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第4章裏 決別編
第1話裏 アリアとビーリスの駆け引き
しおりを挟むビーリスとスパイクが戦闘を繰り広げた直後のことでした。
眠り込んでいるスパイクを、パトラーが屋敷の中へ運んでいる途中、遊んでいたアリアに見つかってしまいます。
「あれ? スパイク先生! どうしたの?」
「外で負傷されているようでしたので……。コトネさん、地下室で手当てをお願いします」
「御意」
すぐに駆けつけたコトネは地下室への扉を開け、スパイクを抱えたまま速やかに階段を降りていきました。
その時、屋敷の入り口が開き、そこにはビーリスと学園長に化けたフィーダーが立っていました。
「あっ! 先生! それに学園長!」
アリアの声に、フィーダーは一瞬顔を引きつらせながらも、「げっ!」と漏らしてしまいます。
「おや、アリアさん。こんな時間まで起きていたのですか?」
「うん、眠れなくて! 先生も怪我してるけど、大丈夫? スパイク先生も意識がなさそうだったし……何があったの?」
心配そうな表情のアリアに、ビーリスは軽く微笑んで答えました。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ただの、大人同士の諍いですよ。命に別状はありませんので、ご安心ください」
「そっかぁ、よかった! 仲直りはしたの?」
「いえ、まだです」
「早く仲直りできるといいね!」
「そうですね……」
ビーリスは複雑な面持ちで、曖昧に答えました。
その時、アリアはビーリスの後ろに控える学園長――フィーダーの姿を見つけ、大きな声で挨拶します。
「学園長、こんばんはっ! こんな時間にどうしたの?」
「こんばんは、アリアさん。二学期の行事について話し合うために訪問しました。それより、こんな時間にアリアさんがここにいらっしゃるとは?」
「先生に手伝ってほしいことがあるって言われたの!」
「ああ、学園長室で言っていた件ですね。納得しました。それでは、これから話し合いに移りますので、失礼します」
フィーダーはそう言い終わると、ビーリスを促しながら奥の部屋へと向かいました。
「またねー!」
アリアは二人が見えなくなるまで手を振り続けました。
廊下の奥で足を止めたフィーダーは、学園長の姿のまま小声で言います。
「アリア・ヴァレンティンがいるなら、早く言ってほしかったですよ」
「それは失礼」と、ビーリスは短く返答しました。
その後、ビーリスはフィーダーを自室へと案内しました。
______________________________________
ビーリスと古封異人との密会が終わり、部屋を退出して廊下を歩いていると、観葉植物の影に潜むアリアを見つけました。
「あれは……アリアさん?」
気配に気づいたビーリスは『眠りの鱗粉』をアリアに気づかれぬよう振りかけながら、声をかけました。
「先生! 今、メリアさんと『かくれんぼ』っていう遊びをしてたの!」
「それは良かったですね。かくれんぼは楽しいですか?」
「うーん、ドキドキするけど……楽しいかと言われると微妙かな?」
ビーリスは微笑を浮かべます。
「ああ、そういえば……私の部屋の扉が動いた気がしたのですが、もしかしてアリアさんですか?」
「うん、ごめんなさい! 隠れる場所を探してたら、中から声が聞こえたから……」
アリアの答えに、ビーリスの表情が曇ります。
「会話は聞こえていましたか?」
「うん、少しだけ。『幻覚を見せる』とか『王様を拉致する』とか『王様を殺す』とか……」
アリアの無邪気な声にビーリスは目を細めます。
「そうですか……その部分を聞かれてしまいましたか。このこと、誰かに話しましたか?」
「ううん、まだ誰にも話してないよ?」
その答えに安堵しつつ、ビーリスはさらに言葉を続けました。
「それはよかった。このことは、私とアリアさんだけの秘密にしてください」
「うん、いいよ! でも、なんでそんなことをするの?」
ビーリスは「眠りなさい」と呟きますが、アリアには全く効きません。
「……? 眠ればいいの?」
ビーリスは驚愕しました。自身の能力が効かないという経験は、初めてだったのです。
「……いえ、独り言です。失礼しました。さて、話を戻しますが、私はある目的のために国王を殺さなければならないのです」
「目的……? でも、王様を殺すのはダメだよ!」
「私には他の道がないのです」
ビーリスは静かに語り続けます。
「こんなことを頼むのは身勝手だと承知していますが、どうか私の邪魔をしないでいただきたい」
「ダメ! 先生の野望を止めてみせるよ!」
その言葉にビーリスは目を伏せます。
「そうですか……ならば、明日すべてをお話しましょう。午前中でしたら時間があります。その上で、もう一度考えていただけますか?」
「うん、分かった!」
ビーリスは一礼し、その場を後にしました。
「あっ! アリアさん見つけましたー!」
背後からメリアの明るい声が響きました。アリアは驚いたように振り返ります。
「あらら、もう見つかっちゃった」
小さく肩をすくめながら、少し照れくさそうに笑うアリア。それを見て、メリアもつられて笑顔を浮かべました。
「そこだと、こちらから丸見えですよー」
「えへへっ、難しいなぁ。でも楽しかった!」
アリアは立ち上がり、手を払うと、ふと思い出したように言います。
「私、そろそろ寝るね! メリアさん、また遊んでねー!」
「はい! こちらこそですー。おやすみなさーい」
こうして、かくれんぼが終わり、アリアはメリアに手を振りながらその場を離れました。月明かりの中、彼女の軽やかな足音が廊下に響きます。
借りている部屋に向かう途中、アリアは立ち止まり、窓の外を見上げました。夜空には無数の星が煌めき、どこか優しい光が辺りを包んでいます。
「先生……大丈夫かな? あんな表情初めて見たかも。――でも、私が止めてみせるよ」
小さく呟くアリア。その表情には、まだ幼さが残る無邪気さと、それでもどこか決意を秘めた大人びた雰囲気が交じっていました。
アリアは深呼吸を一つし、再び歩き出します。静かな夜の廊下を抜けて、自分の部屋へと向かう背中はどこか頼もしささえ感じさせました。
こうして、かくれんぼの夜は幕を閉じ、明日へと続く物語が動き出すのでした。
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