに身動きが出来ない状態に陥っていた。
彼の体重に幸せを感じる。
本当だったら、このまま抱かれたいなんて思ってしまう。
だから、こんな状態じゃないと、できない事を私は実行した。
このままでいたい。
そう思って再び抱きしめた。
「しばらく、このままで」
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