こどくな患者達

赤衣 桃

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質疑応答②

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「話を戻そうか、わたしに質問したいんだっけ」
「正確にはナナからの伝言です。ネジを外すのは頭だけにしておいたほうが良いですよ、だったかと」
 わたしが不安そうだからか博士が、合っているよと答えてくれた。
「メンテナンス中にナナにも言われたからね、解答まで添えられて」
 ハチの心臓が取れやすいようにネジを緩めていたのがナナにばれていたらしい。
 という博士の言葉を聞いて首を傾げてしまう。
 こちらの反応が面白いのか博士は目を細めて人間なら意地が悪そうだと思われそうな表情をする。
「どうしてだと思う」
 わたしの心臓を固定するためのネジを緩めた理由を聞いているのだろう、言葉足らずだけど。
「悪戯とか嫌がらせの類い」
「間違いでもないが正解とも言えないな」
「うっかりミスを隠したかった」
「考えすぎだね。わたしの性格を把握している存在からすればそんな答えは出てこない」
 ナナが伝言を頼んでいるし、意図があると考えるべきだよと博士が続けた。
 心臓の理由をこちらから知りたいと言ってないのにいきなり説教されたような気分だ。アンドロイドのわたしに感情はなかったはずなのに。
「降参するので答えを教えてくれませんか」
「勝負していたつもりはないが順番に解説しよう」
 まずなにかのきっかけで心臓が取れてしまいハチは驚いた、博士がわたしに確認をする。
「昨日、廊下で激しく転んだせいで心臓が取れたとわたしは思っていました」
 本当は博士の嫌がらせだったがその時は焦った。心臓がなくても一日は平気みたいだけどお腹の中で暴れ回って、なんとも言えなかったし。
「色々と考えましたが、どうしようもないしお腹も空いたので夕食を頂くことに」
「自称アンドロイドらしく冷静な判断だね。それで夕食をとりながらナナに相談を」
「心臓なしでもしばらくは平気だと知っていたので博士の来る次の日までなら保つと放置しました」
「ハチはチャレンジャーだな」
 博士がメモ書きしようとしたがやめてしまった。
「他の誰かに相談しようとは考えなかったのかい。確かニイがハチと親しいと言っていた記憶があるんだが」
「エネルギーの消費を最小限にすることを優先していたのでニイとの会話も控えていたんでしょう」
 納得してもらえたようでペンを一回転させてから博士が紙に文字を書く。わたしがまじまじ見ていたからか日本語ではなく多分、英語でメモしている。
「だとするとナナがハチの違和感に気づいたのか。好奇心旺盛なきみが大人しいのを不思議に思った、というところかな」
 ナナ本人も同じことを言っていたっけ。わたしの記憶と矛盾をしてそうだが、大まかな出来事は合致するので気にしないでおこう。
「一応、ナナにも確認をしておきます」
「聞く必要はないよ、その答え合わせもすでにナナとしているからさ」
 ハチには自分の個性とも呼ぶべき機能を自覚してもらおうか、と博士が提案をしてきた。
「次の月曜日までにハチにしかない機能がなにかを考えるのが今回の宿題だ」
「答えが間違ってたらペナルティがあるんですか」
「特にない。次回の話題を決めておこうとしただけさ、気軽に宿題と向き合ってくれ」
 興味はないかもしれないが、心臓のネジを緩めた理由はナナに聞くと良い。彼女のほうが説明は上手だから。
 なんて博士の台詞がわたしの頭の中を左から右に通過する。今日は覚えることが多くて大変だ。
 きちんと心臓のネジを締めると博士がへその近くのファスナーを真っ直ぐに首へと戻していく。
「もしかしたら心臓を取り出すたびに帝王切開している気分になるのがわたしだけの個性」
 やんわりと間違いだと博士に指摘をされた。
 膝の上の畳んだ青いブラジャーと灰色のパーカーを博士の目の前で身につける。彼が苦笑をした。
「余計なお世話だと思うけど、たまにはイチにコーディネートしてもらったらどうだい」
 女性同士、アドバイスをもらえるかもしれないと博士がオブラートに包むように話している。
「選んでもらったスカートを穿いた時に転んで心臓が取れたのでトラウマだったりします」
「すまないね。辛い記憶を思い出させてしまって」
「お気になさらず、二階に生息をするトラウマにも同じように話したりできてます」
「二階の動物とは会話できなかったはずだがわたしの記憶違いだったかな」
 それよりシイに心臓のネジを締めてもらったこと以外に、博士に話があったような。
「博士に相談してみたかったりするのですが」
「ハチがわたしに話したいことがあるのならいくらでも聞くよ」
 わたしがパイプ椅子に座りなおすと、前のめりになっている博士と目が合った。
「アンドロイドなのに人間みたいに夢を見たのですが、どんな内容か忘れてしまったので博士に聞こうかと思って」
 ハチが見た夢の内容までは分からないと言い博士が回転椅子に凭れかかる。
「力になれなくて、すまないね」
「気にしないでください。色んなことを忘れるのはハチにしかない特別な特徴と言ってくれたのは博士ですし」
「宿題の答えを聞かされるとはハチらしいことで」
 博士の呟きはこちらまでは聞こえなかった。
「今日もメンテナンスをありがとうございました。では、また月曜日に」
「さようなら。また月曜日に会おう、ハチ」
 軽く頭を下げて部屋を出る。すぐに扉を開けたがすでに博士の姿はどこにもない。
「この館には外に出るための扉がないのに、博士はどうやって消えているんでしょうか」
 博士が座っていた回転椅子を見つめつつ、無意味な質問をしていた。誰も答えを教えてくれないのは知っているのに。
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