魔法使いを夢見る少女の冒険譚

夢達磨

文字の大きさ
61 / 64
第4章裏 決別編

第9話裏 戦いの後に

しおりを挟む

 アクィラを倒し、一息ついたころのことでした。

 アリアは、彼の最後の叫びを思い返しながら、しょんぼりとした表情を浮かべていました。

「なんか、悪いことしちゃったかなぁ……」

 不安そうにぽつりと呟きます。

 ツバキはすぐにアリアの元へ駆け寄り、背中をポンポンッと優しく叩いて励ましました。

「大丈夫ですよ。アリアちゃんは王様を守ったんです。悪いことなんてしていませんよ。胸を張ってください」

 アリアは、これまで獣や竜と戦うことはあっても、人の命を奪ったのはこれが初めてでした。胸の内には重たい罪悪感が芽生えているようです。

「うーん……そうかなぁ? でも、すごく苦しそうだったし……」

 ツバキはゆっくりと頷きながら、静かに語ります。

「そうですね。でも、これは戦いです。何かを成し遂げたい者、独裁者になりたい者、誰かを守りたい者――みんな目的は違っても、命を懸けているのは同じなんですよ。身体を傷つけ、心を痛め、それでも守りたいものがある。だからこそ、今アリアちゃんもここに立っているんです」

 少し間を置き、ツバキは柔らかく微笑みました。

「僕もこれまで、悪い人間は何人も倒してきました。でも、後悔はしていません。この手がどれだけ血で汚れようとも、大切な人を守れたのなら、誇りに思っていいんです」

「そっか……そう考えると、ちょっと楽になったよ!」

 アリアはぱっと表情を明るくし、元気よく笑いました。

「ツバキちゃん、ありがとう! 私も、もっと強くなるね! 下を向いてたらダメだもん! 前に進む!」

「はいっ!」

 ツバキも力強く頷き返しました。

 その後、アリアは灰となったアクィラの遺骸と、彼の武器だった鎌を拾い上げ、洞窟の近くまで運びました。

 地面を手で掘り、灰と鎌をそっと埋め、固めてから静かに手を合わせます。

「お墓を作ってあげたんですね。優しいですね、アリアちゃんは」

「ううん、全然。こんな簡単なのしか作れなくて、ちょっと申し訳ないくらいだよ」

 その時でした。

 突然、近くで大きな爆発音が響き渡りました。

 驚いて音の方を向くと、そこには身長二メートルを超える筋骨隆々とした大男が立っていました。

 その男はニタァと微笑んだかと思うと、次の瞬間、大粒の涙をぼろぼろと流し始めます。

「うおおぉぉ!!! 感動したぁっ! 感動したぞぉぉっ!! 敵であるアクちゃんを悲しむだけでなく、お墓まで作るとは……! なんて優しいんだお前は! 俺っちは感動して涙が止まらんぞぉぉ!!」

「な、なんですかあなたは……?」

 ツバキが少し警戒しながら尋ねます。

 男は涙をぬぐい、その剛腕を振って自己紹介を始めました。

「紹介が遅れてすまなかったな! 俺っちは戦闘型古封異人の一人、アルデバランだ。愛槍の名は爆槍・ミノナルキ、特技はダンスだぜ! 詫びに爆発するダンスを披露してやろう!」

 アルデバランは黒いサングラスをかけ、坊主頭に無精髭。黒のミリタリージャケットを羽織り、肩に大きな槍を担いでいます。

 彼が槍を地面に突き立てると、ポンッという音とともに、槍の先端からカラフルな実が四つ実り、コロコロと地面に転がりました。

 それは高密度の爆実《ばくじつ》と呼ばれる、可愛らしい見た目とは裏腹に爆発する危険な果実です。

「ミュージック! スタートォッ!」

 爆実たちは小さく爆発しながら動き回り、まるでダンスに合わせて踊るように跳ね回ります。

「ヘイヘイッ! 一緒にダンシング!」

「えへへっ……ちょっとだけなら……」

 アリアも照れながら小さく体を揺らし、踊りに合わせました。

 五分ほど踊ると、アルデバランは高らかに宣言します。

「いいねぇ! そろそろフィニッシュといこうかぁ!」

 アルデバランは高くジャンプし、華麗にポーズを決めます。

 着地と同時に、爆実たちはクラッカーのようにポンポンと小さく爆発しました。

「いいフィニッシュだったぜ! 今回は時間がなくて第一節のショートバージョンしか披露できなかったが、次に会った時は第十節まで披露してやってもいいぜ!」

「これで第一節のショートなんですね……。一体、何節まであるんでしょうか」

「俺っちの愛が尽きぬ限り、永遠に続くぜい!」

 そう言って、彼は満足げに笑いました。

「さて、俺っちの役目はここまでだ。そろそろ退散させてもらうぜ!」

「またねー! ダンスのお兄さん!」

「何しに来たんですかね……」

 ツバキがぽつりと呟くと、アルデバランは後ろを指差しました。

 振り返ると、アリアが埋めたはずの土が掘り返されています。

 ツバキは慌てて土を掘り返します。

「あっ! 鎌がなくなっています!」

「そうなんだー」

 アリアは能天気に返事をします。

「俺っちの役目は、君たちの視線をこちらに向けさせることだったのさ! その隙に俺っちの仲間がアクちゃんの鎌を回収する! グワッハッハ!」

「なるほど……だから感動したとまで言って踊っていたのですね。でも、なぜ僕たちにわざわざ話を?」

「ああ、俺っちたちは敵同士。だが、敵の死を悼めるなんて、なかなかできることじゃねぇ。感動したのは本当だぜ」

 アルデバランは豪快に笑います。

「これから人間、魔族、そして俺っちたち古封異人との戦いはもっと激しくなるだろう。俺っちたちは大きな進化を遂げる。だから、この三つ巴の戦いに勝つのは――古封異人だ! グワッハッハ!」

 ツバキは息を呑みつつ問い返します。

「そんな重要な話を、なぜ僕たちに? 誰かに話せば筒抜けになりますよ?」

「言葉や情報ってのはな……誰かに渡れば、時に新たな戦争の火種にもなるもんだ。覚えておくといいぜ! また会える日を楽しみにしてるぜ! アデュオース!」

 アルデバランは爆実を地面に叩きつけ、爆発とともに煙幕が広がりました。

「ゲホッ、ゲホッ……アリアちゃん、離れないでくださいね」

「わぁっ、前が見えなーい!」

 煙幕が晴れた時には、もう彼の姿はどこにもありませんでした。

「……消えましたね。僕たちも今日は戻りましょう。今日聞いた話は、まずガーネットさんに相談した方がいいかもしれませんね」

「あとソフィアちゃんと王様にも!」

「うっ……国王様には、アリアちゃんからお願いしますね……」

「うん! 任せて! 休みなのに来てもらってごめんね! すごく助かったよ!」

「お役に立てたなら嬉しいですよ!」

 二人は笑い合いながら、仲良く王都へと帰っていきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...