21 / 37
ある意味もっとも頭数の多い正解
第4話
しおりを挟む
鹿児島さんと別れて第二図書室に到着した。その中にいつもと同じようにいたご主人さまの顔つきを見て、なんとも言えない感情を発見した気がする。
「別にわたしの名前を教えてあげても良かったのにどうせ今回の作品が完成すれば、また忘れちゃうんだからさ」
とは言ってくれているけれど本当に鹿児島さんにご主人さまの名前を教えていたら……考えただけでろくな目に遭わないことだけは分かる。
「質問してもいいですか」
「そんなにこわがるなよ。今日のわたしはとっても気分がいいからなんでも答えてあげよう」
これはうそではなさそうか。昼休みに彼がご主人さまになにかをしてくれたのかもしれない。
「どうしてご主人さまは作品をつくるんですか?」
「面白いから」
身体のあちこちに包帯を巻きつけたご主人さまが即答した。その処置に関しても質問をしたかったがただの嫌がらせの可能性が高そうだし。
ご主人さまのご機嫌な理由もそれっぽいのでわざわざ帳消しにするわけにもいかない。
「目的とかがあったり」
「強いていえばユウマくんの撒き餌かな」
第二図書室にいくつかある本棚の一つからご主人さまが人差し指だけで一冊の本を抜きだす。
「それにさまざまな情報を次の世代に伝える手段としてはデジタルよりもアナログのほうが優れている場合もある」
「機械は水に弱いですからね」
「本も水に弱い、それどころか火にも弱いのにどうして優れていると思う?」
「改ざんしづらいからですか」
「正解。便利で扱いやすくて誰にでも簡単にできるというのは同時に、正確な情報がいつでも間違ったものにできるということでもあるからね」
次の世代はその情報が本当に正しいのかどうかをしらべる手段がない。まあ、あるけれどそんな面倒なことをしたくないというのが本音かなーとご主人さまがにやついている。
「そもそも過去の情報が絶対的に正しいとはかぎらないのでは、技術なども単純に進化をしてますし」
「なにをもって正しいのかがそもそも誰にも分からないものだと思うけどね。そのときの基準によっては過去の間違いがそうじゃなくなることもある」
「年上で性格のねじまがったヒロインの作品が受け入れられる可能性はほとんどないかと」
とくにご主人さまは反応しなかった。そのへんの自覚はないようだな。
「ギャンブラーちゃんは作品のヒロイン役が従順なほうが好みなのかい?」
「性格がねじまがっているよりは良いと思います」
「なるほど、勉強になるねー。だったら従順な性格のヒロインのほうがタチが悪いパターンがあるのを作品で教えてあげようじゃないか」
「対抗心ですか?」
「まさか、性格の良し悪しなんてそのときの状況でいくらでもねじ曲げられるということを親切系ヒロインのわたしが優しく伝えてあげるだけさ」
抜きだした本を読みながらご主人さまはそう口にした。
ご主人さまへの経過報告を終えて、階段をおりていき下駄箱の近くでこの前と同じようにおそらくは人間入りのゴミ袋を引きずる熊本さんを見つけた。
角度によってはサンタクロースの真似をしているようにも見えなくもない。
後ろから声をかけるべきか迷ったけど、だまって熊本さんを見守ることに。
天然ドジっ子キャラクターを自負しているらしく誰かに見られているかもしれないという警戒をすることなく移動していく。
下駄箱でスニーカーに履き替えてずるずるとゴミ袋が破れないか心配になりそうな音をだしつつ熊本さんは学校の裏門を通りぬけた。
なにかの歌を口ずさんでいるようで。
「ふん、ふふふふふん。ふふーんっ」
などと熊本さんのほうから聞こえていたり。
最終的な熊本さんの目的地は神社だったようだ。きちんとした神さまがまつられていたのはずいぶん昔のことだと分かるほどにさびれている。
なん回も同じようにゴミ袋を引きずってきているらしく草木のはげたルートを熊本さんは選びながら歩いているっぽい。
ぽちゃん。
そんな音が聞こえた……熊本さんに気づかれないために距離をとっていて、はっきりと見えなかったが彼女が池にゴミ袋の中身を捨てていた。
それにしては音がおかしかったような、人間ほどの大きさのものであればもっと派手に。
ゴミ袋もろとも池に捨てたのか手ぶらの熊本さんを草むらに隠れてやりすごす。奇妙なリズムの彼女の歌声がだんだんと遠ざかっていく。
「きれいな池」
思わずそう口にしてしまうぐらい池は透明で熊本さんが捨てたはずのゴミ袋すら浮いてない。透明度が高すぎるようで底が丸見えで、水面もどこからか分かりづらい。
池の魔力か手をぬらしたくなったが近くに落ちていた木の枝を投げる。さっきと同じぽちょんという音とともにあとかたもなく消えてしまった。
正確には溶けてしまったかもしれない。熊本さんが引きずってきたゴミ袋もろともその中身をこの池が世界から。
「なんでも溶かせるとは便利だな」
「いやー、種類にもよるけど溶かせない石はあったよ。そうじゃないとこの池の水が地球を消せることになっちゃうし」
いつの間にか隣にいた熊本さんと目が合う。彼女に池につき落とされるこちらにとって最悪のシーンが頭の中で完成する。
「キタウミちゃんもゴミ捨て?」
「うん。失敗したラブレターを捨てにきたんだ」
「燃やさないのがキタウミちゃんらしいね」
意味が分からなかったけど、こちらの名前に水の要素があることだとなんとかすぐに気づけた。
「別にわたしの名前を教えてあげても良かったのにどうせ今回の作品が完成すれば、また忘れちゃうんだからさ」
とは言ってくれているけれど本当に鹿児島さんにご主人さまの名前を教えていたら……考えただけでろくな目に遭わないことだけは分かる。
「質問してもいいですか」
「そんなにこわがるなよ。今日のわたしはとっても気分がいいからなんでも答えてあげよう」
これはうそではなさそうか。昼休みに彼がご主人さまになにかをしてくれたのかもしれない。
「どうしてご主人さまは作品をつくるんですか?」
「面白いから」
身体のあちこちに包帯を巻きつけたご主人さまが即答した。その処置に関しても質問をしたかったがただの嫌がらせの可能性が高そうだし。
ご主人さまのご機嫌な理由もそれっぽいのでわざわざ帳消しにするわけにもいかない。
「目的とかがあったり」
「強いていえばユウマくんの撒き餌かな」
第二図書室にいくつかある本棚の一つからご主人さまが人差し指だけで一冊の本を抜きだす。
「それにさまざまな情報を次の世代に伝える手段としてはデジタルよりもアナログのほうが優れている場合もある」
「機械は水に弱いですからね」
「本も水に弱い、それどころか火にも弱いのにどうして優れていると思う?」
「改ざんしづらいからですか」
「正解。便利で扱いやすくて誰にでも簡単にできるというのは同時に、正確な情報がいつでも間違ったものにできるということでもあるからね」
次の世代はその情報が本当に正しいのかどうかをしらべる手段がない。まあ、あるけれどそんな面倒なことをしたくないというのが本音かなーとご主人さまがにやついている。
「そもそも過去の情報が絶対的に正しいとはかぎらないのでは、技術なども単純に進化をしてますし」
「なにをもって正しいのかがそもそも誰にも分からないものだと思うけどね。そのときの基準によっては過去の間違いがそうじゃなくなることもある」
「年上で性格のねじまがったヒロインの作品が受け入れられる可能性はほとんどないかと」
とくにご主人さまは反応しなかった。そのへんの自覚はないようだな。
「ギャンブラーちゃんは作品のヒロイン役が従順なほうが好みなのかい?」
「性格がねじまがっているよりは良いと思います」
「なるほど、勉強になるねー。だったら従順な性格のヒロインのほうがタチが悪いパターンがあるのを作品で教えてあげようじゃないか」
「対抗心ですか?」
「まさか、性格の良し悪しなんてそのときの状況でいくらでもねじ曲げられるということを親切系ヒロインのわたしが優しく伝えてあげるだけさ」
抜きだした本を読みながらご主人さまはそう口にした。
ご主人さまへの経過報告を終えて、階段をおりていき下駄箱の近くでこの前と同じようにおそらくは人間入りのゴミ袋を引きずる熊本さんを見つけた。
角度によってはサンタクロースの真似をしているようにも見えなくもない。
後ろから声をかけるべきか迷ったけど、だまって熊本さんを見守ることに。
天然ドジっ子キャラクターを自負しているらしく誰かに見られているかもしれないという警戒をすることなく移動していく。
下駄箱でスニーカーに履き替えてずるずるとゴミ袋が破れないか心配になりそうな音をだしつつ熊本さんは学校の裏門を通りぬけた。
なにかの歌を口ずさんでいるようで。
「ふん、ふふふふふん。ふふーんっ」
などと熊本さんのほうから聞こえていたり。
最終的な熊本さんの目的地は神社だったようだ。きちんとした神さまがまつられていたのはずいぶん昔のことだと分かるほどにさびれている。
なん回も同じようにゴミ袋を引きずってきているらしく草木のはげたルートを熊本さんは選びながら歩いているっぽい。
ぽちゃん。
そんな音が聞こえた……熊本さんに気づかれないために距離をとっていて、はっきりと見えなかったが彼女が池にゴミ袋の中身を捨てていた。
それにしては音がおかしかったような、人間ほどの大きさのものであればもっと派手に。
ゴミ袋もろとも池に捨てたのか手ぶらの熊本さんを草むらに隠れてやりすごす。奇妙なリズムの彼女の歌声がだんだんと遠ざかっていく。
「きれいな池」
思わずそう口にしてしまうぐらい池は透明で熊本さんが捨てたはずのゴミ袋すら浮いてない。透明度が高すぎるようで底が丸見えで、水面もどこからか分かりづらい。
池の魔力か手をぬらしたくなったが近くに落ちていた木の枝を投げる。さっきと同じぽちょんという音とともにあとかたもなく消えてしまった。
正確には溶けてしまったかもしれない。熊本さんが引きずってきたゴミ袋もろともその中身をこの池が世界から。
「なんでも溶かせるとは便利だな」
「いやー、種類にもよるけど溶かせない石はあったよ。そうじゃないとこの池の水が地球を消せることになっちゃうし」
いつの間にか隣にいた熊本さんと目が合う。彼女に池につき落とされるこちらにとって最悪のシーンが頭の中で完成する。
「キタウミちゃんもゴミ捨て?」
「うん。失敗したラブレターを捨てにきたんだ」
「燃やさないのがキタウミちゃんらしいね」
意味が分からなかったけど、こちらの名前に水の要素があることだとなんとかすぐに気づけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる