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39.女神、行軍(ウォルター視点)
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わからない事があった。
エリアナの呪いが解けた理由だ。
サザーランド公爵軍と王国軍が攻め込んできたから、恐れをなしたドルヴァー公爵が命令して呪いを解いたと考えるのが妥当なのだが、それであれば、それを条件に和平交渉をしてきても可笑しくない筈だ。
だというのに、ドルヴァー公爵からは徹底抗戦するとの言葉ばかりが目に付く。
ドルヴァー公爵は元々王家から依頼を受ける呪い屋を生業とした暗部だ。
ブキャラン侯爵はその分家に当たり、その呪い屋を今でも生業としている者が多かった。
ただ、今となっては王家から依頼する事は無く、ドルヴァー公爵は自身の独断と私利私欲の為にその力を使い始めた。
その最たる事件が10年前の、エリアナの神聖力の暴走だ。
サザーランド公爵の勢力が増すのを恐れたドルヴァー公爵は、ブキャラン侯爵(当時は子息)に指示し、呪いを掛けさせた。
恐らくはエリアナと俺が密会を重ねていた事を知り、恋中だと勘違いしたのだろう。
当時はドルヴァー公爵の娘を押し付けてくる圧が強く、その障害になると思われたのだ。
騒動の後は監視の目が厳しくなった事、大聖女とも噂された彼女が引き籠った事から、ドルヴァー公爵は大人しくなった。
だと言うのに、突如また同じ過ちを犯し始めたのは、やはりアリアナの婚約のせいなのだろう。
俺はドルヴァー公爵の目を欺く為、というよりは娘との婚約を回避する為に、表向き廃嫡という形をとって国外を主な活動の場とし、知見を広めて自身を鍛えた。
そして呪いについて調査を始めたのはここ数年の話だ。
一応、冤罪の可能性も考えてドルヴァー公爵と関わりの無い魔女についても調べていた。
当時こそ分かっていなかったが、神聖力の暴走は本人の防衛本能だ。
それが働いたと言う事は、酷い痛みが伴う呪いだったという事。
痛みを伴う呪い、それを得意としていたのがブキャラン侯爵の妹君であるエイブリーであった。
噂では、そのエイブリーが呪いの功績を買われ、ドルヴァー公爵の長男と結婚したと言う。
それで俺は確信を持った、呪いをかけた張本人がエイブリーであることを。
だが、不幸な事に、エイブリーは中々身籠らなかった。
そこで、エイブリーの妹のエイダを側室として迎え入れ、子を作ろうと考えたのだが、その矢先にエイブリーの懐妊が発覚した。
エイダは用無しとされたが、エイブリーの強い要望もありエイダを側室として残したのは、エイブリーにとって妹が都合の良いオモチャだったからだった。
その事を知ったドルヴァー公爵も、同様にオモチャにしていたと言うのだから、度し難い。
エイブリー本人に会った事は無いが、話を聞く限り残忍な性格をしている。
その彼女が呪うのもまた、酷い痛みを伴うと言う話だというのも腑に落ちる話だ。
先日、エリアナがそんな痛みを克服したのは、俺の認識をずらして信じ込んだ結果なのだろう。
俺をただの平民のウィルターとでも思いこんだのだろうか。
きっとその時の彼女の頭の中は、くだらない芝居みたいなこじ付けの設定が俺になされたのだろう。
いつかその時にどう思ったのか聞いてみたいものだ。
その彼女は一旦、女神像を元の場所に戻して降臨を解除している状態だ。
我々は最後の攻略目標のドルヴァー公爵の本拠地、彼らの領都に向かい移動中だ。
だが、行軍に女神様が同行している事を示す為に、王家の馬車に女神様が乗っているという体裁をとっている。
予定では領都の近くの村で再び彼女が降臨し、そこで合流する予定だ。
女神様が味方に付いていると言う状況は異常なまでに戦況を有利にさせた。
敵兵の寝返りが多発する事も然る事乍ら、味方の士気向上は類を見ない程だ。
普通は1か月も戦っていれば様々な理由で脱落する者が現れるのだが、それが今となっては逆に増える一方だった。
寝返った敵兵が女神様の為ならばと、戦争への参加を申し出てくれた。
戦争で心地良い気分にさせられるとは、エリアナの力というのは末恐ろしい。
本当に味方でよかったと思える。
もしかすると、あの約束も───
その時、急に馬車が止まった。
何事かと思っていれば、どうやら行軍を邪魔した者が居たらしい。
若い男だったが目の下にクマが出来ていて、何やら薬の中毒患者かもしれないと報告を受けた。
実際、ドルヴァー公爵の治める領地では、そういう薬が流通していて、砦内ですら数名の中毒患者を見かけた。
それらを片っ端から、エリアナが治療してまわったのだから、目的地の村まで行けば治療できると考えたのだ。
浅はかだった。
俺はその事を若い男に伝えようと馬車から降りた所で、その男に刺されてしまった。
「貴方は・・・ジェイミー様じゃない・・・ジェイミー様を何処に隠した!」
女神を乗せているという体裁上、この場で治療できない事を公にする事も出来ず、急ぎ村に向かったが、その時には毒が全身に回り、俺は起き上がれない程の重体になっていた。
エリアナの呪いが解けた理由だ。
サザーランド公爵軍と王国軍が攻め込んできたから、恐れをなしたドルヴァー公爵が命令して呪いを解いたと考えるのが妥当なのだが、それであれば、それを条件に和平交渉をしてきても可笑しくない筈だ。
だというのに、ドルヴァー公爵からは徹底抗戦するとの言葉ばかりが目に付く。
ドルヴァー公爵は元々王家から依頼を受ける呪い屋を生業とした暗部だ。
ブキャラン侯爵はその分家に当たり、その呪い屋を今でも生業としている者が多かった。
ただ、今となっては王家から依頼する事は無く、ドルヴァー公爵は自身の独断と私利私欲の為にその力を使い始めた。
その最たる事件が10年前の、エリアナの神聖力の暴走だ。
サザーランド公爵の勢力が増すのを恐れたドルヴァー公爵は、ブキャラン侯爵(当時は子息)に指示し、呪いを掛けさせた。
恐らくはエリアナと俺が密会を重ねていた事を知り、恋中だと勘違いしたのだろう。
当時はドルヴァー公爵の娘を押し付けてくる圧が強く、その障害になると思われたのだ。
騒動の後は監視の目が厳しくなった事、大聖女とも噂された彼女が引き籠った事から、ドルヴァー公爵は大人しくなった。
だと言うのに、突如また同じ過ちを犯し始めたのは、やはりアリアナの婚約のせいなのだろう。
俺はドルヴァー公爵の目を欺く為、というよりは娘との婚約を回避する為に、表向き廃嫡という形をとって国外を主な活動の場とし、知見を広めて自身を鍛えた。
そして呪いについて調査を始めたのはここ数年の話だ。
一応、冤罪の可能性も考えてドルヴァー公爵と関わりの無い魔女についても調べていた。
当時こそ分かっていなかったが、神聖力の暴走は本人の防衛本能だ。
それが働いたと言う事は、酷い痛みが伴う呪いだったという事。
痛みを伴う呪い、それを得意としていたのがブキャラン侯爵の妹君であるエイブリーであった。
噂では、そのエイブリーが呪いの功績を買われ、ドルヴァー公爵の長男と結婚したと言う。
それで俺は確信を持った、呪いをかけた張本人がエイブリーであることを。
だが、不幸な事に、エイブリーは中々身籠らなかった。
そこで、エイブリーの妹のエイダを側室として迎え入れ、子を作ろうと考えたのだが、その矢先にエイブリーの懐妊が発覚した。
エイダは用無しとされたが、エイブリーの強い要望もありエイダを側室として残したのは、エイブリーにとって妹が都合の良いオモチャだったからだった。
その事を知ったドルヴァー公爵も、同様にオモチャにしていたと言うのだから、度し難い。
エイブリー本人に会った事は無いが、話を聞く限り残忍な性格をしている。
その彼女が呪うのもまた、酷い痛みを伴うと言う話だというのも腑に落ちる話だ。
先日、エリアナがそんな痛みを克服したのは、俺の認識をずらして信じ込んだ結果なのだろう。
俺をただの平民のウィルターとでも思いこんだのだろうか。
きっとその時の彼女の頭の中は、くだらない芝居みたいなこじ付けの設定が俺になされたのだろう。
いつかその時にどう思ったのか聞いてみたいものだ。
その彼女は一旦、女神像を元の場所に戻して降臨を解除している状態だ。
我々は最後の攻略目標のドルヴァー公爵の本拠地、彼らの領都に向かい移動中だ。
だが、行軍に女神様が同行している事を示す為に、王家の馬車に女神様が乗っているという体裁をとっている。
予定では領都の近くの村で再び彼女が降臨し、そこで合流する予定だ。
女神様が味方に付いていると言う状況は異常なまでに戦況を有利にさせた。
敵兵の寝返りが多発する事も然る事乍ら、味方の士気向上は類を見ない程だ。
普通は1か月も戦っていれば様々な理由で脱落する者が現れるのだが、それが今となっては逆に増える一方だった。
寝返った敵兵が女神様の為ならばと、戦争への参加を申し出てくれた。
戦争で心地良い気分にさせられるとは、エリアナの力というのは末恐ろしい。
本当に味方でよかったと思える。
もしかすると、あの約束も───
その時、急に馬車が止まった。
何事かと思っていれば、どうやら行軍を邪魔した者が居たらしい。
若い男だったが目の下にクマが出来ていて、何やら薬の中毒患者かもしれないと報告を受けた。
実際、ドルヴァー公爵の治める領地では、そういう薬が流通していて、砦内ですら数名の中毒患者を見かけた。
それらを片っ端から、エリアナが治療してまわったのだから、目的地の村まで行けば治療できると考えたのだ。
浅はかだった。
俺はその事を若い男に伝えようと馬車から降りた所で、その男に刺されてしまった。
「貴方は・・・ジェイミー様じゃない・・・ジェイミー様を何処に隠した!」
女神を乗せているという体裁上、この場で治療できない事を公にする事も出来ず、急ぎ村に向かったが、その時には毒が全身に回り、俺は起き上がれない程の重体になっていた。
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