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ある意味もっとも頭数の多い正解
第6話
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行方不明の熊本さんの件で疲弊して家に入れるか不安だったが、彼女の母親は娘の友達だと分かるとあっさりと中に自分を案内してくれた。
「ここがノゾミの部屋よ。ごめんなさいね……お茶とかを用意するべきなのに」
とてもじゃないが自分のお腹を痛めてまでつくりだした愛娘とも呼べる存在がいなくなったんだからまともに客人の接客をしろというほうがムリなのはこちらも一応は理解できている。
「おかまいなく。ノゾミさん、きっと大丈夫です」
「そうね。そうよね! あの子はおちょこちょいだけど平気よね」
「はい。なにかノゾミさんの手がかりになりそうなものが見つかったら報告します」
「おねがいね」
彼女の母親に力強く握手をされてしまった。熊本さんがどうなったかはなんとなく分かっているが、さすがに言ってはいけないことだろう。
許可されたとはいえ、おおっぴらにしらべるわけにもいかないと思う。一応は女の子の部屋でもあるんだし。
熊本さんの部屋にはヌイグルミが多くある。奇抜なデザインというべきか縫合されたようなものやら包帯を巻きつけたタイプがほとんどだった。
本は読まない、なんて意思表示でもないと思うが本棚にもいくつかの奇抜なデザインのヌイグルミが置かれている。
そんな熊本さんが唯一好きだった本か、キカイなトモダチ。という絵本の表紙が見えるかたちで本棚に立てかけられていた。
その絵本の内容はシンプルなもので……主人公の女の子がなんのへんてつもない目覚まし時計を友達として接する物語。
一種のイマジナリーフレンド、だったか。絵本の女の子も大きくなり友達だった目覚まし時計を本来の扱いかたをしてしまうという結末。
一般的に販売しているものではなくて手づくりのものらしくセリフやナレーションの文字が明らかな手書き、ではあるが特別なプレゼントだったことはよく分かる。
彼女の母親に詳細を聞こうか迷ったが他人が踏みこむべきところではないと自分の頭が勝手に判断をしていた。今回の件とはそもそも無関係だろうし。
「あったけど……やっぱり破壊されているか」
てっきりあの池に捨てているかとも思っていたがそういえば溶かせないものもあったんだったな。
ご主人さまの手土産でもないけど壊されたそれらの入ったゴミ袋を回収する。もしかしたらなおせる可能性もあるかもしれないし。
土曜日で学校が休みなので、ご主人さまがいるか不安だったがいつものように第二図書室にいた。
机の上に置いたタイプライターに似ている道具を椅子に座るご主人さまが触っている。新しい作品をつくっている最中なら。
「そのゴミ袋、見せてちょーだい」
タイプライターもどきを動かしつつご主人さまがこちらに声をかけてきた。彼女のほうに近づいて、言われたとおりにする。
「ギャンブラーちゃんはユウマくんと違ってわたしの作品づくりに興味があるようで」
ゴミ袋の中身を確認してから、ご主人さまがそう口にした。
「興味があるというよりも今回の件をどういう物語にするつもりか気になっているだけかと」
個人的には犯人がすでに分かっていて物語としての面白みがほとんどバラされている状態だからな。
「熊本ノゾミちゃんを行方不明にしてしまったのは親友のアイちゃんだと思っているんだね」
「ええ。そうですね」
直接的ではないだろうけど、と伝えるまでもなくご主人さまはこちらの気持ちが分かったのかつまらなさそうな顔をしていた。
「ギャンブラーちゃんはユウマくんと友達になれたとしてなにかしらのルールをつくるかい?」
「お互いに相手を殺そうとしない、ですかね」
「少なくとも彼は一般人だ。そんなルールをつくらなくてもギャンブラーちゃんを殺そうとしないよ」
「だったらお互いに自分のルールを押しつけないになりますね」
「ユウマくんにそんなものはないだろう。わたしもギャンブラーちゃんも普通の人間も自分も同じ存在だと考えるようなタイプなんだから」
そこがかわいいんだけどね、とご主人さまが楽しそうに笑う。そんな性格じゃなければ彼も好かれることもなかったに違いない。
「今回のことを彼にたのまなかった理由が分かった気がします」
「ユウマくんは自分で思っているよりスクールカーストが高い存在だからねえ」
「やっぱりそれが熊本さんの殺人衝動の根っこなんですか?」
「そこまで単純明快でもないと思うよ……殺された二人はその殺人鬼ちゃんよりも人気で地球に必要のない存在だと判断されてしまっただけだとわたしは勝手に思っている」
すでにこの地球から消えた熊本さんの考えかたが神さまみたいだとでも。いや、そんなことはありえないと言いたそうにご主人さまが腹をかかえる。
「必要かどうかなんて地球にしか分からないのに、そういう善意みたいなものを殺人の動機にするとは面白い女の子だったよね」
「スクールカーストが上位である必要なんて」
「そっちは殺人鬼ちゃんのエゴだよ。ただスクールカーストが上位の存在を殺すだけなんて普通の人間がしたらいけないことでしょう?」
「普通の方はできるだけ同じ種類の生きものをそもそも殺さないと思いますが」
「武器をつかえば簡単にできるじゃん」
「そうですね」
つっこんでよ、と言いたそうにご主人さまが頬をふくらませていた。カワイラシカッター。
「ここがノゾミの部屋よ。ごめんなさいね……お茶とかを用意するべきなのに」
とてもじゃないが自分のお腹を痛めてまでつくりだした愛娘とも呼べる存在がいなくなったんだからまともに客人の接客をしろというほうがムリなのはこちらも一応は理解できている。
「おかまいなく。ノゾミさん、きっと大丈夫です」
「そうね。そうよね! あの子はおちょこちょいだけど平気よね」
「はい。なにかノゾミさんの手がかりになりそうなものが見つかったら報告します」
「おねがいね」
彼女の母親に力強く握手をされてしまった。熊本さんがどうなったかはなんとなく分かっているが、さすがに言ってはいけないことだろう。
許可されたとはいえ、おおっぴらにしらべるわけにもいかないと思う。一応は女の子の部屋でもあるんだし。
熊本さんの部屋にはヌイグルミが多くある。奇抜なデザインというべきか縫合されたようなものやら包帯を巻きつけたタイプがほとんどだった。
本は読まない、なんて意思表示でもないと思うが本棚にもいくつかの奇抜なデザインのヌイグルミが置かれている。
そんな熊本さんが唯一好きだった本か、キカイなトモダチ。という絵本の表紙が見えるかたちで本棚に立てかけられていた。
その絵本の内容はシンプルなもので……主人公の女の子がなんのへんてつもない目覚まし時計を友達として接する物語。
一種のイマジナリーフレンド、だったか。絵本の女の子も大きくなり友達だった目覚まし時計を本来の扱いかたをしてしまうという結末。
一般的に販売しているものではなくて手づくりのものらしくセリフやナレーションの文字が明らかな手書き、ではあるが特別なプレゼントだったことはよく分かる。
彼女の母親に詳細を聞こうか迷ったが他人が踏みこむべきところではないと自分の頭が勝手に判断をしていた。今回の件とはそもそも無関係だろうし。
「あったけど……やっぱり破壊されているか」
てっきりあの池に捨てているかとも思っていたがそういえば溶かせないものもあったんだったな。
ご主人さまの手土産でもないけど壊されたそれらの入ったゴミ袋を回収する。もしかしたらなおせる可能性もあるかもしれないし。
土曜日で学校が休みなので、ご主人さまがいるか不安だったがいつものように第二図書室にいた。
机の上に置いたタイプライターに似ている道具を椅子に座るご主人さまが触っている。新しい作品をつくっている最中なら。
「そのゴミ袋、見せてちょーだい」
タイプライターもどきを動かしつつご主人さまがこちらに声をかけてきた。彼女のほうに近づいて、言われたとおりにする。
「ギャンブラーちゃんはユウマくんと違ってわたしの作品づくりに興味があるようで」
ゴミ袋の中身を確認してから、ご主人さまがそう口にした。
「興味があるというよりも今回の件をどういう物語にするつもりか気になっているだけかと」
個人的には犯人がすでに分かっていて物語としての面白みがほとんどバラされている状態だからな。
「熊本ノゾミちゃんを行方不明にしてしまったのは親友のアイちゃんだと思っているんだね」
「ええ。そうですね」
直接的ではないだろうけど、と伝えるまでもなくご主人さまはこちらの気持ちが分かったのかつまらなさそうな顔をしていた。
「ギャンブラーちゃんはユウマくんと友達になれたとしてなにかしらのルールをつくるかい?」
「お互いに相手を殺そうとしない、ですかね」
「少なくとも彼は一般人だ。そんなルールをつくらなくてもギャンブラーちゃんを殺そうとしないよ」
「だったらお互いに自分のルールを押しつけないになりますね」
「ユウマくんにそんなものはないだろう。わたしもギャンブラーちゃんも普通の人間も自分も同じ存在だと考えるようなタイプなんだから」
そこがかわいいんだけどね、とご主人さまが楽しそうに笑う。そんな性格じゃなければ彼も好かれることもなかったに違いない。
「今回のことを彼にたのまなかった理由が分かった気がします」
「ユウマくんは自分で思っているよりスクールカーストが高い存在だからねえ」
「やっぱりそれが熊本さんの殺人衝動の根っこなんですか?」
「そこまで単純明快でもないと思うよ……殺された二人はその殺人鬼ちゃんよりも人気で地球に必要のない存在だと判断されてしまっただけだとわたしは勝手に思っている」
すでにこの地球から消えた熊本さんの考えかたが神さまみたいだとでも。いや、そんなことはありえないと言いたそうにご主人さまが腹をかかえる。
「必要かどうかなんて地球にしか分からないのに、そういう善意みたいなものを殺人の動機にするとは面白い女の子だったよね」
「スクールカーストが上位である必要なんて」
「そっちは殺人鬼ちゃんのエゴだよ。ただスクールカーストが上位の存在を殺すだけなんて普通の人間がしたらいけないことでしょう?」
「普通の方はできるだけ同じ種類の生きものをそもそも殺さないと思いますが」
「武器をつかえば簡単にできるじゃん」
「そうですね」
つっこんでよ、と言いたそうにご主人さまが頬をふくらませていた。カワイラシカッター。
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