こどくな患者達

赤衣 桃

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人間に憧れる①

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 三階の博士の部屋から朝食を頂こうと二階のほうに向かっていると、食堂から出てきたであろうゴウと南の階段で会った。
「おはようございます、ゴウ」
 踊り場で立ち止まったゴウを見上げて黒いチョーカーに視線を向けながら挨拶をした。
 バイクに乗る人間が着てそうな革ジャン姿のゴウが右手で赤い唇を覆い隠して目を潤ませる。
「まじか、あのハチが挨拶をしてくれるなんて」
 わたしがどんなイメージかはさておき、ゴウ的に嬉しい出来事だったようでこちらの両肩を叩く。
「自分で考えたのか、別に誰かに注意されたとしてもハチが実行した時点で良いことなんだが」
「一応、自ら挨拶しようと思いました」
「やるじゃん、ハチ。頭を撫でてやるぞ」
 イチとは違うやり方で頭が左右に激しく揺れる。肉体の部品が耳から出てきそうな錯覚に陥った。
「お褒めの言葉をありがとうございます」
「感謝の言葉はいらねーよ、ハチの思考に感動しているんだから。これでじじいのメンテナンスがなければ今の三倍は晴れやかだったのによ」
 じじいと呼ばれるほどの見た目でもなかったはずだけど、博士のことを言っているんだろう。
「ゴウは博士が嫌いなんですか」
「好きだが、メンテナンスが苦手なんだ。首のファスナーを開け閉めしなきゃいけないしさ。なにより服を脱ぐのがな」
「着脱だけはどうしようもないのでは、お風呂だと考えれば多少は軽減されるかと」
 ゴウが自分のショートカットの髪をかきむしる。
「ハチには理解しにくいかもしれないが自分が女のアンドロイドと認識させられるのが嫌なんだ」
 ロボットだからどちらの性別でも関係なさそうだがゴウにとっては重要なようだ。
「問題を解決できなさそうでごめんなさい」
「ハチが謝る必要ない。わたしが勝手に悩んでいるだけなんだし、話を聞いてくれてありがとうな」
 にしてもロクもハチぐらい可愛げがあったらな。わたしもどうこう言えた性格じゃないけど双子ならよ、考えかたが似ても良さそうだと思わないか。
 などと愚痴をこぼすゴウが、わたしの左右の頬を引っ張る。
 またロクとなにかあったらしい。詳しく聞きたいが以前のサンみたいに刺激すると手足が外れるほどの喧嘩になる可能性もあるし、どう答えたら。
「双子でも他人ですからね」
「今日はドライなことを言うじゃないか、ハチ」
 ゴウがこちらに顔を近づけてきた。わたしの言葉ではなくてナナに助言してもらった通りの台詞だと見抜こうとしているのかもしれない。
「なんにしても喧嘩は良くないです」
「今のがハチの本音だとすると、さっきのはナナのアドバイスか。本人にもお礼を言わないとな」
 その前にハチにお礼のキスをするべきか、ゴウが眠りそうな目つきで唇を重ねようと。
「ゴウ。ハチはわたしと朝食の約束をしているからそろそろ食堂に行かせてもらえない」
 お互いの唇がくっつきかけたところでニイの声が聞こえた。ゴウが大きくて確認できないけど彼女で間違いないと思う。
 そうなのか、ハチと言いたそうにゴウがこちらに視線を向ける。
 誰かと約束をした記憶はないが、わたしが忘れているだけのはずなので肯定しておいた。
「じじいだったら嘘の可能性も考えないといけないが、ニイと約束していたんだろうな」
 邪魔して悪かった。ゴウは軽く謝り、わたしの頭を前後に動かすように撫でる。数本の金属の髪の毛に別れの挨拶をされてしまった。
「忘れやすい機能、次の月曜日にじじいに修理してもらえるように頼んでおいてやろうか」
「廊下で転んで心臓が取れたことを忘れたいので、このままで良いと妥協していたりします」
「ハチが納得しているなら文句はねーよ。次は階段から落っこちないように気をつけろよ」
 わたしに注意するとゴウはニイの横を通り抜けて三階へと移動した。
 ナナに関することでゴウに質問があったような、こういう時に思い出せる機能があれば便利なのに。
「おはようございます、ニイ」
「おはよう。ハチも自分から挨拶することを覚えたようね」
 ニイが抱きしめてくると思ったが勘違いだった。
 唸り声を上げつつ顔を左右に動かして彼女が青く長い髪を揺らす。
「奇麗な黒髪がぼさぼさになっているわよ。ハチも女の子なんだから、ちゃんとしないと」
 ファンキーだったわたしの髪の毛がニイによって整えられる。寝癖のある彼女に身だしなみチェックされているのは奇妙な感じだ。
 寝癖のことを伝えるべきなのは分かっているが、オブラートの包みかたについて博士に言われた記憶があるし。
「わたしも不良な髪の毛を更生させてみたいです」
 くすくす笑うニイから許可をもらい青い髪に指を通していく。
「わたしの不良な髪の毛は更生されたかしら」
「反抗期だっただけのようです」
 わたしと同じぐらいの大きさのニイと目が合う。不良な髪の毛はもう存在しないけど彼女が満足するまで頭を触らせてもらった。



「ニイ、ハチ、仲良く朝飯か」
 いくつもの窓から射しこむ紫色の光に照らされた廊下を歩いてニイが食堂の扉を開けようとすると、中からスウェット姿のサンが出てきた。
 膨らんだお腹を触り、ポニーテールのサンは幸せそうな様子。
 なにかを期待してか隣に立つニイが輝かせる瞳をわたしに向けた。サンも同じようにこちらを見る。
「ニイ、今日はまだ朝だよな」
「窓から射しこむ光が紫だからね」
 時間帯によって窓から射しこむ光の色が紫、赤、青の順番で変化していたっけ。
「窓の外には三色ライトがあったりするんですか」
「ライトというより太陽の存在が見え隠れするせいで色が変わったように感じてしまうかしら」
 なんて説明をするニイがサンとアイコンタクトを交わす。
 窓の外に興味が湧いてしまったようだな。という感じの表情をサンが表現している、多分だけど。
「正確に言えば、そういう風に見える機能にされているね。色素認識レベルが低いせいで細かい判別ができないとか博士が言っていたわ」
 紫は朝、赤は昼、青は夜と覚えておけって話だなとサンがニイの難しい話を簡単にまとめてくれた。
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