こどくな患者達

赤衣 桃

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質疑応答①

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「わたしが犯人と人間になるためには、ばらばらにならないといけないんだ」
 シイが分解されずに犯人と人間になる方法はないんですかと聞いたら彼女に笑われた。
 どうやらわたしの質問は変だったらしい。
「可能性が全くないとは言えないが、ハチはわたしが犯人と人間になることを反対しないのか」
「シイの望みをわたしが否定する理由もないので」
 それからシイはこれからこの館で起こそうとすることやわたしたちの秘密についても教えてくれる。
「今のが本当だとしたら、わたしたちはシイのために壊されないといけませんね」
 わたしの頭をシイが撫でてくれた。
「でも、わたしが皆に秘密を漏らすとは考え」
「ハチだからこそ話せたんだ。おそらく今の話も」



 アンドロイドではあるがエネルギー源である部分を心臓。ハートの形にする必要はあるのだろうか。
 月曜日の朝方、恒例である白衣姿の博士との面談中に肉体から機械仕掛けの心臓を取り出されるたびにわたしは考えていたはず。
「また忘れてしまうだろうけど、わたしの個人的な趣味だとしか答えられないね」
 いくつものチューブがくっつくわたしの心臓を、博士が台座のようなマシンの上に置いた。
 わたしの肺や胃腸を見たくないからか博士がファスナーを半分ぐらい閉じる。本体からもチューブが伸びている心臓に、彼が追加で管を差しこむ。
「博士。わたしの本体はこちらですよ」
 会話は相手の目を見ながらするんだよ、と教えてくれた博士本人が実践できないとは残念だ。
「ごめんごめん。きみたちはこちらの心臓からつくられたからさ、どうしても勘違いしてしまうんだ」
 博士は心臓を撫でているはずなのに、背中を触られたような感覚がある。
「言い訳よりもきちんと謝罪するほうが良いかな」
「博士の言っていることも分からなくありません」
「ハチが寛大で助かったよ」
「ありがとうございます」
 頭の中のデータから引き出した感謝の言葉を口にしただけなのに博士がにやつく。
「今の台詞は博士を笑わせられるような面白いものではないと思うのですが」
「個人的には面白かったんだ。わたしとハチの笑いのツボが違うから発生してしまったイベントさ」
 博士の説明は理解できるが今回はギャグなどではないので笑われないはずなのに。
「ハチ的には不本意だったか、次に同じようなことがあっても笑わないから安心してくれ」
 表情からこちらの考えを読み取られたらしい。
 博士は回転椅子をぐるっと動かして机の上のモニターに肉体の正面を向ける。
「立ちっぱなしだと疲れてしまうよ、ハチ」
「わたしたちに疲れるという機能はなかったかと」
「きみたちをアンドロイドだなんて思っていない。人間と同じ存在とわたしは認識しているからね」
 心臓を取り出した状態じゃなければハチの可愛いへそを触っていただろう。キーボードを指先で叩く博士の右目がこちらを見た。
 セクシャルだっけ、アンドロイドでも姿形が女性だから博士の邪悪な部分を刺激してしまうとは意外とわたしは罪深い存在のようだ。
「他の子たちとは仲良くできているかな」
 パイプ椅子に座り、キーボードを指先で叩く博士を観察に夢中だったようで反応が遅れる。
「話しかけられるぐらいには好かれています」
 お喋りが嫌いではないけど、改めて考えてみるとこちらから話しかけた回数は少ない。
「逆にわたしから質問とかをすると基本的にタイムラグや奇妙な行動があったりします」
 博士的に興味のある話題だったようで指先でキーボードを叩くのをやめて、こちらと目を合わせた。
「具体的にはハチは相手になにをされるんだい」
「サンの場合は、わたしが話しかけると素早く後ろから抱きしめてきます」
「彼女に背中を向けて声をかけたりするからそんなことをされたのかもしれないね」
 当時は後ろ歩きがマイブームではなかったことを博士に伝える。
「その時のハチはサンに用事でもあったのかな」
 言われてみれば、基本的に相手が先に挨拶や話をしてくれるんだから。考えすぎて疲れてきたようで眠くもないのに目を閉じてしまいそうになる。
「おそらく、サンが眠そうにしていたから話しかけたくなったんだと」
 アンドロイドが低血圧というのも変だけど、ふらふらと廊下を歩くサンが心配になったんでしょう。
「サンは抱き枕がないと眠れないタイプだからハチをぬいぐるみだと勘違いした可能性もあるな」
 今のは聞かなかったことにしよう。サンに口封じとして永遠に抱き枕にされかねない。
 他のアンドロイドにも話しかけたかどうかを博士に質問されて、イチとナナと答えた。
「イチもこちらから挨拶するとハチも女の子らしくなったわね、と頭を撫でてきました」
「サンと同じで彼女も欠伸をしていたのかい」
 大きく首を横に振って否定する。
「悪戯ですかね。イチがずっと追いかけてきて目が合っても、話しかけてこないので挨拶しました」
「イチらしいやり方だな」
 メモを取っているようで机の上の紙に博士がペンを走らせる。関係は良好と日本語で書いていた。
「イチやサンと別のパターンだと思うんだが、ナナにはどんな理由で先に」
「その前に博士に確認したいことがあります」
「わたしは可愛らしいアンドロイドも愛せるタイプの生物だよ」
「アンドロイドのへそが好きなんですから人の道を外れていても変じゃないと思います」
 博士が微笑する。七階の図書室にある小説を読む父親が幼い愛娘の遊ぶ姿を見ている時のようだと、彼の感情を勝手に想像してしまう。
 なぜか博士がわたしに謝罪をする。
「別にわたしは怒っていません」
「儀式みたいなものだよ。本当に謝ってないのさ」
「勉強させてもらい、ありがとうございます」
「ハチはやっぱり面白いね」
 博士が先程のものと種類の違う笑顔を浮かべた。
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