こどくな患者達

赤衣 桃

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現実しか見せてくれない①

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「心臓を交換する発想はともかくナナがそんな立証しづらいことを確信するとは思わなかったな」
「意地悪を言うなよ。立証できたから推理ショーをしているんじゃないか」
 ナナの言葉に思わず、ニイとわたしは彼女に視線を向けてしまう。
「どういう意味ですか、ナナ」
「シイがサンの心臓を抜き取り、交換したのを立証するためにわたしは実験したんだよ」
「ナナ、前にも言ったよな。そういう歪な自己犠牲が駄目だと。実験はわたしとロクが同意してやったんだ、勝手に悪役になるなよ」
 わたしの左隣にいるロクがゴウみたいにではなく姿は違うが彼女本人で、ナナの話が本当だったら。
「シイが本当にサンと入れ替わっているのか調べるためにゴウとロクの心臓を交換した」
「本当はシイしか知らない情報を引き出させてから今の話をする予定だったが、ここまで用意周到だし自白させるしか方法がないと思ったのさ」
 ハチの言葉で罪悪感を刺激されたのか、あっさり白状してくれたけどね。ナナが注意深くシイを観察している。
「こんな推理ショーをする時点で入れ替わっているのを確信した相手に嘘は無意味だし」
 とにかく話の続きをしてくれよ、犯人のわたしが種明かしするのは野暮でしょう。
 なんて言いながらシイは楽しそうに笑った。
「サンとシイが入れ替わっていたのなら、あなたが殺されたと思った日の朝に見かけた彼女は」
「サンとは朝食の後で会う約束だったから、ニイが見かけたのは本物だ」
 偽装のためにトレーニングをするほど、わたしは俳優じゃないとシイが説明を続ける。
「その約束を利用して自分の部屋に招き入れたサンを殺したんだな」
「利用はしてないよ。サンは館の外に出たいようだから一階の開かない扉をどうにかする方法を一緒に考えないかと誘っただけさ。相談料が自分の命だとは教えてなかったけどね」
 ゴウに返事をしながらシイは怒っているであろう彼女の顔を見てもあっけらかんとしていた。
「美人が台無しだよ。もっとにこやかな表情をしたほうが良いんじゃないかしら」
「わたしを怒らせているからだろう。分かっているのかどうか知らないがよ、サンの純粋な思いを踏みにじったんだぞ」
 ついでに言うと美人なのはロクだ。わたしの本来の顔はあれなんだからな、ゴウが自分の顔になっている彼女を指差す。
「結局、動機はなんなのよ。メッセージに書かれていた人間になりたいから」
「ニイ以外は知っているんだし、聞いてみれば」
 シイが自信満々な様子なので推測は当たっていると考えて間違いなさそうか。外れていても好転する訳でもないけれど、それでも。
「ハチもシイの動機を知っているの」
「覚えてないのでニイには教えられません」
「ハチも話すべきじゃないと思っているのなら今はタイミングが悪いのね」
 わたしの嘘がばれていたのか、気持ちを察したのかは分からないがニイは他の皆にも動機については聞かなかった。
 ニイは気になってないようだがゴウとロクが心臓を交換していたのがどことなく違和感がある。
 ゴウはともかくロクに心臓を交換することを同意させる方法が個人的には思いつかない。
 もしかするとわたしが知らないだけでロクは死にたがりだったりするのかな。
 じろじろと見ていたからか、ロクがこちらに顔を向けた。
「ハチ、わたしに聞きたいことでもあるの」
「死んでしまう場合もあったのに、どうしてゴウと心臓を交換してくれたのかと」
「心配してくれてありがとう。わたしにもメリットはあるから気にしないことね」
 詳細を教えてくれるつもりはないようで、ロクはシイを警戒するのを再開してしまった。
「ゴウもロクも怖いな。推理ショーが終わるまではなにもするつもりはないよ」
 そんなに心配だったら逆立ちしておこうかとシイが冗談を口にする。
「シイが退屈みたいだから、さっさと続きを話してくれない。わたしも隣に犯人がいて気分が悪くて、今にもばらばらになりそうだわ」
「相変わらずロクは悪態が上手なようで」
 ゴウが今にも噛みつきそうなほど怒っているのに気づいてかシイが視線を向けた。
「ところで斧はサン本人がシイの部屋に持ってきたのかい、なにかしらの身の危険を感じてとか」
「丸腰だったよ。斧があろうがなかろうがバトルになった時点でわたしなんか手も足も出ない、というかサン以外の全員でも根本的に無理な話」
 罠を仕掛けていたが正直、サン相手に通じるかは五分五分だった。当時のことを思い出してかシイが冷や汗をかいている。
「結果は見ての通りさ。斧はサンが回収をしていたみたいで部屋にお邪魔させてもらった」
 廊下でイチと出会ってサンと斧について聞かれた時はかなり焦ったなとシイが語る。
「ニイも連れてこれているし、殺したサンの頭部で部屋の扉を開けたとは考えてないでしょう。そっちの件が分かったからこそ心臓の交換にも」
「本人の解説はありがたいが、先にイチの殺害方法について説明させてくれないかい」
「悪い悪い。変な話だが自分の計画していたことを誰かに解いてもらえるのが」
「ゴウ、まだ怒ったら駄目ですよ」
 シイに殴りかかろうとしたゴウをわたしは羽交い締めにした。先程の自分の台詞が変だと理解できているのに心臓の動きが激しいような。
「ハチ、どいてろ。こいつだけは一発ぶん殴らないと気が済まない」
「ぶん殴りたい気持ちは分かるけど落ち着いて」
「落ち着けだと、これでも我慢した。自白しているんだ、こいつを」
「ゴウ、わたしとの約束を本当に守ってくれるなら冷静になってくれない」
 ニイやゴウやわたしと違い冷ややかなロクの声を聞き、羽交い締めにされた彼女は落ち着こうとしているらしく深呼吸を繰り返す。
「もう大丈夫だ。安心してくれよ、ハチ」
 まだ肩で息をしているけれどゴウの言葉を信じて離れ、わたしは元の位置に戻った。
「サンキュー、ハチのおかげで助かったよ」
 シイにお礼を言われたので頭を下げておいた。
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